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2章 女装してギルドを堕とした
15話 初めての町と臭さと孤児と
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「はい、ここはルシヨンの町だよ。ここに門をくぐるための税金が書いてあるんだけど……えーっと、お嬢ちゃんには……あ、はい、お貴族様でございますね。無礼をお詫び申し上げ――あ、はい、そうおっしゃる――言うのなら」
「お一人で旅をされているお貴族様には今更でございます――だけど、町の中で揉め事は起こさないように。お嬢――ちゃんなら、多分持ってるだろう紋章入りの身分証見せたら軽い事情聴取だけで解放するけど、面倒には変わらないからね」
「ああ、やっぱり冒険者で――なんだね。なら、最寄りのギルドは入ってまっすぐの大通りを行った先の――」
◇
「今の子供は?」
「はい、どうやらどこぞのお貴族様のご令嬢がお忍びのようで。言葉づかいや装飾品などから、偽りでないと判断しました。ために紋章は確認しませんでしたが……」
「ああ、良い。特に手配書も回っていないし、それでどこぞのお貴族様の不興を買っても損するだけだ。それに子供だったんだろう?」
「ええ……一瞬しか確認しませんでしたが、フードの下はものすごい美形で……まるで彫刻のようで」
「ふむ……なんだか昔を思い出すな」
「まぁ珍しいですけど、ないわけではありませんからね」
「……そうだな。あのとき……確か20年ほど前にも、あの御方は……ご身分を隠されることもなく堂々と家出をされたとおっしゃっていた。……あの時期の気苦労に比べたら、普通のお貴族様がどれだけお優しいか……」
「まーた始まったよ、隊長の昔話」
「まあまあ、どの町でもみんな似たようなこと言ってるし、嘘じゃないんだろうし……」
「お貴族様なんてなぁ……手癖の悪いのも多いから、できたら関わりたくはないよなぁ……」
「ああ、この町も孤児を中心に『おいた』をされているしなぁ……」
◇
「ふおおお……!」
僕の目の前には――厳密には上方には――憧れの中世欧州の小都市……ではなく、大都市の姿がある。
ちらりと弾丸旅行した欧州の町並みと比較すると――現代まで残る中核都市の歴史地区並みのサイズはありそう。
「………………………………?」
……あ、なるほど……こうやって似た雰囲気のところとか来たりすると、ちょっとだけだけど前世の記憶が戻るんだ……や、どこの国のどこの町とか、誰と行ったとかいつ行ったとかは思い出せないけども。
物理的に肩を寄せ合っている5階建てくらいのレンガ造りの家々、ずっと先へと続いている石畳、それらで反響する町の声。
現代で換算すると対面通行で合計4車線くらいの大通りは、あふれんばかりの人々や時たま通る馬車でひっきりなし。
そのいずれにも現代の息吹はなく――けほっ。
「……くしゃい……」
思わずで幼児言葉が飛び出すほど――まぁ肉体年齢7歳、っていうか現代換算6歳だしな。
けども、とにかく臭い。
でも、かの有名な「汚物が宙を舞う花を摘む場所の花の都」とか言う矛盾の塊みたいな表現よりはずっとマイルドな感じだ。
あれだ、前世でも多分嗅いだことのある、雨の降る前の大都市の下水の臭いって感じ。
あと、大通りにぼっとんぼっとん落ちてるのは……お馬さんの……。
「………………………………」
まぁいいや……見える範囲には人のオトシモノはないみたいだし……前世の本物に比べたら格段に清潔だから……。
臭いけど我慢できないことはなく、臭くて死ぬこともないレベル。
……つくづくあの屋敷は綺麗だったんだなぁって……まぁ伯爵家、侯爵家と来れば王族に近い高位の貴族、その屋敷だし……。
で、さてさて。
使用人さんから渡されて羽織っている、一見してシミもあればつぎはぎも穴もある、手切れ金代わりかのような末期のフード付きマント。
幸いにして、これは臭くはない。
そして――しばらく隅っこで観察してたけども、ほとんどの人が僕に気がつかないか、気がついても一瞥で興味を失うあたり、そこまで珍しくない一張羅なことが読み取れる。
それを――身長が低くてどう見ても子供でも特に警戒すらしないってことは、それが普通の世界観。
……あの人たち、良くぼんくらぼんぼんにこんなの渡したね……いや、僕的にはむしろ感謝してるんだけどさ。
なにしろボロだからね、間違っても初見で正体がバレることはないはずだ。
こういうときは使い古されてるものの方が良いよね。
え?
なにやら母さんと同一視されてるせいでやばい雰囲気だったって?
ぼく、ななしゃい……じっしつろくしゃい、つまりは早くて小学校1年生、遅くて年長さん……難しいことわかんなーい☆
「……おげぇぇ……」
危うく前世の僕も死ぬところだった……うぅ……苦しい。
とりあえず、僕には演技でもぶりっこは不可能だと悟る。
流石に精神年齢成人男性に子供の演技は無理だったよ……。
ある意味でジュリオン様の偉そう、かつ言葉足らずなあのしゃべり方がぴったり合ってたんだね……。
っていうかこれ、女の子のフリするんならかわいく「私」とか――あ、はい、なんとなくこれも吐き気催すからこのままで。
ま、まぁ、中学生くらいまでなら女の子でも僕っ子は痛々しく……ごめん、痛々しいかもだけど、不自然ではないはずだから……きっと。
少なくとも僕は好きだから……。
あ、でも、社会人ベースでの「私」なら……ん、大丈夫そう。
とりあえずのしゃべりは社会人の下っ端な感覚で行けば良さそうだ。
大丈夫。
あ、でも、ネット上で、あくまで丁寧な対応のために「ですます調」と「私」で見知らぬ人と会話してたらガチ恋された記憶が浮かんできておろろろろ。
「ふぅ」
なるほど、トラウマも封印してくれてるんだね前世……そのまま隠し通してね。
さて。
まずはこのまま教えられたようにギルドに出向くところだけども、
「――スリだ! 捕まえてくれ!」
お?
何気に身の回りで犯罪が起きるのとか、前世換算で初めてかも?
なんかちょっとわくわくするよねこういうの――自分が巻き添え食らわなければ。
さて、目線を動くものや音に集中して、いざ大取物が始まる――と、思いきや。
「あー、ダメだな、あれは孤児だ」
「捕まえると後で面倒くさいからなぁ」
「いくら入ってた? ……ああ、なら諦めとけ。どうせ盗まれても良い用の財布だろ? え? 違う? お前田舎もんか……かわいそうにな」
「都市部にはああいうのが居るんだよ……追っかけても無駄だ、路地裏はやつらの縄張りだからな」
「俺が1杯おごってやる。ところでお前、顔、綺麗だよな……」
……最後のは聞かなかったことにしよう。
出会いは出会い、それでいいじゃないか。
さて、そんな感じでそこそこの大騒ぎ――だけども、町を行き交う大人たちは、最初に騒いだだけで後は成り行きを見守るだけ。
特に衛兵が動き出すそぶりは……あ、あるっぽいけど、走ったり大声出してないあたり、やる気ないね。
それが果たして職務放棄なのか、それとも中世都市のダークサイドをある程度認めて治安を維持するためなのか。
けども……え?
やっぱ中世ってそんなに治安悪い?
スリで騒ぎにならないレベルで?
……あ、いや、僕の前世の記憶っていうか知識でも、かなり治安が良かったはずの母国でも、前世の僕が生まれる前の時代は安定してても軽犯罪はわりと横行してたらしい……なら普通か。
……いやいや、それだって犯人を捕まえるのにちょっとした騒動になってたって知識があるし、きっとそれよりは格段に荒れているんだろう。
こわぁ……僕も気をつけよう。
大前提として物を盗るだけで危害を加えてきたりしないってのがあって、1日に何十件もあったりするとこうもなるのかな。
とりあえずで適当な店で盗まれる用のお財布を、
「――――――…………………」
――一瞬、鋭い目が僕に突き刺さる。
それは、渦中のスリ――今の僕みたいにフードとマント被ってるけども、どうやら子供――のものらしい。
え?
僕、このばっちいのもといぼろいのもちいきちゃないのを目深に被ってても貴族オーラとか出ちゃう?
あ、いや、違うか……あの子も僕と同じきちゃない同士だったから孤児オーラ感じちゃったのかな?
あ、その子、もう路地裏に入っちゃった……ほへー、あれが孤児かぁ。
女の子っぽかったけど、脚速かったなー。
へー、大変だなー。
ほへー。
……いけないいけない、エミリーちゃんが移ってる、頭の中お花畑になっちゃう……くそ雑魚ジュリオン様に育っちゃう……。
うん、あの子、ドジっ子スキルを抑えるまではあのままだから……あと、思考回路は天然ものだから……そこがかわいいヒロインなんだけどね……。
「お一人で旅をされているお貴族様には今更でございます――だけど、町の中で揉め事は起こさないように。お嬢――ちゃんなら、多分持ってるだろう紋章入りの身分証見せたら軽い事情聴取だけで解放するけど、面倒には変わらないからね」
「ああ、やっぱり冒険者で――なんだね。なら、最寄りのギルドは入ってまっすぐの大通りを行った先の――」
◇
「今の子供は?」
「はい、どうやらどこぞのお貴族様のご令嬢がお忍びのようで。言葉づかいや装飾品などから、偽りでないと判断しました。ために紋章は確認しませんでしたが……」
「ああ、良い。特に手配書も回っていないし、それでどこぞのお貴族様の不興を買っても損するだけだ。それに子供だったんだろう?」
「ええ……一瞬しか確認しませんでしたが、フードの下はものすごい美形で……まるで彫刻のようで」
「ふむ……なんだか昔を思い出すな」
「まぁ珍しいですけど、ないわけではありませんからね」
「……そうだな。あのとき……確か20年ほど前にも、あの御方は……ご身分を隠されることもなく堂々と家出をされたとおっしゃっていた。……あの時期の気苦労に比べたら、普通のお貴族様がどれだけお優しいか……」
「まーた始まったよ、隊長の昔話」
「まあまあ、どの町でもみんな似たようなこと言ってるし、嘘じゃないんだろうし……」
「お貴族様なんてなぁ……手癖の悪いのも多いから、できたら関わりたくはないよなぁ……」
「ああ、この町も孤児を中心に『おいた』をされているしなぁ……」
◇
「ふおおお……!」
僕の目の前には――厳密には上方には――憧れの中世欧州の小都市……ではなく、大都市の姿がある。
ちらりと弾丸旅行した欧州の町並みと比較すると――現代まで残る中核都市の歴史地区並みのサイズはありそう。
「………………………………?」
……あ、なるほど……こうやって似た雰囲気のところとか来たりすると、ちょっとだけだけど前世の記憶が戻るんだ……や、どこの国のどこの町とか、誰と行ったとかいつ行ったとかは思い出せないけども。
物理的に肩を寄せ合っている5階建てくらいのレンガ造りの家々、ずっと先へと続いている石畳、それらで反響する町の声。
現代で換算すると対面通行で合計4車線くらいの大通りは、あふれんばかりの人々や時たま通る馬車でひっきりなし。
そのいずれにも現代の息吹はなく――けほっ。
「……くしゃい……」
思わずで幼児言葉が飛び出すほど――まぁ肉体年齢7歳、っていうか現代換算6歳だしな。
けども、とにかく臭い。
でも、かの有名な「汚物が宙を舞う花を摘む場所の花の都」とか言う矛盾の塊みたいな表現よりはずっとマイルドな感じだ。
あれだ、前世でも多分嗅いだことのある、雨の降る前の大都市の下水の臭いって感じ。
あと、大通りにぼっとんぼっとん落ちてるのは……お馬さんの……。
「………………………………」
まぁいいや……見える範囲には人のオトシモノはないみたいだし……前世の本物に比べたら格段に清潔だから……。
臭いけど我慢できないことはなく、臭くて死ぬこともないレベル。
……つくづくあの屋敷は綺麗だったんだなぁって……まぁ伯爵家、侯爵家と来れば王族に近い高位の貴族、その屋敷だし……。
で、さてさて。
使用人さんから渡されて羽織っている、一見してシミもあればつぎはぎも穴もある、手切れ金代わりかのような末期のフード付きマント。
幸いにして、これは臭くはない。
そして――しばらく隅っこで観察してたけども、ほとんどの人が僕に気がつかないか、気がついても一瞥で興味を失うあたり、そこまで珍しくない一張羅なことが読み取れる。
それを――身長が低くてどう見ても子供でも特に警戒すらしないってことは、それが普通の世界観。
……あの人たち、良くぼんくらぼんぼんにこんなの渡したね……いや、僕的にはむしろ感謝してるんだけどさ。
なにしろボロだからね、間違っても初見で正体がバレることはないはずだ。
こういうときは使い古されてるものの方が良いよね。
え?
なにやら母さんと同一視されてるせいでやばい雰囲気だったって?
ぼく、ななしゃい……じっしつろくしゃい、つまりは早くて小学校1年生、遅くて年長さん……難しいことわかんなーい☆
「……おげぇぇ……」
危うく前世の僕も死ぬところだった……うぅ……苦しい。
とりあえず、僕には演技でもぶりっこは不可能だと悟る。
流石に精神年齢成人男性に子供の演技は無理だったよ……。
ある意味でジュリオン様の偉そう、かつ言葉足らずなあのしゃべり方がぴったり合ってたんだね……。
っていうかこれ、女の子のフリするんならかわいく「私」とか――あ、はい、なんとなくこれも吐き気催すからこのままで。
ま、まぁ、中学生くらいまでなら女の子でも僕っ子は痛々しく……ごめん、痛々しいかもだけど、不自然ではないはずだから……きっと。
少なくとも僕は好きだから……。
あ、でも、社会人ベースでの「私」なら……ん、大丈夫そう。
とりあえずのしゃべりは社会人の下っ端な感覚で行けば良さそうだ。
大丈夫。
あ、でも、ネット上で、あくまで丁寧な対応のために「ですます調」と「私」で見知らぬ人と会話してたらガチ恋された記憶が浮かんできておろろろろ。
「ふぅ」
なるほど、トラウマも封印してくれてるんだね前世……そのまま隠し通してね。
さて。
まずはこのまま教えられたようにギルドに出向くところだけども、
「――スリだ! 捕まえてくれ!」
お?
何気に身の回りで犯罪が起きるのとか、前世換算で初めてかも?
なんかちょっとわくわくするよねこういうの――自分が巻き添え食らわなければ。
さて、目線を動くものや音に集中して、いざ大取物が始まる――と、思いきや。
「あー、ダメだな、あれは孤児だ」
「捕まえると後で面倒くさいからなぁ」
「いくら入ってた? ……ああ、なら諦めとけ。どうせ盗まれても良い用の財布だろ? え? 違う? お前田舎もんか……かわいそうにな」
「都市部にはああいうのが居るんだよ……追っかけても無駄だ、路地裏はやつらの縄張りだからな」
「俺が1杯おごってやる。ところでお前、顔、綺麗だよな……」
……最後のは聞かなかったことにしよう。
出会いは出会い、それでいいじゃないか。
さて、そんな感じでそこそこの大騒ぎ――だけども、町を行き交う大人たちは、最初に騒いだだけで後は成り行きを見守るだけ。
特に衛兵が動き出すそぶりは……あ、あるっぽいけど、走ったり大声出してないあたり、やる気ないね。
それが果たして職務放棄なのか、それとも中世都市のダークサイドをある程度認めて治安を維持するためなのか。
けども……え?
やっぱ中世ってそんなに治安悪い?
スリで騒ぎにならないレベルで?
……あ、いや、僕の前世の記憶っていうか知識でも、かなり治安が良かったはずの母国でも、前世の僕が生まれる前の時代は安定してても軽犯罪はわりと横行してたらしい……なら普通か。
……いやいや、それだって犯人を捕まえるのにちょっとした騒動になってたって知識があるし、きっとそれよりは格段に荒れているんだろう。
こわぁ……僕も気をつけよう。
大前提として物を盗るだけで危害を加えてきたりしないってのがあって、1日に何十件もあったりするとこうもなるのかな。
とりあえずで適当な店で盗まれる用のお財布を、
「――――――…………………」
――一瞬、鋭い目が僕に突き刺さる。
それは、渦中のスリ――今の僕みたいにフードとマント被ってるけども、どうやら子供――のものらしい。
え?
僕、このばっちいのもといぼろいのもちいきちゃないのを目深に被ってても貴族オーラとか出ちゃう?
あ、いや、違うか……あの子も僕と同じきちゃない同士だったから孤児オーラ感じちゃったのかな?
あ、その子、もう路地裏に入っちゃった……ほへー、あれが孤児かぁ。
女の子っぽかったけど、脚速かったなー。
へー、大変だなー。
ほへー。
……いけないいけない、エミリーちゃんが移ってる、頭の中お花畑になっちゃう……くそ雑魚ジュリオン様に育っちゃう……。
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