『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第117話 泥濘の中で(サブリーダー視点)

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『城野敦』。
 生理的嫌悪が湧き上がる、最低の男。
 その名を口にするだけで、喉の奥がざらつく。

 でも――使える。
 この『汚物』は、あの女を沈める泥としては、ちょうどいい。

 サブリーダーの心は、軽やかにステップを踏んでいた。
 まるで、泥濘の上を踊るように。
 一葉を、あの女を、腐った沼の底に沈めてあげられる。

 リーダーも文句は言えない。
 なぜなら、一葉自身が『完全な加害者』ではないから。
 もっと悪い奴がいる。
 一葉は『被害者』でもある。

 だからこそ、同情のそぶりを見せれば、誰も反発できない。
 理想的だ。
 責めすぎず、でも許さない。
 優しさの皮をかぶった毒。

 ジワジワと追い詰める。
 濁らせる。
 曇らせる。
 輝きを奪う。

 二度と浮かび上がれないように。
 泥の底で、息もできないように。
 腐った水を飲みながら、笑顔を貼りつけて生きるように。

「あの女は、ヘドロまみれで生きるのがお似合いよ……!」
 声が震えるほどの快感。
 その言葉は、呪いであり、祝福だった。

 狂喜するサブリーダーの手の中。
 無限再生される動画がある。
 再生ボタンに触れるたび、指先が震える。

 何度見ても、飽きない。
 何度見ても、笑いが込み上げる。

 一葉の造る『エリクサー』が、裏取引されている。
 そのことを話している人物たちを、鮮明に捉えた映像。
 音声も、表情も、はっきりと。

 一葉本人が、教師に諭され、時に脅され、従っている。
 その姿が、あまりにも滑稽で、あまりにも醜い。

 適正価格の十倍。
 誰も買えない。
 命を救うはずの薬が、選ばれた者の特権になっていた。

 犯罪ではない。
 でも、許されることではない。

「ふふ……ふふふふっ……あはっ……ひゃはははははっ!!」

 毛布を顔に押し当て、サブリーダーは笑い続けた。
 喉が震え、涙がにじみ、腹筋が痙攣するほどに。
 笑いが止まらない。
 あの女が、泥に沈む音が聞こえる気がした。

 テントの布一枚隔てた場所に、靴跡が付いたことにも気づかずに。
 その足跡が、どこへ向かっているのかも知らずに。

  ◇

 サブリーダーは、すぐに動いた。
『デートOK』の返信。
 ただし、できるだけ早く済ませてとの注文はつけている。

「デートはしてあげてもいいけど、キスまでね。それ以上はキャパいからムリ。雰囲気だけで満足させて、さっさと帰ってくるわよ」

 鏡の前で、唇をなぞる。
 笑顔の練習。
 媚びた角度。
 首筋の角度ひとつで、男は勝手に『特別』を錯覚する。

 服装はどうにもならない。
 でも、髪型とメイク、そして『仕草』で幻を作る。
 完璧じゃなくていい。
『それっぽく』見えれば、男なんて勝手に夢を見る。

「相手はどうせ『初めての人』でしょ。ちょっと目を潤ませて、声を甘くすれば……勝手に自爆するわよ」

 鏡の中の自分が、にやりと笑った。
 その笑顔が、どこか他人のようで、少しだけ背筋が冷えた。
 でも、すぐにかき消す。
 今は、演じる時間。

 返信は、秒で来た。

「後詰って、ほんと暇なのね」

 鼻で笑って、通知を消す。

 デートの場所は意外と近かった。
 ありがたい。
 時間がない。

 あと一時間で『最奥』へ向かう。
 そこから二時間で、すべてが決まる。

「早く『証拠』を手に入れなきゃ」
 その一心だけが、彼女を突き動かしていた。

 この一時間で、男一人くらい壊してみせる。
 その先にあるのは、あの女の破滅。



 通路を、63階層へと戻る。
 数回、角を曲がれば目的地だ。

「あ、ほんとに来た」
「あーあ、マジかぁ……」

 くすくすと笑う声。
 女子が数名、こちらを見ている。
 誰かはわからない。
 興味のない顔なんて、全部『記号』だ。
 名前でも首から下げて歩いてくれればいいのに。

 でも、悪くない。
『観客』がいるなら、強引に迫られる心配は減る。
 そう思い込むことにした。

「やぁ、僕のお姫様!」

 部屋の中央で、手を広げて待つ男子。
 これが、城野敦。

「あら、お姫様だなんて……」
 はにかんだような声を作る。

 浮ついた笑顔を貼りつけて、距離を詰める。
 心の隙間に、爪を立てるために。

 先手必勝。
 序盤で一気に間合いを詰めて、畳み掛ける。
 それが最善。
 それが、勝者の戦い方。

 ……なのに。

 彼の笑顔の奥に、妙な違和感があった。
 目の奥が笑っていない。
 いや、笑っているのかもしれない。
 別の何かを、隠しているような笑い方。

 彼女の毒に気づいたのか?
 それとも、彼自身が毒を持っているのか?

 どちらでもいい。
 イニシアチブは、こちらが握っている。
 この場を支配しているのは、自分。

 最終的な勝者が自分であることは――揺るがない。

 ……そう、信じていた。
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