『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第105話 風雷の残響 ~吹き返し~ 後編

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 ──風が、咆哮した。
 雷が、地を裂いた。
 葉隠霞の周囲は、もはや嵐だった。

 敵の羽音は、風に引き裂かれ、仲間の悲鳴は、雷鳴にかき消された。
 地面が割れ、空が軋む。

 霞の目は、ただ前を見ていた。
 その先にあるのは、敵でも仲間でもない。
 ただ、『壊すべきもの』という認識だけ。

「まだ・・・ある」

 霞は、自分の胸に手を当てた。
 鼓動が、雷のように打ち続けている。
 風が、内側から吹き荒れている。
 骨の隙間をすり抜け、血管の中を駆け巡る。

「まだ、奥がある。まだ、出してない。まだ、『あたし』は全部見せてない」

 その言葉は、誰に向けたものでもない。
 ただ、自分の奥底に眠る『何か』への呼びかけだった。

「出てきていいぞ。狂ってもいい。壊れてもいい。だって、あたしは──」

 雷が、彼女の背から噴き出す。
 風が、彼女の足元を巻き上げる。
 髪が逆立ち、赤と金が炎のように燃え上がる。

「これが、あたしの『本当』なんだろ?」

 その瞬間、彼女の瞳が変わった。
 赤の中に、金の閃光が走る。
 風紋が、肌の上で踊り、雷紋が腕に刻まれる。

 ──そして、霞は笑った。
 その笑みは、もはや人のものではなかった。
 喜びでも、怒りでもない。
 ただ、力に満たされた者だけが浮かべる、無垢な笑み。

「さあ、全部壊そうか」

 団扇が、彼女の手に戻る。
 だが、それはもはや『武器』ではなかった。
 彼女の意思を具現化する、『風雷の核』だった。

 敵が怯む。
 羽音が乱れ、群れが空中で足踏みする。
 カマキリの刃が震え、蜂の針が狙いを失う。

 仲間が、言葉を失う。
 誰もが動けない。
 霞の背中を見て、ただ立ち尽くしていた。

 でも霞は、笑っていた。

「全部、出してやる。風も、雷も、あたしの狂気も──全部だ」

 ──覚醒への二歩目。
 それは、彼女が『人であること』を手放し始めた瞬間。

 風が、彼女の名を呼んだ。
 その声は、耳ではなく、骨の奥に響いた。
 雷が、彼女の心を焼き始めた。
 その熱は、感情を溶かし、形を変えていく。

 ──風が、笑った。
 ──雷が、歓喜した。

 葉隠霞の中で、何かが『這い出てきた』。

 それは、ずっと奥に潜んでいた。
 彼女が人であるために、乙女であるために、決して触れなかった『底』。

 常識。
 理性。
 躊躇い。
 それらは、風の刃で切り裂かれ、雷の衝撃で粉砕された。

 霞の瞳は、もう『霞』ではなかった。
 赤と金が混ざり合い、瞳孔が細く縦に裂ける。
 その奥で、狂気が笑っていた。

「──あはっ」

 最初は、小さな笑いだった。
 喉の奥で転がるような、くぐもった声。
 でもそれは、風に乗って広がっていく。
 雷に乗って、戦場を震わせていく。

「アハハハハハハハッ!!」

 哄笑が、空を裂いた。
 風が共鳴し、雷が空を駆ける。
 その音は、もはや自然のものではなかった。

 敵が怯む。
 仲間が凍る。
 誰もが、その笑いに『人の気配』を感じなかった。

 霞の中で、何かが目を覚ました。
 それは、風の中に潜んでいた『声』。
 雷の奥に眠っていた『意志』。

 笑っているのは、『私』? 
 それとも、風の中の『誰か』?

 霞は、自分の中にいる『もう一人』の存在を感じていた。
 それは、彼女の力であり、彼女の影。
 そして今、彼女の顔をして、彼女の声で、笑っていた。

 一瞬だけ、霞の中に浮かんだ疑問。
「これは、本当に『あたし』なのか?」

 ──それはすぐに、風に吹き流された。
 まるで、そんな問いは『不要』だとでも言うように。

 霞は、舞った。
 葉団扇は、もはや武器ではない。
 それは、風と雷を呼ぶ『呪具』となった。
 彼女の手の動きに合わせて、空気が裂け、雷が地を駆ける。

 一振りで、蜂の群れが散り、カナブンの羽が千切れ、カマキリの刃が空中で砕けた。

 ──蹂躙。

 それは、戦いではなかった。
 それは、祭りだった。
 狂気の祭り。
 風と雷が踊り、哄笑が吹き荒れる。

「これが、あたしだよ。これが、葉隠霞の『気根』だ。見てろ。全部、壊してやる」

 それは、彼女の奥底に眠っていた『根』のような力。
 風と雷の源であり、彼女の本質を支える『気の根』。
 霞は、それを今、解き放とうとしていた。

 ──風が、彼女の名を忘れようとしていた。
 その囁きは、もう「霞」とは呼ばなかった。
 ただ、力の渦の中心にある『何か』として、彼女を認識し始めていた。

 ──雷が、彼女の心を焼き尽くそうとしていた。
 感情も、記憶も、願いも。
 すべてを焼いて、ただ『力』だけを残そうとしていた。

 狂気か、霞か。
 その境界は、もう風に流されていた。

 風は、もう背を押してくれない。
 今は、彼女の足元を試すように吹いている。
「お前は、どこまで行ける?」
「お前は、どこまで壊れる?」

 霞は、答えなかった。
 ただ、団扇を振る。
 風が唸り、雷が咆哮する。

 ──その瞬間、遠くで誰かが叫んだ。

「かすみっ!」

 風が、わずかに揺れた。
 雷が、ほんの一瞬、脈を止めた。

 霞の瞳が、微かに揺れた。
 その奥に、まだ『誰か』が残っているのかもしれない。

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