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6章 女装して辺境伯領を堕とした(10歳)
102話 変わり果てた肉親の姿
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「セレスティーヌゥゥゥゥゥ――――――!」
「『息子』を迎える第一声がそれですか父上」
「妻――娘だ!」
僕は、じとっと父親を見上げる。
「母上……母上ぇ――――――――――――!」
「『弟』相手に恥ずかしくないのですか兄上」
「弟だ!」
僕は、じとっと兄を見上げる。
少しぶりの屋敷――僕の実家。
その門をくぐり、着いた先――馬車を降りたとたんに走ってくる成人男性共。
「仕方ないですよぉ、ジュリオンさまは……みんなのお母さんですし」
「エミリー、やめてくれ……」
「そうです! ジュリオンお兄様はユリアお姉様ですもの!」
「アメリアもやめてくれ……」
僕の前でなにかしらの感情に打ち震えている――血が半分繋がっている父親に、血の繋がった兄という存在に頭を抱えたくなった僕を、幼なじみと義妹が追撃してくる。
「さすがはジュリオン様、巧みに攻めと受けを使い分けられますね」
「私たち使用人としてはうらやましい限りですね」
「このぎゃっぷが最高なのです」
「分かります」
囲まれてしまった僕を遠巻きに囲みながらぼそぼそと言い合う使用人さんたち。
「ジュリオン様」
「ベルトラン……」
――ざっ。
庭から戻ってきた――なぜか急に10歳は若返った気のする、3年前まではふがふが言ってたおじいさんが、今やしゃきしゃきとしたおじさんになっていて。
「此度の遠征、大変喜ばしい戦果だと早馬で届いております」
「ああ」
「ですのでぜひ、稽古で私めを痛めつけてほしく存じます」
「………………………………」
……そのおめめは、大変にきらきらと輝いていた。
………………………………。
「ああ、ジュリオン様……」
「いつも、あのように空を見上げられて……」
「同じ空の下には王都が……やはり、いよいよ……」
「セレスティーヌ様の元使用人ネットワークを通じ、すでに王都は掌握……」
僕は、失敗した。
失敗したんだ。
3年前、エミリーちゃんに「ジュリオン様」を心停止させられたか何かで、ひょっこり前世の記憶が戻ってきてしまって。
それから「女装=生存フラグ」ってのを思いついたばかりに、最初はうまく行ったって喜んでいて。
けど、僕は知らなかったんだ。
――前世の僕が2年ほど遅く入れ違いになった、今世の僕たるジュリオン様の物心ついて少ししてから居なくなった、産みの母親が――想像が追いつかないくらいにやばい人だったなんて。
そして、女装するとそんな人を幻覚させる見た目になったばかりに――あくまで「他人」な町の人たちはともかく、「家族」であるはずの成人男性共や義妹、親戚や使用人たちが……ここまでおかしくなっただなんて。
◇
「ユリ――ジュリオン様。もうまもなく旦那様がお着きになると」
「分かった、すぐ行く」
そんな悲しい未来を知る前。
3年前の僕は、緊張していた。
――王に頼まれての、他領をまたいでの魔王軍討伐のための数ヶ月の遠征。
今世の父親に今世の兄は現領主と次期領主として華々しい戦果を挙げてきた――ということになっている。
実際のところをベルトランたちに聞く限り、確かに魔王軍を撃退してはいるけども、領民たちへの報告は盛りに盛っているらしい。
古今東西の戦争において、戦果は過大報告をし、敗北は過小報告か無かったことにするのが世の常。
だからそれは別にどうでもいいんだけども――そうだよな、原作ゲームの物語の都合上かは知らないけども、主人公くんがなにかしらをしない限り人類はじり貧で最終的には全滅っていう設定なんだ。
そして世界が魔族側に押され続けて貴族の人材も物理的に枯渇し始め――だからこそ、貴族に加えて魔法の才能のある平民までを1か所に集め、育て上げるっていう学園が整備されたとかいう設定もあったはず。
その仕組みが「主人公」という特異点を中心に爆発し、主人公ほどでなくても才能にあふれる奇跡の同期(主人公くんがパーティーに入れるヒロインたち)と共に、宿敵である魔王を――ルートによっては討伐し、そうでなくても「レベリング」のために数々のダンジョンを踏破して魔物を駆逐する。
それがメインシナリオ。
その都合上、多少のご都合主義的に100年に1度の逸材が――メインヒロインを中心に揃っているものの、そんな世界に産まれ直した以上には歓迎するしかない。
主人公くんがどんな選択をするにせよ、魔王軍をある程度以上退けて希望が生まれるエンディングを迎えられるんだ、喜ぶ以外には何もないんだ。
――ゆえに、それよりも10年も前の時点である今は――数年前に一時期盛り返したらしいけども、上の立場で情報を多く知る人ほど絶望に満ちている時期。
そんな中、せめてものあがきで現状維持をともがいているのが、辺境伯という貴族であるパパンと兄さんだ。
どう考えたって、その人生観は身近な人々――セレスティーヌ母さんを始め、兵士や民間人――の死を数え切れないほどに見つめてのもののはず。
――そんな人たちに、今から叱られる。
精神年齢成人だったとしても、上の立場から怒られるのってのは怖いんだ。
そんな――――――今からなら思う。
まだ僕は、この世界へどこか――淡すぎる希望を抱いていたんだ。
うん。
いっそのこと、恐らくは原作でジュリオン様が捻じ曲がったようにギスギスし過ぎる家で暮らしたかったって思うくらいには。
「『息子』を迎える第一声がそれですか父上」
「妻――娘だ!」
僕は、じとっと父親を見上げる。
「母上……母上ぇ――――――――――――!」
「『弟』相手に恥ずかしくないのですか兄上」
「弟だ!」
僕は、じとっと兄を見上げる。
少しぶりの屋敷――僕の実家。
その門をくぐり、着いた先――馬車を降りたとたんに走ってくる成人男性共。
「仕方ないですよぉ、ジュリオンさまは……みんなのお母さんですし」
「エミリー、やめてくれ……」
「そうです! ジュリオンお兄様はユリアお姉様ですもの!」
「アメリアもやめてくれ……」
僕の前でなにかしらの感情に打ち震えている――血が半分繋がっている父親に、血の繋がった兄という存在に頭を抱えたくなった僕を、幼なじみと義妹が追撃してくる。
「さすがはジュリオン様、巧みに攻めと受けを使い分けられますね」
「私たち使用人としてはうらやましい限りですね」
「このぎゃっぷが最高なのです」
「分かります」
囲まれてしまった僕を遠巻きに囲みながらぼそぼそと言い合う使用人さんたち。
「ジュリオン様」
「ベルトラン……」
――ざっ。
庭から戻ってきた――なぜか急に10歳は若返った気のする、3年前まではふがふが言ってたおじいさんが、今やしゃきしゃきとしたおじさんになっていて。
「此度の遠征、大変喜ばしい戦果だと早馬で届いております」
「ああ」
「ですのでぜひ、稽古で私めを痛めつけてほしく存じます」
「………………………………」
……そのおめめは、大変にきらきらと輝いていた。
………………………………。
「ああ、ジュリオン様……」
「いつも、あのように空を見上げられて……」
「同じ空の下には王都が……やはり、いよいよ……」
「セレスティーヌ様の元使用人ネットワークを通じ、すでに王都は掌握……」
僕は、失敗した。
失敗したんだ。
3年前、エミリーちゃんに「ジュリオン様」を心停止させられたか何かで、ひょっこり前世の記憶が戻ってきてしまって。
それから「女装=生存フラグ」ってのを思いついたばかりに、最初はうまく行ったって喜んでいて。
けど、僕は知らなかったんだ。
――前世の僕が2年ほど遅く入れ違いになった、今世の僕たるジュリオン様の物心ついて少ししてから居なくなった、産みの母親が――想像が追いつかないくらいにやばい人だったなんて。
そして、女装するとそんな人を幻覚させる見た目になったばかりに――あくまで「他人」な町の人たちはともかく、「家族」であるはずの成人男性共や義妹、親戚や使用人たちが……ここまでおかしくなっただなんて。
◇
「ユリ――ジュリオン様。もうまもなく旦那様がお着きになると」
「分かった、すぐ行く」
そんな悲しい未来を知る前。
3年前の僕は、緊張していた。
――王に頼まれての、他領をまたいでの魔王軍討伐のための数ヶ月の遠征。
今世の父親に今世の兄は現領主と次期領主として華々しい戦果を挙げてきた――ということになっている。
実際のところをベルトランたちに聞く限り、確かに魔王軍を撃退してはいるけども、領民たちへの報告は盛りに盛っているらしい。
古今東西の戦争において、戦果は過大報告をし、敗北は過小報告か無かったことにするのが世の常。
だからそれは別にどうでもいいんだけども――そうだよな、原作ゲームの物語の都合上かは知らないけども、主人公くんがなにかしらをしない限り人類はじり貧で最終的には全滅っていう設定なんだ。
そして世界が魔族側に押され続けて貴族の人材も物理的に枯渇し始め――だからこそ、貴族に加えて魔法の才能のある平民までを1か所に集め、育て上げるっていう学園が整備されたとかいう設定もあったはず。
その仕組みが「主人公」という特異点を中心に爆発し、主人公ほどでなくても才能にあふれる奇跡の同期(主人公くんがパーティーに入れるヒロインたち)と共に、宿敵である魔王を――ルートによっては討伐し、そうでなくても「レベリング」のために数々のダンジョンを踏破して魔物を駆逐する。
それがメインシナリオ。
その都合上、多少のご都合主義的に100年に1度の逸材が――メインヒロインを中心に揃っているものの、そんな世界に産まれ直した以上には歓迎するしかない。
主人公くんがどんな選択をするにせよ、魔王軍をある程度以上退けて希望が生まれるエンディングを迎えられるんだ、喜ぶ以外には何もないんだ。
――ゆえに、それよりも10年も前の時点である今は――数年前に一時期盛り返したらしいけども、上の立場で情報を多く知る人ほど絶望に満ちている時期。
そんな中、せめてものあがきで現状維持をともがいているのが、辺境伯という貴族であるパパンと兄さんだ。
どう考えたって、その人生観は身近な人々――セレスティーヌ母さんを始め、兵士や民間人――の死を数え切れないほどに見つめてのもののはず。
――そんな人たちに、今から叱られる。
精神年齢成人だったとしても、上の立場から怒られるのってのは怖いんだ。
そんな――――――今からなら思う。
まだ僕は、この世界へどこか――淡すぎる希望を抱いていたんだ。
うん。
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