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6章 女装して辺境伯領を堕とした(10歳)
109話 女神マルテルさん
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「――ユリアの」
「え?」
ぼそり。
彼女が、話を続ける。
「ユリアの婚約者……その人の、こと。そんなに、嫌い……なのかしら」
てっきりまた静かになってくれると思ったら、今日はなんだか話し足りないらしい。
それとも僕の愚痴に付き合うためか、普段にはない積極性だ。
それとも、彼女も婚約者が苦手だったりするのかな。
「以前、と言っていたから数年前……そのときに、あまりに幼すぎて嫌いになったり……」
ふむ。
どうやらマルテルさんもまた、婚約者のことで悩みがある様子。
……この子は自分のことを詳しく話して相談するタイプじゃないし、たぶん僕のことを聞いてるだけだろう。
それが参考になれば良いし、そうでなくても僕がちょっとだけ楽になる。
やっぱりこの子は女神かな?
「嫌いではありません」
「それではなぜ?」
「それは……その」
――正直なんにも覚えていませんけど、なんか悪いこと言って泣かせました。
さすがにそんな事実を告げる勇気は、僕には無い。
こんな返事はひどすぎる、あまりにもクズ過ぎる。
すべてはジュリオン様が悪くって、ジュリオン様が詳しく覚えていないのが悪いんだ。
……まぁ、その時期が時期――産みの母親の死の直後だから無理もないんだけどさぁ……これ完全に父さんのミスでしょ、婚約者の子とのファーストコンタクトとかすっごく大切なイベントの。
たぶんその時期は父さんもそれどころじゃなかったのは想像つくけども……そんなんだから原作ではジュリオン様が盛大にグレて危うく人類滅ぼそうとすることもあったんだぞ。
そのジュリオン様、たぶんもうエミリーちゃんのせいで居ないけど。
「幼いころの私は……その。今よりも潔癖と言いますか」
覚えてないものはしょうがない、っていうか本当に前世の僕としては身に覚えがないレベルの冤罪なんだけども肉体的には紛れもなく僕自身だからなんとかしなきゃならないのも僕だ。
なんてことだ。
だから、たぶんジュリオン様が暴言を吐くような――幼いころから頭は良く、英才教育も受け、そして位の高い貴族という身分のお坊ちゃまが陥りそうな難癖を想像してみる。
それはマルテルさんみたいな完璧な良家のお嬢様だったら――普通にそう育てられたら普通にそうなりそうな、ある意味仕方のない性格。
わがままお嬢様ってのは、環境と教育のせいで産み出されるんだってね。
まぁメインヒロインの、マルテルさんと同じ金髪の子は血筋とか生まれつきの性格とかもあるし、なによりもメインヒロインだからそれはもうすごすぎる子なんだけども……女神マルテルさんはあの子と比べちゃいけないくらい良い子なはずだし。
だって女神だもん。
それこそ、万が一うちの領で反乱とかあってこれはまずいってなったら、真っ先に頼りたい人No.1なくらいにはさ。
「……他人へ、過度に求めすぎていました。ために、相手の方へ強い言い回しで傷つけてしまって……今のように落ち着くまでに、たくさんの人を傷つけ……『彼女』はその1人で。ええ、人にはできることとそうでないこと、必要なこととそうでないこと……そして求めるべきこととそうでないことがあるというのに」
「………………………………そう」
良し、これならマルテルさんにも納得されるはず。
なんかジュリオン様ブレイン――ともなんか違うっぽいけど、とにかくそれっぽい言い回しで悩みながらの告白って感じだし。
この子は隠してるけどもお嬢様なわけでなんでもそつなくできるし、そもそもこうして僕たちと数日がかりの遠征に出向ける冒険者やれるほど家からも信用されるほどにしっかりしていて実力もある。
――あ、今、婚約者の話なのに――僕は「ユリア様」設定なのに、「彼女」って言っちゃった?
そっとマルテルさんをうかがう。
「………………………………」
特に気にしていない様子でなにやら思案している……なら良いや、セーフセーフ。
マルテルさん。
10歳とはとても思えない成熟っぷり。
や、僕の周りにはエミリーちゃんとかリラちゃんとかルーシーちゃんとかですのちゃんたちばっかりだから、余計にね。
普段から、ふと見るとルーシーちゃんのお世話とか3姉妹のお世話とかおでこちゃんのお世話とかしているし、テオくんとは作戦会議とか戦利品の分配とかを話している。
なのに、彼女たちへ――普通の高位貴族のお嬢様なら間違いなく高飛車になるはずで、そう、ちょうどこの子そっくりな属性のツンデレ過ぎるメインヒロインの、最も扱いづらいあの子のごとくに怒鳴り散らしていてもおかしくないのに、それをしない。
原作の高校生ジュリオン様でも不可能だった、人への優しさを――持てる者なのに他人へ過度を求めることなく、平民相手でもその人を見て柔軟に対応するという女神のごとき精神を持ち合わせしている。
……やっぱりこの子は女神じゃないか?
僕のことをよいしょしない、呼び捨てにしてくれる、いちいち褒めちぎらない、貴族特有の傲慢さもなく、それでいて普通にパーティーと連携が取れる。
「………………………………!」
「……何を考えているのか分からないけど、絶対違うから」
この子――思考を読んだ!?
本当に女神!?
「ユリアって、わりと緩いところあるわよね……いえ、その抜けっぷりが親しみやすさになっているんでしょうけど、とにかく違うから」
もう、良い子なのに褒められるのは苦手なんだから。
だけどそんな子だからこそ、パーティーに誘ったんだ。
………………………………あっ。
そういやこの子、なんか屋台で立ち食いしたときの子に似てる気がする。
「………………………………!」
「違うと思うわよ」
うん、そうだよね。
屋台の店主さんに癇癪ぶつけてたどっかのお嬢様とこの子とを比べたら失礼だもんね。
「え?」
ぼそり。
彼女が、話を続ける。
「ユリアの婚約者……その人の、こと。そんなに、嫌い……なのかしら」
てっきりまた静かになってくれると思ったら、今日はなんだか話し足りないらしい。
それとも僕の愚痴に付き合うためか、普段にはない積極性だ。
それとも、彼女も婚約者が苦手だったりするのかな。
「以前、と言っていたから数年前……そのときに、あまりに幼すぎて嫌いになったり……」
ふむ。
どうやらマルテルさんもまた、婚約者のことで悩みがある様子。
……この子は自分のことを詳しく話して相談するタイプじゃないし、たぶん僕のことを聞いてるだけだろう。
それが参考になれば良いし、そうでなくても僕がちょっとだけ楽になる。
やっぱりこの子は女神かな?
「嫌いではありません」
「それではなぜ?」
「それは……その」
――正直なんにも覚えていませんけど、なんか悪いこと言って泣かせました。
さすがにそんな事実を告げる勇気は、僕には無い。
こんな返事はひどすぎる、あまりにもクズ過ぎる。
すべてはジュリオン様が悪くって、ジュリオン様が詳しく覚えていないのが悪いんだ。
……まぁ、その時期が時期――産みの母親の死の直後だから無理もないんだけどさぁ……これ完全に父さんのミスでしょ、婚約者の子とのファーストコンタクトとかすっごく大切なイベントの。
たぶんその時期は父さんもそれどころじゃなかったのは想像つくけども……そんなんだから原作ではジュリオン様が盛大にグレて危うく人類滅ぼそうとすることもあったんだぞ。
そのジュリオン様、たぶんもうエミリーちゃんのせいで居ないけど。
「幼いころの私は……その。今よりも潔癖と言いますか」
覚えてないものはしょうがない、っていうか本当に前世の僕としては身に覚えがないレベルの冤罪なんだけども肉体的には紛れもなく僕自身だからなんとかしなきゃならないのも僕だ。
なんてことだ。
だから、たぶんジュリオン様が暴言を吐くような――幼いころから頭は良く、英才教育も受け、そして位の高い貴族という身分のお坊ちゃまが陥りそうな難癖を想像してみる。
それはマルテルさんみたいな完璧な良家のお嬢様だったら――普通にそう育てられたら普通にそうなりそうな、ある意味仕方のない性格。
わがままお嬢様ってのは、環境と教育のせいで産み出されるんだってね。
まぁメインヒロインの、マルテルさんと同じ金髪の子は血筋とか生まれつきの性格とかもあるし、なによりもメインヒロインだからそれはもうすごすぎる子なんだけども……女神マルテルさんはあの子と比べちゃいけないくらい良い子なはずだし。
だって女神だもん。
それこそ、万が一うちの領で反乱とかあってこれはまずいってなったら、真っ先に頼りたい人No.1なくらいにはさ。
「……他人へ、過度に求めすぎていました。ために、相手の方へ強い言い回しで傷つけてしまって……今のように落ち着くまでに、たくさんの人を傷つけ……『彼女』はその1人で。ええ、人にはできることとそうでないこと、必要なこととそうでないこと……そして求めるべきこととそうでないことがあるというのに」
「………………………………そう」
良し、これならマルテルさんにも納得されるはず。
なんかジュリオン様ブレイン――ともなんか違うっぽいけど、とにかくそれっぽい言い回しで悩みながらの告白って感じだし。
この子は隠してるけどもお嬢様なわけでなんでもそつなくできるし、そもそもこうして僕たちと数日がかりの遠征に出向ける冒険者やれるほど家からも信用されるほどにしっかりしていて実力もある。
――あ、今、婚約者の話なのに――僕は「ユリア様」設定なのに、「彼女」って言っちゃった?
そっとマルテルさんをうかがう。
「………………………………」
特に気にしていない様子でなにやら思案している……なら良いや、セーフセーフ。
マルテルさん。
10歳とはとても思えない成熟っぷり。
や、僕の周りにはエミリーちゃんとかリラちゃんとかルーシーちゃんとかですのちゃんたちばっかりだから、余計にね。
普段から、ふと見るとルーシーちゃんのお世話とか3姉妹のお世話とかおでこちゃんのお世話とかしているし、テオくんとは作戦会議とか戦利品の分配とかを話している。
なのに、彼女たちへ――普通の高位貴族のお嬢様なら間違いなく高飛車になるはずで、そう、ちょうどこの子そっくりな属性のツンデレ過ぎるメインヒロインの、最も扱いづらいあの子のごとくに怒鳴り散らしていてもおかしくないのに、それをしない。
原作の高校生ジュリオン様でも不可能だった、人への優しさを――持てる者なのに他人へ過度を求めることなく、平民相手でもその人を見て柔軟に対応するという女神のごとき精神を持ち合わせしている。
……やっぱりこの子は女神じゃないか?
僕のことをよいしょしない、呼び捨てにしてくれる、いちいち褒めちぎらない、貴族特有の傲慢さもなく、それでいて普通にパーティーと連携が取れる。
「………………………………!」
「……何を考えているのか分からないけど、絶対違うから」
この子――思考を読んだ!?
本当に女神!?
「ユリアって、わりと緩いところあるわよね……いえ、その抜けっぷりが親しみやすさになっているんでしょうけど、とにかく違うから」
もう、良い子なのに褒められるのは苦手なんだから。
だけどそんな子だからこそ、パーティーに誘ったんだ。
………………………………あっ。
そういやこの子、なんか屋台で立ち食いしたときの子に似てる気がする。
「………………………………!」
「違うと思うわよ」
うん、そうだよね。
屋台の店主さんに癇癪ぶつけてたどっかのお嬢様とこの子とを比べたら失礼だもんね。
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