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6章 女装して辺境伯領を堕とした(10歳)
103話 父さんはおしまい!
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平和な現代人として生きてきた前世の僕。
全ての人に守られ甘やかされ、平和な前世と似たような空気を感じながらも屋敷っていうゆりかご――反発するだけの何も知らないジュリオン様として、兄のスペアとしてではあってもなにひとつ不自由することなく養われてきた、今世の僕。
そんな僕がいきなり彼らに会っても、「戦場も知らない子供」としか見られない。
――なのにそんな僕が、父さんたちの不在を良いことに父さんたちの権力を勝手に使って、町でいろいろやらかした。
その情報はすでに伝わっているはず。
きっと、激怒しているはずだ。
かつん、かつん。
屋敷の廊下を歩く音が、やけに脳に響いてくる。
……ジュリオン様のスペック、それも潜在能力だけは主人公くん級――だけど、その中身はやっぱりただの市民Bでしかない僕。
堂々と話せる以前に、足がすくんでただ震えるだけってのも充分にあり得る。
……ああ、やっぱりこういうところで人生の経験値ってのが出るんだよな。
前世の僕としての記憶も――自意識として20代っぽいしな。
つまりは会社の新人、あるいは数年経ってちょっと慣れた程度の若造――そんな存在がやらかした直後に、損害を与えた巨大国際企業のトップと面会するようなもの。
しかも前世の記憶はほぼ皆無、今世の記憶だって実質的に3年分ときた。
つまりはただ頭でっかちな子供でしかない。
そりゃあ、緊張しないわけがないんだ。
「……ユ――ジュリオン様、失礼します」
と、玄関に近づき馬車の音が聞こえてきたところで、使用人さん――メイドさんの1人がおもむろに近づいてきて――。
「……これは?」
「はい、セレスティーヌ様の髪飾りでございます」
僕の前髪に着けるだけのはずなのに、なぜかぎゅむっと前から抱きつくようにしてお胸をばふっとくっつけられてから満足げに離れる彼女。
……この人……馬車でもずっと、他の人たちと一緒に僕に張り付いてたよなぁ……。
正直眼福だし、男としてはお胸でぱふっとされて気持ちとしては嬉しいけども、7歳児の肉体じゃそれ以上にはならないから悲しい気持ち。
それはともかく、髪飾り。
きっと――せめて母さんの息子っていう地位を振りかざしてやんちゃしたお説教を、母さんの遺品で母さん譲りの姿を演出し、怒りを抑えようとしてくれたんだろう。
「ありがとう。嬉しいわ」
「 」
ふぅ、と息を吐き――あえて笑顔を作り、愛想を振りまく練習。
……でもなんで今、口調を戻したのに「嬉しいわ」とか言ったんだろ。
もしや精神まですでにメス――いや、きっと癖が残ってるだけだ、そうに決まっている。
「ユリア様」として人と話すときはときどきこうなってたし……うん、きっと良くあることだろう。
「笑顔ってのは偽物でも作るだけで機嫌が良くなる」っていう、前世のライフハックを思い出す。
そのおかげか、それともお胸の感触のおかげか、それとも髪飾りで母親に偽装したおかげか、僕はちょっと安心してきた。
そうだ、没交渉とはいえ、少なくともジュリオン様の記憶の中では「扱いにくい息子」として――まだ「家族」としては見られていたはずだ。
放置気味で現代基準だとネグレクトではあっても明確に遠ざけられたり虐げられたりはしていなかった――と、記憶の中のジュリオン様視点でもそう感じている。
なら、そんな息子でも。
せめて自然な愛想で母さん譲りな顔を活かせば、何時間もお説教をされる程度で済んで、愛想を尽かされたり勘当されたり処分されたりはしないはず。
……大丈夫。
経験はケタ違いとはいえ、兄さんは前世の僕より年下の高校生で、父さんも30代と、上司ではあっても1個上の年代――そう考えたらそこまで怖くはなくなってきた。
じゃあ――ジュリオンボディー(フェイス)っていうチートを使えない戦いを――。
「セレスティーヌゥゥゥゥゥ――――――!?」
「ママァァァァァァ――――――――――!?」
「……は?」
◇
そんな3年前を思い出すという現実逃避先から戻ってきた僕は、悲しんだ。
ああ。
僕はバカだった。
――この世界での産みの母親が、盆栽いじりが趣味のおじいちゃんや豚貴族さんをあんなにするくらいなのに、その夫と息子へは何も被害を出していないだなんて思い込んでいたんだから。
「セレスぅ……寂しかったよぉ……何十日も離れていたよぅ……」
「はいはい、女装した息子の膝で良いんならもう好きにしてください父上」
「ピエール……」
「はいはい、ピエールと呼び捨てにして良いんならしてあげますから」
「セレスぅぅぅぅぅ……!」
「ママぁぁぁぁぁぁ……!」
今世の父さん。
パパン。
その人は超の着くイケメンおじさん(30代後半成人男性)――なのに、帰宅して早々に女装した息子(10歳男子・元20代成人男性)へ抱きつき、じょりじょりと頬ずりをし――おもむろに座り込み、膝枕をされている情けないおじさん。
……これが、僕の父親なんだ。
「ああ……セレスの匂い……」
「母上の服に母上のシャンプー使っていますからね」
「これが……バブみ……」
「息子に覚えないでくださいそんなしょうもない感覚」
この父親は……もうダメかもしれない。
「なぁ、俺の子を……」
「さすがに気持ち悪すぎるので勘弁してください気持ち悪いです気持ち悪すぎです父上、あと僕は男です」
「大丈夫だ、こんなこともあろうかと男でも子を成せる方法を捜させている……いずれはきっと……!」
「………………………………」
この父親は、もうダメかもしれない。
女装してるからといって、亡き妻の幼いころそっくりだからといって、欲情するとか……人としてはすでにダメになっているけども。
全ての人に守られ甘やかされ、平和な前世と似たような空気を感じながらも屋敷っていうゆりかご――反発するだけの何も知らないジュリオン様として、兄のスペアとしてではあってもなにひとつ不自由することなく養われてきた、今世の僕。
そんな僕がいきなり彼らに会っても、「戦場も知らない子供」としか見られない。
――なのにそんな僕が、父さんたちの不在を良いことに父さんたちの権力を勝手に使って、町でいろいろやらかした。
その情報はすでに伝わっているはず。
きっと、激怒しているはずだ。
かつん、かつん。
屋敷の廊下を歩く音が、やけに脳に響いてくる。
……ジュリオン様のスペック、それも潜在能力だけは主人公くん級――だけど、その中身はやっぱりただの市民Bでしかない僕。
堂々と話せる以前に、足がすくんでただ震えるだけってのも充分にあり得る。
……ああ、やっぱりこういうところで人生の経験値ってのが出るんだよな。
前世の僕としての記憶も――自意識として20代っぽいしな。
つまりは会社の新人、あるいは数年経ってちょっと慣れた程度の若造――そんな存在がやらかした直後に、損害を与えた巨大国際企業のトップと面会するようなもの。
しかも前世の記憶はほぼ皆無、今世の記憶だって実質的に3年分ときた。
つまりはただ頭でっかちな子供でしかない。
そりゃあ、緊張しないわけがないんだ。
「……ユ――ジュリオン様、失礼します」
と、玄関に近づき馬車の音が聞こえてきたところで、使用人さん――メイドさんの1人がおもむろに近づいてきて――。
「……これは?」
「はい、セレスティーヌ様の髪飾りでございます」
僕の前髪に着けるだけのはずなのに、なぜかぎゅむっと前から抱きつくようにしてお胸をばふっとくっつけられてから満足げに離れる彼女。
……この人……馬車でもずっと、他の人たちと一緒に僕に張り付いてたよなぁ……。
正直眼福だし、男としてはお胸でぱふっとされて気持ちとしては嬉しいけども、7歳児の肉体じゃそれ以上にはならないから悲しい気持ち。
それはともかく、髪飾り。
きっと――せめて母さんの息子っていう地位を振りかざしてやんちゃしたお説教を、母さんの遺品で母さん譲りの姿を演出し、怒りを抑えようとしてくれたんだろう。
「ありがとう。嬉しいわ」
「 」
ふぅ、と息を吐き――あえて笑顔を作り、愛想を振りまく練習。
……でもなんで今、口調を戻したのに「嬉しいわ」とか言ったんだろ。
もしや精神まですでにメス――いや、きっと癖が残ってるだけだ、そうに決まっている。
「ユリア様」として人と話すときはときどきこうなってたし……うん、きっと良くあることだろう。
「笑顔ってのは偽物でも作るだけで機嫌が良くなる」っていう、前世のライフハックを思い出す。
そのおかげか、それともお胸の感触のおかげか、それとも髪飾りで母親に偽装したおかげか、僕はちょっと安心してきた。
そうだ、没交渉とはいえ、少なくともジュリオン様の記憶の中では「扱いにくい息子」として――まだ「家族」としては見られていたはずだ。
放置気味で現代基準だとネグレクトではあっても明確に遠ざけられたり虐げられたりはしていなかった――と、記憶の中のジュリオン様視点でもそう感じている。
なら、そんな息子でも。
せめて自然な愛想で母さん譲りな顔を活かせば、何時間もお説教をされる程度で済んで、愛想を尽かされたり勘当されたり処分されたりはしないはず。
……大丈夫。
経験はケタ違いとはいえ、兄さんは前世の僕より年下の高校生で、父さんも30代と、上司ではあっても1個上の年代――そう考えたらそこまで怖くはなくなってきた。
じゃあ――ジュリオンボディー(フェイス)っていうチートを使えない戦いを――。
「セレスティーヌゥゥゥゥゥ――――――!?」
「ママァァァァァァ――――――――――!?」
「……は?」
◇
そんな3年前を思い出すという現実逃避先から戻ってきた僕は、悲しんだ。
ああ。
僕はバカだった。
――この世界での産みの母親が、盆栽いじりが趣味のおじいちゃんや豚貴族さんをあんなにするくらいなのに、その夫と息子へは何も被害を出していないだなんて思い込んでいたんだから。
「セレスぅ……寂しかったよぉ……何十日も離れていたよぅ……」
「はいはい、女装した息子の膝で良いんならもう好きにしてください父上」
「ピエール……」
「はいはい、ピエールと呼び捨てにして良いんならしてあげますから」
「セレスぅぅぅぅぅ……!」
「ママぁぁぁぁぁぁ……!」
今世の父さん。
パパン。
その人は超の着くイケメンおじさん(30代後半成人男性)――なのに、帰宅して早々に女装した息子(10歳男子・元20代成人男性)へ抱きつき、じょりじょりと頬ずりをし――おもむろに座り込み、膝枕をされている情けないおじさん。
……これが、僕の父親なんだ。
「ああ……セレスの匂い……」
「母上の服に母上のシャンプー使っていますからね」
「これが……バブみ……」
「息子に覚えないでくださいそんなしょうもない感覚」
この父親は……もうダメかもしれない。
「なぁ、俺の子を……」
「さすがに気持ち悪すぎるので勘弁してください気持ち悪いです気持ち悪すぎです父上、あと僕は男です」
「大丈夫だ、こんなこともあろうかと男でも子を成せる方法を捜させている……いずれはきっと……!」
「………………………………」
この父親は、もうダメかもしれない。
女装してるからといって、亡き妻の幼いころそっくりだからといって、欲情するとか……人としてはすでにダメになっているけども。
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