『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第122話 崩壊する関係 前編

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「なんであなたが彼と二人きりなの!」

 怒声が、空気を裂いた。
 その場の温度が、一瞬で変わる。

 振り返ると、サブリーダー真梨華が立っていた。
 肩を震わせ、目を見開き、怒りに満ちた顔。
 その視線は、まっすぐに一葉を貫いていた。

「答えなさいよ! 一体どういうつもりなの!」

 一葉は、ほんの少しだけ首を傾けて、微笑んだ。
 その笑顔は、挑発でも反抗でもない。
 ただ、冷たく、静かだった。

「彼が一人だったから、声をかけただけよ。それとも、誰かと話すのにあなたの許可がいるの?」

 その一言が、真梨華の怒りに火を注ぐ。
 顔がさらに紅潮し、唇が震える。
 言葉が追いつかない。
 怒りが、感情の器から溢れ出していた。

 キリトは、ただ黙って二人を見ていた。
 真梨華の怒りは、正当なはずだった。
 でも、今の彼女は――感情に飲まれていた。

 そして、脳裏には、あの映像がよぎる。
 密会。
 笑顔。
 触れ合い。
 裏切りの記憶が、彼女の怒りを正当なものではなくしていくむ。

「……落ち着けよ」

 キリトの声は低く、静かだった。
 その一言に、真梨華が驚いたようにこちらを見る。
 その目には、怒りと戸惑い、そして――恐れが混ざっていた。

「あなた……私の味方じゃないの?」

 問いかけに、キリトはすぐには答えられなかった。
 言葉が、喉の奥で詰まる。
 何を言っても、何かが壊れる気がした。

 一葉は、何も言わずにキリトの横に立った。
 その距離が、妙に自然だった。
 まるで、最初からそこにいるべきだったかのように。

 真梨華の声が震える。

「まさか……この子の肩を持つの?」

 キリトは、答えなかった。
 ただ、一葉の冷静さと、真梨華の激情を見比べていた。
 どちらが真実か。
 どちらが信じるに値するか。

 心の中で、何かが静かに傾いていくのを感じていた。
 信頼とは何か。
 絆とは何か。
 そして、今――誰を信じるべきなのか。

 答えは、まだ出ていない。
 でも、天秤は確かに、一葉の方へと傾き始めていた。

 真梨華は、震える手でスマホを取り出した。
 だが、その動きに激情はなかった。
 その目は、今度こそ――冷静だった。

「あなたが、どんな顔で彼に甘えていたっていいわ。でも――これは、どう説明するの?」

 画面に映るのは、一葉。
 制服姿で、誰かに小瓶を手渡している。
 ラベルには、見慣れた文字。

『エリクサー』

 空気が変わった。
 さっきまでの口論が、急に重くなる。
 空気が、凍りつく。

 一葉は、画面をちらりと見ただけで、すぐに視線を戻した。
 その仕草すら、計算されているように見えた。

「それ、どこから手に入れたの?」

 声は落ち着いていた。
 でも、瞳の奥に、わずかな焦りが滲んでいた。
 キリトは、言葉を失っていた。
 この場にいる誰もが、何かを隠している。

「横流しの証拠よ。あなたが何をしていたか、これで全部わかる」

 真梨華の声は、静かに、鋭く刺さる。
 怒りではない。
 確信と、勝利の予感。

 だが――
 一葉は、ほんの少しだけ笑った。

「それがどうしたの? 私が何か違法なことをしたっていう証拠にはならないわ。ただの物の受け渡しよ。それに……あなたがこれを持ってるってことは――誰かがあなたに渡したってことよね?」

 その一言に、真梨華の眉がぴくりと動いた。
 勝者の顔に、初めて影が差す。

 キリトは、二人のやり取りを見つめながら、心の中で何かが崩れていくのを感じていた。

 信じていた人が、嘘をついていた。
 でも、もう一人も、何かを隠している。
 この場にいる誰もが、完全には信用できない。

 それでも――
 一葉の冷静さと、真梨華の執着の差が、天秤をさらに傾けていく。

「……一葉、話がしたい。二人きりで」

 その言葉に、真梨華が目を見開いた。
 裏切られたときの、あの目。
 怒りと痛みが、混ざり合って濁っていく。

 一葉は、静かに頷いた。
 ただし、場所を移すことはできなかった。
 真梨華が許すはずもない。
 だから、スマホを取り出し、画面を見せた。

 そこには――先ほど真梨華が見せたのと、まったく同じ動画。

 制服姿の自分が、小瓶を手渡す瞬間。
 同じ角度。
 同じタイミング。
 同じ『証拠』。

「……あなたが持ってるものは、私も持ってる」

 その言葉は、刃だった。
『証拠』は、武器にも、盾にもなる。

 そして今、 誰が仕掛け、誰が操られているのか――その境界が、音もなく崩れていく。

「これ、私のところにも送られてきたの。匿名で、『気をつけて』って一言だけ添えられて」

 一葉の声は、静かだった。
 けれど、その静けさが、キリトの胸をざわつかせた。
 眉をひそめる。
 何かが、また崩れそうな予感。

「きっと、サブリーダーが裏で動いた結果よ。誰かと結託して、私を排除しようとしてる。 そう考えるのが自然じゃない?」

 その言葉に、キリトの胸がざわついた。
『結託』――その響きが、記憶の奥に沈んでいた映像を引き上げる。

 密会動画。
 真梨華が、顔の見えない男と接触していた、あの映像。

 甘い距離。
 笑顔。
 そして、何かを手渡していたような仕草。

 あれは、ただの裏切りじゃなかったのかもしれない。
『協力者』との接触――そう考えれば、すべてが繋がる。

「……まさか」

 思わず、声が漏れた。
 一葉が、こちらを見つめる。
 その瞳は、揺れていない。
 むしろ、確信に満ちていた。

「私を落とすために、誰かが誰かと手を組んだ。それが、あなたの恋人だったとしたら――どうする?」

 問いかけは、静かに、鋭く刺さる。
 キリトは、答えられなかった。
 言葉を探すたびに、心の中の天秤が軋む音がする。

 信じていたものが、崩れていく。
 あの笑顔も、あの言葉も、すべてが嘘だったのかもしれない。

 そして、崩れた先に――立っていたのは、一葉だった。

 彼女の冷静さ。
 彼女の論理。
 彼女の『正しさ』。

 それが、今のキリトにとって唯一の拠り所に見えた。

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