『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第100話 最下層の討伐者たち⑥ 後編

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  ◆リーダー視点◆

「ぐ、ぐは・・・」
 視界が傾いでいく。
 音が遠ざかる。
 でも、痛みだけは鮮明だった。

 胸の奥が焼けるように熱い。
 それは、傷のせいじゃない。
 自分が、真っ先に倒れたことへの悔しさだった。

「・・・俺が・・・一番に・・・」
 盾であるはずの自分が、最初に崩れた。

 仲間を守るはずだったのに。
 誰よりも慎重に、誰よりも冷静に、そうやって築いてきた連携が、今、音を立てて崩れていく。

「・・・ああ、やっぱ・・・俺がいないと、こうなるんだな・・・」

 魔職が叫ぶ。
 索敵が沈黙する。
 誰もが、動けなくなっていく。
 それは、彼がいなくなったから。
 それは、彼が『いなくなった時』のことを、考えていなかったから。

「・・・俺が・・・教えておくべきだった・・・」
 自分がいなくても、動けるように。
 自分がいなくても、守れるように。
 そうしておけば、こんなことにはならなかった。
 それが、今さらになって胸を締めつける。

 必要なことだとはわかっていた。
 だけど、いざ口にしようとするとなぜか言い出せなかった。
『俺が守ればいい』。結局はそう言い聞かせて、うやむやにしてきた。
 
 そのツケが来ている。
 最悪の形で。

「・・・ごめんな・・・・・・」
 誰に向けた言葉かは、わからなかった。
 でも、腕の中に感じる温もりが、彼の心を揺らした。

 サブリーダーが、震える手で彼を抱き寄せていた。
 血に染まりながら、声も出せずに。
 その腕は、弱くて、でも確かだった。

「・・・お前・・・泣いてるのか・・・・・・?」
 彼女の顔は見えなかった。
 でも、頬に触れる雫が、彼にすべてを伝えていた。

「・・・ありがとな・・・・・・」
 その言葉は、声にならなかった。
 でも、彼の心の中では、何度も繰り返された。

 ありがとう。
 最後に、俺を抱きしめてくれて。
 最後に、俺のことを見てくれて。
 最後に、俺の盾になろうとしてくれて。

「・・・お前なら・・・・・・きっと・・・・・・」
 その先の言葉は、もう出なかった。
 でも、彼の瞳には、サブリーダーの顔が映っていた。
 涙で濡れたその瞳が、彼の最後の希望だった。

 そして、彼の視界は、静かに閉じていった。

 ◇

「待望の『ラブロマンス』かな?」

 カルマが、ウィンドウから目を上げて問う。
 確か、それを望んだ奴がいたよな?
 誰だったかは、もう覚えていない。
 あるいは、最初から覚える気もなかったのかもしれない。

 答えは、ない。

「でもさ、彼らは幸せだよ」

『シデムシ』や『メガネウロ』を回収に向かわせながら、カルマは、背を向けたまま囁いた。 その声は、どこか遠く、どこか冷たい。

 周囲に待機していた妖怪たちが、その言葉に、わずかにざわめく。

「オレの死には、誰一人、涙をくれなかったからね」

「「「「「「?!」」」」」」

 ざわり、と空気が揺れた。
 誰も、言葉を返さなかった。
 ただ、沈黙が広がった。

 カルマは、振り返らない。
 の背中は、まるで『何か』を拒絶するように、まっすぐだった。

 彼の目には、まだウィンドウの映像が映っていた。
 サブリーダーが、崩れたまま笑っている。
 リーダーの血に染まりながら、誰にも届かない想いを抱えて。

 カルマは、ふっと笑った。
 それは、喜びでも、嘲りでもない。
 ただ、『知らなかった感情』に触れた者の笑みだった。

「・・・いいね。次は、もっと綺麗に壊してみようか」

 その声に、誰も返事をしなかった。

 ◇

 左翼も、状況は同じだった。

 リーダーは、よく言えば大胆。
 悪く言えば、無謀。
 その差は、結果で決まる。

 そして、結果は出た。
 右翼よりも、崩れるのが早かった。

 後詰に続いて、先駆けも壊滅したことになる。

 正確には、先駆けB班の5人がまだ活動中だ。
 露払いを続けている。
 だが、36人いた中の5人。
 残ったのは、わずか一割強。

 それを『壊滅』と呼ばずして、何と呼ぶ?

 誰も、答えない。
 誰も、問わない。
 ただ、数字だけが、静かに並んでいく。

 生存者:5名。
 戦闘不能:31名。
 戦死:不明。

 そのウィンドウを見つめる者の目に、感情はなかった。
 ただ、次の一手を考えるだけ。
 次の『演出』を整えるだけ。

 ◇

 空虚な笑いが木霊する通路。
 サブリーダーは、血に染まった盾をそっと拾い上げた。

 それは、涙の代わりだった。
 それは、彼の背中を継ぐためだった。

 盾は、重かった。
 ただの装備ではない。
 彼が守ってきたものすべてが、そこに詰まっていた。

 仲間の命。
 戦術の信頼。
 そして、彼女自身の憧れ。

 だからこそ、彼女は踏ん張れる。
 膝が震えても、足元が揺らいでも、この盾がある限り、彼女は倒れない。

 通路は静かだった。
 誰も声を出さない。
 誰も、彼女を止めない。

 それは、彼女の一歩を許すための静けさだった。

 そして、彼女は立った。
 盾を構え、前を向いた。

 それが、彼女に残された、最後の『背中』だった。

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