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6章 女装して辺境伯領を堕とした(10歳)
118話 サキュバスが追ってくる
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「――いいわね? 合図をしたら、階段を駆け上がる。――ユリアはお人好しだから、貴女たちの誰かが動けなくても、足を止めて助けようとしてしまう。分かるでしょう?」
僕が弾幕を張り、兄妹がそのあいだを縫うようにエロディーの注意を引き続ける。
この状況は、長く持って数分――僕たちの魔力が尽きるか、魔族が遊ぶのをやめるかしか持たない。
「……ええ」
「大丈夫……ですわ」
「がんばりますの」
それを分かっている3人は、弱々しくも、はっきりとマルテルさんに応える。
この状況においても不屈の意志と優しさをにじませる、本物の高位貴族令嬢――あと、いろいろと偽物ではあっても同じような僕を見て、ですわちゃんたちもいくらか目に光を戻している。
「……淑女ならば、いざというときの覚悟は決めているはず。その『いざ』も、ユリアと私の方が先に訪れる――だって、私たちの方が民のすべてを守護する、王に近い血筋なのだから。貴女たちは、合図で全力で走れるよう、今のうちに立て直して頂戴」
本物の貴族令嬢とは、かくあるべし。
身分関係で、有無を言わせない命令。
そんなかっこよさに、下位とはいえ同じ貴族令嬢として尊敬のまなざしが向けられている。
カリスマ。
僕のみたいに借り物でも前世からの持ち越しでの力技ではなく、本物のネイチャーメイドの器だ。
「それに……あの子のことは、気づかれないようにしないとね」
「ええ。あの魔族に遭遇してからすでに数分――ルーシーが上の階層に到達して、全力で脱出しようとしてくれているはずですから」
僕が正気を取り戻したときには姿を消していたルーシーちゃん。
実は人質にと捕まったのかと焦ったけども、エロディーのそばにもオークたちの中にも彼女は居らず――そもそも人質とかいう格好の獲物を捕まえたのなら、それを活かさないはずはない。
だから……いつどうやってかは分からないけども、直前までは確かに階段の最下段まで降りてきた彼女が――普段はおどおどして、ですのよ3姉妹に指示されるのを待っているはずの彼女が何も言わずに駆け上がったのだと想像する。
――ルーシーちゃんが1人で逃げたという発想は、誰もしていない。
だって、あの子はそんな子じゃない。
そのくらいは、この3年一緒に居てみんなが理解しているから。
むしろへっぴり腰で泣きじゃくりながら一緒に戦おうってするタイプだから。
でもきっと、いい感じの隙を見つけて――声をかけたらバレるから、そっと走りだしたんだろう。
「救助が来る前提なら――そろそろ普段のように何手も先まで見通しての指揮をお願いできるかしら? ユリア」
「……任せてください」
そうだ。
こちらには、マグレだろうと何だろうと1度倒した経験と、なによりも曖昧だろうと彼女の情報があるんだ。
――今のところ、時たま出てくるジュリオン様の残滓か何かの思考や言動は出てきていない。
なら、まだ僕自身は本気で危機を覚えているわけではない。
まだ、余裕がある。
余裕があるうちは、なんとか状況を良くすることができるはずだ。
いざというときでも、ルーシーちゃんが――最短往復10日で、援軍を連れてきてくれるはずだから。
◇
それから――数十分。
僕たちは最下層から脱出しては、いた。
「はぁっ! とぉっ! ……兄ちゃん、投擲できるもんがなくなっちまった!」
「ああ! ここからは、かつて女神様が降臨なされたときに告げた、必殺の武器――地面に落ちてる石を使え!」
ひゅんひゅんっ。
結局なぜか――本当になぜか、最下層への階段を降りてすぐの場所に居た僕の目の前まで迫っておきながら、とうとうに僕たちへ直接の攻撃をしてこなかったエロディー。
――ダンジョンにはダンジョンとしてのルールが存在し、いくつかの例外を除き、人もモンスターも全てそれに縛られる。
そのひとつに「モンスターは階層をまたいで移動ができない、またはできて1階層だけ『だろう』」というものがある。
階層ごとに変わるモンスターの顔ぶれが――ゲームの中でもこの世界のリアルでもがらりと変わり、上と下の階層から流れて来たと思われる場合でも、せいぜいがその上下の階層のそれらが微妙に混ざる程度だから。
だから今回も、階段を登ってしまえばサキュバスの追撃からは逃れられる。
……もちろん相手が相手だからそう簡単に行くとは僕たちの誰も思っていなかった。
だけど、
「この階層のかわいい子たちぃ? 集まりなさぁい♥」
「「グオオオオオ!!」」
どすどすどすどす。
ダンジョン中に響く声とともに、オークたちの気配。
「……っ、どこから現れたのよ、あの魔族! それに、フロアじゅうのモンスターまで使役して!」
「転移魔法……魔王軍、その幹部ともなれば不思議ではありません」
ですのちゃんたちも、最下層からの階段を駆け上がってから立ち直ってきて自衛程度はできるようになっている。
なによりも。
――ひゅぱっ。
魔法攻撃ではなく、通常攻撃。
僕のムチでの攻撃が、普通に通る階層まで上がってきている。
もう少し。
もう少しだ。
「エンッ!」
「オンナ、コワイ……」
僕の操るムチの先端が、オークやゴブリンの急所をぷちっと刈り取っていく。
……僕が刈り取るたびに、みんなの目が尊敬と――テオくんからは恐怖で色づくんだ。
そうだ、男、オスなんて弱っちいんだ。
恐れるべきは弱点のないサキュバスだけ。
泳がされていたとしても、今は全力で上へ向かう。
……無事に戻れたら、1から鍛えよう。
すでにレベルが10くらいにはなっていたとしても、それで慢心しちゃいけなかったって、今回ので良く理解したから。
主人公くんのことは――この世界全体としても、もちろん大切。
でも、それ以上に僕にとっては――今、一緒に来てくれている子たちの方が大切だから。
彼のためのダンジョンもいくつか使わせてもらって、レベリングを。
……まず、ここから無事に戻れたらの話だけどね。
僕が弾幕を張り、兄妹がそのあいだを縫うようにエロディーの注意を引き続ける。
この状況は、長く持って数分――僕たちの魔力が尽きるか、魔族が遊ぶのをやめるかしか持たない。
「……ええ」
「大丈夫……ですわ」
「がんばりますの」
それを分かっている3人は、弱々しくも、はっきりとマルテルさんに応える。
この状況においても不屈の意志と優しさをにじませる、本物の高位貴族令嬢――あと、いろいろと偽物ではあっても同じような僕を見て、ですわちゃんたちもいくらか目に光を戻している。
「……淑女ならば、いざというときの覚悟は決めているはず。その『いざ』も、ユリアと私の方が先に訪れる――だって、私たちの方が民のすべてを守護する、王に近い血筋なのだから。貴女たちは、合図で全力で走れるよう、今のうちに立て直して頂戴」
本物の貴族令嬢とは、かくあるべし。
身分関係で、有無を言わせない命令。
そんなかっこよさに、下位とはいえ同じ貴族令嬢として尊敬のまなざしが向けられている。
カリスマ。
僕のみたいに借り物でも前世からの持ち越しでの力技ではなく、本物のネイチャーメイドの器だ。
「それに……あの子のことは、気づかれないようにしないとね」
「ええ。あの魔族に遭遇してからすでに数分――ルーシーが上の階層に到達して、全力で脱出しようとしてくれているはずですから」
僕が正気を取り戻したときには姿を消していたルーシーちゃん。
実は人質にと捕まったのかと焦ったけども、エロディーのそばにもオークたちの中にも彼女は居らず――そもそも人質とかいう格好の獲物を捕まえたのなら、それを活かさないはずはない。
だから……いつどうやってかは分からないけども、直前までは確かに階段の最下段まで降りてきた彼女が――普段はおどおどして、ですのよ3姉妹に指示されるのを待っているはずの彼女が何も言わずに駆け上がったのだと想像する。
――ルーシーちゃんが1人で逃げたという発想は、誰もしていない。
だって、あの子はそんな子じゃない。
そのくらいは、この3年一緒に居てみんなが理解しているから。
むしろへっぴり腰で泣きじゃくりながら一緒に戦おうってするタイプだから。
でもきっと、いい感じの隙を見つけて――声をかけたらバレるから、そっと走りだしたんだろう。
「救助が来る前提なら――そろそろ普段のように何手も先まで見通しての指揮をお願いできるかしら? ユリア」
「……任せてください」
そうだ。
こちらには、マグレだろうと何だろうと1度倒した経験と、なによりも曖昧だろうと彼女の情報があるんだ。
――今のところ、時たま出てくるジュリオン様の残滓か何かの思考や言動は出てきていない。
なら、まだ僕自身は本気で危機を覚えているわけではない。
まだ、余裕がある。
余裕があるうちは、なんとか状況を良くすることができるはずだ。
いざというときでも、ルーシーちゃんが――最短往復10日で、援軍を連れてきてくれるはずだから。
◇
それから――数十分。
僕たちは最下層から脱出しては、いた。
「はぁっ! とぉっ! ……兄ちゃん、投擲できるもんがなくなっちまった!」
「ああ! ここからは、かつて女神様が降臨なされたときに告げた、必殺の武器――地面に落ちてる石を使え!」
ひゅんひゅんっ。
結局なぜか――本当になぜか、最下層への階段を降りてすぐの場所に居た僕の目の前まで迫っておきながら、とうとうに僕たちへ直接の攻撃をしてこなかったエロディー。
――ダンジョンにはダンジョンとしてのルールが存在し、いくつかの例外を除き、人もモンスターも全てそれに縛られる。
そのひとつに「モンスターは階層をまたいで移動ができない、またはできて1階層だけ『だろう』」というものがある。
階層ごとに変わるモンスターの顔ぶれが――ゲームの中でもこの世界のリアルでもがらりと変わり、上と下の階層から流れて来たと思われる場合でも、せいぜいがその上下の階層のそれらが微妙に混ざる程度だから。
だから今回も、階段を登ってしまえばサキュバスの追撃からは逃れられる。
……もちろん相手が相手だからそう簡単に行くとは僕たちの誰も思っていなかった。
だけど、
「この階層のかわいい子たちぃ? 集まりなさぁい♥」
「「グオオオオオ!!」」
どすどすどすどす。
ダンジョン中に響く声とともに、オークたちの気配。
「……っ、どこから現れたのよ、あの魔族! それに、フロアじゅうのモンスターまで使役して!」
「転移魔法……魔王軍、その幹部ともなれば不思議ではありません」
ですのちゃんたちも、最下層からの階段を駆け上がってから立ち直ってきて自衛程度はできるようになっている。
なによりも。
――ひゅぱっ。
魔法攻撃ではなく、通常攻撃。
僕のムチでの攻撃が、普通に通る階層まで上がってきている。
もう少し。
もう少しだ。
「エンッ!」
「オンナ、コワイ……」
僕の操るムチの先端が、オークやゴブリンの急所をぷちっと刈り取っていく。
……僕が刈り取るたびに、みんなの目が尊敬と――テオくんからは恐怖で色づくんだ。
そうだ、男、オスなんて弱っちいんだ。
恐れるべきは弱点のないサキュバスだけ。
泳がされていたとしても、今は全力で上へ向かう。
……無事に戻れたら、1から鍛えよう。
すでにレベルが10くらいにはなっていたとしても、それで慢心しちゃいけなかったって、今回ので良く理解したから。
主人公くんのことは――この世界全体としても、もちろん大切。
でも、それ以上に僕にとっては――今、一緒に来てくれている子たちの方が大切だから。
彼のためのダンジョンもいくつか使わせてもらって、レベリングを。
……まず、ここから無事に戻れたらの話だけどね。
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