『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第104話 風雷の残響 ~吹き返し~ 前編

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 ──最初は、風が味方だった。

 葉団扇を振るたびに、空気が裂けた。
 鋭い風刃がカナブンの群れを切り裂き、金属の羽が宙を舞いながら地面に落ちていく。

「うおっ、すげぇ! 一撃で三体!?」
「霞、マジで頼りになるな!」

 仲間たちの声が飛ぶ。
 その声が、霞の背を押した。
 風が応えるように渦を巻き、雷が指先からほとばしる。

 霞は、雷を帯びた団扇を振り上げた。

「雷閃・一ノ型——」

 振り下ろされた一撃が、地面を走る。
 稲妻が地を這い、蜂の羽を焼き切った。
 黒煙を上げて墜落した蜂が、地面に激突する。

「このまま押し切れるぞ!」
「囲め! 一気に叩くんだ!」

 仲間たちが駆け出す。
 剣を構え、魔法を唱え、虫たちに向かっていく。
 霞はその中心で、風と雷をまといながら、敵をなぎ倒していく。

 だが——

 数分後。
 霞は、違和感に気づいた。

「・・・?」

 風の流れが、妙に偏っている。
 背後からの気配が、薄い。
 団扇を振るたびに、風が後ろへ抜けていく。
 まるで、誰もそこにいないかのように。

 ちらりと振り返る。
 仲間たちは、距離を取っていた。
 さっきまで隣にいたはずの術士が、いつの間にか建物の陰に隠れている。
 弓兵は、矢をつがえたまま動かない。
 剣士は、足を引きずりながら後退していた。

「・・・あれ、あたしだけ?」

 霞の声は、誰にも届かない。
 仲間たちは、彼女の背中を見ている。
 でも、誰も前に出ようとはしない。

「ちょっと、何してんのよ! 援護は!?」

 返事はない。
 代わりに、誰かが呟くのが聞こえた。

「・・・あの風、巻き込まれたらヤバいって」
「近づけるかよ・・・」
「霞がいれば、なんとかなるだろ」

 その言葉に、霞の胸がざらついた。
 風が、わずかに乱れる。
 雷が、指先で弾けるように揺れた。

(また、これか)

 霞は、唇を噛んだ。
 団扇を握る手に、力がこもる。
 風が、彼女の髪を乱す。
 その感触は、さっきよりも冷たく、鋭かった。

「・・・いいよ。あたしがやる」

 霞は、前を向いた。
 風が、再び渦を巻く。
 雷が、彼女の背を押す。

「全部、あたしがやる。あたしが、ここを守る。それが、仮にも『英雄』を名乗った者のけじめだろ!」

 ──勝てる。
 そう思った。

 だが、敵は『群れ』だった。
 一匹倒しても、次が来る。
 風を裂いて、雷を飲み込むような数。
 そして、動きが変わった。

 カマキリの刃が、風の流れを読んでくる
  霞の団扇が振られる瞬間を狙い、風の渦を断ち切るように斬り込んでくる。
 その鋭い一撃が、霞の肩をかすめ、血が飛び散った。

「くっ・・・!」

 蜂の針が、雷の軌道を避けてくる。
 まるで、雷の発生タイミングを見切っているかのように、一瞬早く、軌道の外へと滑り込む。

 カナブンの羽音が、耳を裂くように響く。
 その音が、仲間たちの聴覚を狂わせる。
 術士が呪文を噛み、弓兵が狙いを外す。

 霞の団扇が、重くなる。
 風が、思うように動かない。
 渦が乱れ、狙いが定まらない。

 雷が、指先で暴れ始める。
 制御しきれず、地面に漏れた電撃が、足元の石を砕く。

 風が、彼女の髪を引っ張るように乱れる。
 まるで、「落ち着け」と言わんばかりに、彼女を試しているようだった。

「・・・まずい」

 霞は、低く呟いた。
 その声に、誰かが反応した。

「うわっ、囲まれてるぞ!」
「もう無理だ、引け! 引けぇっ!」

 仲間たちの動きが鈍る。
 一人が転び、もう一人が武器を落とす。
 誰かが背を向け、走り出す。

「おい、待て! まだ——!」

 霞の声は、羽音にかき消された。
 風が、彼女の背中を押す。
 だが、それは『共に戦う』ための風ではなかった。
『逃げろ』と告げる風だった。

「・・・違う。あたしは、逃げない」

 霞は、血の滲む肩を押さえながら、団扇を構え直す。
 雷が、再び指先に集まる。
 風が、彼女の周囲を渦巻く。

「ここで止めなきゃ、誰も生きて帰れない」

 その言葉に、風がわずかに応えた。
 だが、雷はまだ不安定だった。
 彼女の怒りと焦りに反応し、暴れ続けている。

(落ち着け・・・あたしが、制御する)

 霞は、深く息を吸った。
 風が、肺を満たす。
 雷が、心臓の鼓動と重なる。

「風よ、あたしを信じて」
「雷よ、あたしの怒りを、刃に変えて」

 その瞬間、空が光った。
 雷鳴が轟き、風が一気に収束する。

 霞の目が、鋭く光る。
 団扇が、静かに構えられた。

「次は、こっちの番だよ」

「もう無理だ。霞が囮になってくれる」
「今のうちに逃げよう。あいつなら、時間稼ぎくらいはできる」

 霞は、振り返らなかった。
 ただ、風がその言葉を運んできた。
 雷が、その意味を焼きつけた。

 ──裏切られた。
 まただ。
 あの時と同じ。
 彼を見殺しにしたあの日と、同じ。

 でも今度は、自分が『差し出された』。

 霞は、膝をついたまま、拳を握りしめた。
 指先に食い込む爪の痛みが、現実を突きつける。

「・・・そうかい。英雄ってのは、都合のいい言葉だったんだな」

 彼女の目が、赤く光る。
 金のメッシュが、雷を帯びて揺れる。
 風が、怒りを孕み始める。
 空気が震え、地面の砂が舞い上がる。

「だったら・・・あたしが、全部壊してやるよ」

 ──風が、叫んだ。
 雷が、彼女の血を駆け巡った。
 葉隠霞の足元に、落ちた団扇が震える。
 それは、彼女の意思ではなく──彼女の『気魂』に呼応していた。

 霞は、ゆっくりと立ち上がる。
 その瞬間、空気が変わった。
 風が彼女の周囲を渦巻き、雷が髪の先にまで宿る。
 赤と金のメッシュが、まるで炎のように揺れた。

 地面が軋む。風圧でひび割れた石が、霞の足元から浮かび上がる。
 雷光が、彼女の影を何重にも映し出す。

「・・・なに、これ」

 霞は、自分の手を見つめた。
 指先から、風が噴き出している。
 掌の中心で、雷が脈打っている。
 皮膚の下を、光の筋が走る。
 まるで、彼女の血管そのものが雷に置き換わったかのように。

 今まで、力を『使っていた』。
 でも今は、力が『彼女を使っている』。
 境界が、崩れ始めていた。

 霞の瞳が、風のように揺れ、雷のように光る。
 その姿は、もはや『人』の枠を超え始めていた。
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