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6章 女装して辺境伯領を堕とした(10歳)
120話 サキュバスに気に入られた
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「貴女……これからどんな目に遭うのか、分かってるわよねぇ?」
「ええ。これでも貴族の端くれ――貴女のようなサキュバスの生態も、このダンジョンに充満しているモンスターたちの特性も、理解しています。これからの、運命も」
じぃっ。
彼女の指先が、僕の肌に触れながらも這い回るのを止めている。
「………………………………」
「………………………………」
――ああ、綺麗だ。
カラーリングこそ僕たち人類とはまるで違うけども、「ここではない外の世界」で大人気になるように、その本質的な造りは僕たち人間と共通している。
だから、人間を「男女問わずに美しさでも堕とすというため」だけの見た目が、色さえ反転させたら美女でしかない彼女の瞳が、どうしても憎めない。
「……驚いた。貴女、本当にそう思っているのねぇ。身体が、そう言っているわ」
不敵で魅了してこようとする笑みは潜められ、代わりに――ああ、これは知っている。
これは、エロディーが魔王ジュリオン様を見つめるときと、そっくりな顔つき。
ほとんどの存在に対しては魅了で堕とすだけの彼女が、魅了を使用せず、自分が魅了されているときの瞳。
「私、貴女のことが大好きになったわ。もちろん本気で――たかが人間でも、貴女だけは特別に……ね」
「んっ……」
指が首筋を撫でてきて、思わずでうわずった声が出る。
彼女の目が、変わっている。
先ほどまでの嗜虐と侮蔑が含まれたそれから――――――魔王ルートで、ジュリオンの身代わりにと彼と別れる場面のイベントスチル、1枚絵のそれに。
「――貴女は大切に大切に愛でてあげて、どろどろに融かしてあげて……魔王様にもしもべたちにもだぁれにも絶対にあげない、かわいいかわいい『妹』として永遠に管理してあげる……♥」
――周囲を見ると、彼女の意識は完全に僕へ移ったのか、モンスターたちは支配を解かれてばらばらに散開。
「えぇ、それがいいわぁ……♥ 染め上げた後、体も作り替えてあげましょう……もちろん見た目は絶対に細胞1つ分も変えずに、だけど――私と同じ、悠久の刻を快楽で満たす、サキュバスに……♥」
僕のほうを見る個体も居るけども……ゴブリンでさえ格の違いは分かるのか、ちらりとエロディーを見上げてから諦め、どこへともなく去っていく。
――彼女の気配が、濃くなる。
この空間全体が、サキュバスの魅了に包まれていく。
僕の感覚も感情も思考も、薄れていく。
「気高い貴族の――それも、かなーり濃度の濃い王族の血と魂を受け継いだ子。それに、あの人間たちの中でも特に素敵だった『あの子』みたいな突然変異――貴女の名前を、教えてくれるかしらぁ……?」
◇
「ユリア……ごめんなさい、ごめんなさい……!」
息も絶え絶えに、けれども脚を止めることなく最上階――地上への階段を駆け上がるマルテル。
目元からは涙が途切れることはなく、自責の念が浮かんだ表情は……およそ10歳の少女が背負いきれないもの。
――見捨てた。
自分が、見捨てた。
私が助かるために、ユリアを生贄に捧げた。
その気持ちで、はち切れそうになりながら――それでも「彼女」との約束を守るため、着いてくる少女たちを鼓舞しながら階段を登り続ける。
「うぅ……ユリア様……」
「わたくし、何から何まで面倒を見てくださっている御方に……」
「でも、これがユリア様の望むことなのですわ……なんて、なんて……!」
彼女の後ろの少女たちは――貴族の子女としての誇りなど忘れ、ぐちゃぐちゃになって泣いており。
「……あー、姉御だから大丈夫だっつー安心感と、姉御だからもっとまずいっつーのがなぁ。だってサキュバスってあれだろ? 女相手でもそうだけど、特に……」
「う、うん……でも、ひとまず……の場合は……よりも時間がかかるという話だし、あの人には切り札もある。だが……いや、俺たちが急いで援軍を連れてくれば……」
「………………………………?」
ふとマルテルが振り返った後ろの――ふたたびに陣形を逆転したために最後尾を固めている姉弟。
ユリアの専属護衛として「常に」そばに居り、いつ聞いてもユリアへの絶対の忠誠と尊敬と憧れを止めることのない2人が話し合う声。
そのトーンは「ゴブリンたちを率いるサキュバスに捕獲された貴族令嬢である主人」を心配し、絶望するものとはほど遠く――ために、ユリアは少しいぶかしげなまなざしを送る。
「……いいえ、今はとにかく最短で最寄りの町へたどり着くことだけ……待っていて、ユリア。そしてどうか……貴女の、その高潔な魂が完全に堕ちてしまう前に……!」
少女たちは、走る。
――自分たちよりも先に脱出したはずの、もう1人の少女のことなど忘れて。
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「ええ。これでも貴族の端くれ――貴女のようなサキュバスの生態も、このダンジョンに充満しているモンスターたちの特性も、理解しています。これからの、運命も」
じぃっ。
彼女の指先が、僕の肌に触れながらも這い回るのを止めている。
「………………………………」
「………………………………」
――ああ、綺麗だ。
カラーリングこそ僕たち人類とはまるで違うけども、「ここではない外の世界」で大人気になるように、その本質的な造りは僕たち人間と共通している。
だから、人間を「男女問わずに美しさでも堕とすというため」だけの見た目が、色さえ反転させたら美女でしかない彼女の瞳が、どうしても憎めない。
「……驚いた。貴女、本当にそう思っているのねぇ。身体が、そう言っているわ」
不敵で魅了してこようとする笑みは潜められ、代わりに――ああ、これは知っている。
これは、エロディーが魔王ジュリオン様を見つめるときと、そっくりな顔つき。
ほとんどの存在に対しては魅了で堕とすだけの彼女が、魅了を使用せず、自分が魅了されているときの瞳。
「私、貴女のことが大好きになったわ。もちろん本気で――たかが人間でも、貴女だけは特別に……ね」
「んっ……」
指が首筋を撫でてきて、思わずでうわずった声が出る。
彼女の目が、変わっている。
先ほどまでの嗜虐と侮蔑が含まれたそれから――――――魔王ルートで、ジュリオンの身代わりにと彼と別れる場面のイベントスチル、1枚絵のそれに。
「――貴女は大切に大切に愛でてあげて、どろどろに融かしてあげて……魔王様にもしもべたちにもだぁれにも絶対にあげない、かわいいかわいい『妹』として永遠に管理してあげる……♥」
――周囲を見ると、彼女の意識は完全に僕へ移ったのか、モンスターたちは支配を解かれてばらばらに散開。
「えぇ、それがいいわぁ……♥ 染め上げた後、体も作り替えてあげましょう……もちろん見た目は絶対に細胞1つ分も変えずに、だけど――私と同じ、悠久の刻を快楽で満たす、サキュバスに……♥」
僕のほうを見る個体も居るけども……ゴブリンでさえ格の違いは分かるのか、ちらりとエロディーを見上げてから諦め、どこへともなく去っていく。
――彼女の気配が、濃くなる。
この空間全体が、サキュバスの魅了に包まれていく。
僕の感覚も感情も思考も、薄れていく。
「気高い貴族の――それも、かなーり濃度の濃い王族の血と魂を受け継いだ子。それに、あの人間たちの中でも特に素敵だった『あの子』みたいな突然変異――貴女の名前を、教えてくれるかしらぁ……?」
◇
「ユリア……ごめんなさい、ごめんなさい……!」
息も絶え絶えに、けれども脚を止めることなく最上階――地上への階段を駆け上がるマルテル。
目元からは涙が途切れることはなく、自責の念が浮かんだ表情は……およそ10歳の少女が背負いきれないもの。
――見捨てた。
自分が、見捨てた。
私が助かるために、ユリアを生贄に捧げた。
その気持ちで、はち切れそうになりながら――それでも「彼女」との約束を守るため、着いてくる少女たちを鼓舞しながら階段を登り続ける。
「うぅ……ユリア様……」
「わたくし、何から何まで面倒を見てくださっている御方に……」
「でも、これがユリア様の望むことなのですわ……なんて、なんて……!」
彼女の後ろの少女たちは――貴族の子女としての誇りなど忘れ、ぐちゃぐちゃになって泣いており。
「……あー、姉御だから大丈夫だっつー安心感と、姉御だからもっとまずいっつーのがなぁ。だってサキュバスってあれだろ? 女相手でもそうだけど、特に……」
「う、うん……でも、ひとまず……の場合は……よりも時間がかかるという話だし、あの人には切り札もある。だが……いや、俺たちが急いで援軍を連れてくれば……」
「………………………………?」
ふとマルテルが振り返った後ろの――ふたたびに陣形を逆転したために最後尾を固めている姉弟。
ユリアの専属護衛として「常に」そばに居り、いつ聞いてもユリアへの絶対の忠誠と尊敬と憧れを止めることのない2人が話し合う声。
そのトーンは「ゴブリンたちを率いるサキュバスに捕獲された貴族令嬢である主人」を心配し、絶望するものとはほど遠く――ために、ユリアは少しいぶかしげなまなざしを送る。
「……いいえ、今はとにかく最短で最寄りの町へたどり着くことだけ……待っていて、ユリア。そしてどうか……貴女の、その高潔な魂が完全に堕ちてしまう前に……!」
少女たちは、走る。
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