『使い捨てられた補助スキル持ち、迷宮の主になって制服妖怪と学園祭を始める』

葉月奈津・男

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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます

第166話 最後の10人 ~分断~

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 ◇崩壊は止まらない◇

 半分になったレイドメンバーは、さらに半分に分かれた。
 リーダーと一葉。
 そして、他の三人。

 その間に立つのは、ひときわ巨大な氷柱。
 まるで、決して越えられない『断絶』の象徴。

 リーダーは、まだ立て直せずにいた。
 剣を握る手は震え、視線は宙を彷徨っている。
 一葉は、その背に隠れるようにして、怯えていた。

 対する三人は、剣を構え、目を細め、リーダーを睨んでいた。
 その視線には、かつての信頼の残滓すらなかった。

 だが——彼らは、気づいていなかった。
 背後から忍び寄る、もう一つの『熱』。

 氷柱の周囲で、空気が揺れていた。
 冷気が、下へ下へと沈んでいく。
 だが、時折、逆流するように熱が立ち上る。

 まるで、そこに炎の心臓を持つ何者かが潜んでいるかのように。

「ほつれた糸は、燃やされる」

 その声は、熱を持たない。
 けれど、意味だけが焼きつくように鋭かった。

「「「っ?」」」

 三人が、反射的に振り返る。
 その瞬間——

 左右の者の肩に、白く細い手が添えられた。
 中央の者は、妖艶な女の微笑みと目が合った。

 そして——

 火柱が、三本。

 ゴウッ!!

 轟音とともに、炎が天を突いた。
 氷の世界に、突如として咲いた紅蓮の花。

 焼け焦げる匂いが、冷気を押しのける。
 パチ……パチ…… 炎が氷を舐める音が、静かに響く。

 氷柱が、赤く染まる。
 蒼と紅のコントラストが、まるで絵画のように美しい。

 三人の影が、一瞬で黒く焼き潰される。
 悲鳴はなかった。
 あるいは、炎に呑まれて届かなかっただけかもしれない。

 サラは、ただ微笑んでいた。
 その表情には、怒りも、哀れみもない。
 あるのは、『当然の結果』を見届ける者の静けさ。

 氷柱が、熱で軋む。
 表面が溶け、滴る水が、火柱に触れて蒸気となる。
 白い霧が、赤と青の狭間に立ち込める。

 まるで、この場が『地獄の舞台』であることを告げるカーテンのように。

 残り、二人。

     ◇

「さ……沙羅?」

 炎とともに現れたサラを見て、一葉が、声を震わせた。

 その声は、安堵と恐怖が絡み合った、かすれた囁き。

 サラは、ゆっくりと振り返る。
 その瞳には、かつての仲間を見つめる懐かしさと、もう戻れない距離の冷たさが、同時に宿っていた。

      ◇

 ◇一葉の後悔◇

 サラは、炎の中から現れた。
 制服は、どこか懐かしい形をしていた。
 でも、色が違う。

 深紅と黒のグラデーション。
 スカートの裾には、焦げ跡のような模様が滲んでいる。
 まるで、焼け落ちた過去の名残。

 長く艶やかな髪が、炎の光を受けて揺れていた。
 その瞳は細く、笑っているように見えた。
 けれど、その笑みに、誰の姿も映っていなかった。

 一葉は、無意識に共通点を数えていた。

(髪の長さ、同じ)
(制服の形、同じ)
(笑うときの口元、少し似てる)

 でも、違う。
 この女は、誰かのために笑っていない。
  誰かの痛みを見て、微笑んでいる。

 一葉の背筋が、ぞわりと凍った。
 そして、胸の奥が、じわりと熱を持った。

(私も、あの時……カルマの痛みに、目を向けなかった)
(沙羅から見た『私』も、こうだったのかもしれない)

 あの時、沙羅は言った。
「本当に、これでいいのかしら?」と。
 でも、私は——その言葉を『弱さ』だと決めつけて、無視した。

(その結果が、今の状況なのだとしたら……)
(沙羅が次に焼くのは、『私』なのかもしれない)

「さ、沙羅……?」

 一葉は、目の前の『サラ』を、かつての『沙羅』だと認識した。
 それは、外見の変容が少なかったからではない。
 心の奥底で、ずっと感じていた罪が、彼女をそう見せたのだ。

「65階層ぶりね。あなたたちに置き去りにされて以来の再会よね?」

 まるで、喫茶店でお茶して以来よね? とでも言うような、軽やかな口調。
 けれど、その言葉は、焼け跡のように重かった。

「お、置き去りにだなんて、わ、私たちは……!」

 一葉の声が震える。
『置き去り』という言葉の重さ。
 それを、笑顔で、挨拶のように言われたことに、言葉と感情の選択肢が追いつかない。

 だいいち、私と沙羅は——敵対しかけていた。
『レイド優先』という名目で、感情を先送りにしていただけ。
 くすぶった火種は、消えてなどいなかった。

「言い訳はどうでもいいの。どちらにしろ、結果は変わらなかっただろうし」

「言い訳だなんて! ……え? け、結果?」

「ええ。もう、あなたたち二人だけよ。レイドは全滅ね」

「なっ……?!」

 一葉が、息を呑んだ。
 足元がふらつく。
 視界が、ぐらりと揺れる。

 否定の言葉は、出なかった。
 出せなかった。

 ひより。
 フラノ。
 そして、サラ。

 その顔を見て、『誰だったか』がわかってしまった。
 だから、否定の言葉は、出なかった。

 罪が、言葉を奪った。

「あそこで『前進』を選んでくれてよかったよ。間引く手間が格段に減ったからね」

 カルマは、朗らかに笑った。
 まるで、感謝の言葉を贈るように。

「よ、よかった……って」

 一葉の声が、震えた。
 その言葉の意味が、重くのしかかる。

 ——自分の選択が、裏目に出ている。
 それが、誰かの命を削る結果になっていた。

 たとえば、『前進』ではなく『後退』を選んでいれば?
 たとえば、沙羅との議論で、対立ではなく融和を選んでいたら?
 たとえば、カルマとの別れ際、自分から『エリクサー』を手渡していたら?

 何かが、変わっていたのではないか?

 カルマは、本気で感謝していた。
 あの時、ばらけていなければ、この場に十数人が到達していた可能性がある。
 そうなっていれば、もっと苦労しただろう。

 それが、わかる。
 わかってしまう。

「あ、あんた……」

 私の選択が、誰かの命を削っていた。
 それを、カルマは『助かった』と言っている。

 一葉は、言葉を失った。
 その場に立っているだけで、罪の重さに押し潰されそうだった。

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