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レーディング15(R15)・表現深化バージョン~刺激的な表現を含みます
第184話 ちっぽけな『勇者』 ~人間として死ぬ勇気~ 後編
しおりを挟む俺は、見ていた。
魔法を撃とうとしているのは、誰だ?
その詠唱を止めようとしないのは、誰だ?
傍観しているのは、誰だ?
教師か?
探索者か?
それとも——ただの加害者か?
俺は、どれだ?
教師であるはずがない。
生徒を守る資格なんて、とうに捨てた。
探索者とも言えない。
あの頃のように、冷静に状況を切り抜ける力もない。
加害者になんて、なりたくない。
けれど、見ているだけなら、それと何が違う?
俺は——何にもなれない。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
叫び声が、喉から飛び出した。
意味なんてなかった。
ただ、何かを振り払いたかった。
魔法を止めるなら、同僚を斬ればいい。
生徒を殺すなら、このまま少し待てばいい。
どちらも選べなかった。
ちっぽけな俺には、どちらもできなかった。
だから、俺は——走った。
何も考えずに。
ただ、足が勝手に動いた。
叫びながら、魔法の光に向かって。
誰かを守るためでも、誰かを止めるためでもない。
ただ、『何者でもない自分』を、ここで終わらせたくなかった。
光と熱が、俺の全身を包み込んだ。
焼けるような痛み。
皮膚が軋み、骨が震える。
それでも、俺は立っていた。
結局、俺は何にもなれなかった。
教師にも、探索者にも、勇者にも。
ただの人間。
それだけだった。
そう思うと、寂しかった。
でも、同時に——誇らしかった。
少なくとも、人としての道を踏み外さなかった。
そう言える気がした。
このまま終われば、楽になれる。
わかりきった逃避。
でも、俺は叫んだ。
「逃げろーっ!」
声が、迷宮に響いた。
全身の力を集めて、踏みとどまる。
守る勇気はなかった。
戦う勇気もなかった。
見て見ぬふりをする程度の意気地すらなかった。
だけど——せめて、『終わらない勇気』だけは持ち続けよう。
魔法への抵抗力を上げる。
それは、苦痛を長引かせるだけの行為。
終わりが、数秒遅れるだけ。
それだけ。
でも、その数秒を——年少者たちに残す。
それが、『大人』としての、最後の意地。
◇
パチパチパチ。
カルマの手が拍手している。
迷宮が、ほんの一瞬だけ静かになった。
まるで、舞台が観客の呼吸を待っているように
「とてもじゃないけど『脚本』には書けない終わり方だ。だけと・・・なのに、か? 熱かったね。リアルな人間って感じがしたよ」
『演出』を超えた人間の激情を見た。
「演目じゃないな。・・・これは、『生き様』だった。」
「走ることで何かを残す鬼・・・か」
それはまるで・・・。
「守ることも攻めることもできない・・・なら、走り続けないか?」
カルマの独白は、魔力となって『システム』に吸い込まれていった。
◇
その魂は、まだ迷宮を走っている。
誰かの背中を守るため?
唐突な襲撃者を倒すため?
わからない。
そんなことは、その時に感じればいい。
ともかく、『彼』は走り続けている。
『何か』から逃れるために。
そして、『何か』に追いつくために。
『韋駄天』。
武器を持たず、装備もつけず。
走り続ける。
その背には、何の紋章もない。
風だけが、彼の名を知っていた
人生の最後を『走る』ことにかけた男の、それが姿だった。
◇
「かっこ、つけやがって」
逃げる途中、誰かが振り返った。
その瞳に、走り続ける背中が焼きついていた。
退避と追跡行の脱落者=生徒2 教師5
「そっか・・・だから、走ってたのか」
ウィンドゥを覗き込んで、ひよりが呟く。
ずいぶん前、あの教師の背中を見たことがあった。
雨の日だった。
傘を差した、その先に見た光景。
とても、走るようには見えなかった教師が、脇目も降らずに走り続ける。
そんな『未来の可能性』を。
意味が分からなかったけれど。
これだから、走っていたのだ。
走るしかなかったのだ。
「わかっていても、なにもできないんだね」
走り続ける姿は見ていた。
もう、ずいぶん前に。
こうなる『可能性の欠片』を見ていたのだ。
なのにーー
「だとしたら…あれも?」
自分が雨の日に見た、『意味の分からなかった断片』。
他にもたくさんある。
それらにも意味があったのかもしれない。
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