α主人公の友人モブαのはずが、なぜか俺が迫られている。

宵のうさぎ

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幼少期編

運命の出会い

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 俺の名前はカイル・ロヴェリウス・ラジェルド。
 代々王国騎士団統括団長を輩出する軍人貴族家系であるラジェルド侯爵家の長男である。

 特記事項、前世の記憶がある。



 俺の前世は地球の日本で暮らす男だった。腐女子の姉が両親からBL本を隠すために、俺の一人暮らしのアパートに大量に置いて行くこと以外はいたって普通に暮らしていた。
 暇なときに読んだことがあるのだが、下手なエロ本よりもエロかった。
 攻めだの受けだの、ネコだのタチだの。いらん知識が身についた気もするが。
 いったいなぜ転生したのかはわからない。事故だったのか、寿命なのか。
 まぁ、死の間際の記憶があったら気が病みそうだからそれでいいんだけど。
 


 俺が新しく生を受けたのは、精霊と共に生きる国・セレスタリア王国。
 この世界は、月の女神と太陽の男神の二柱の手によって創造されたとされている。
 神話曰く、人間は二柱の神を模して造られたため、体には男と女の二つの性別が存在している。しかし、二柱は人間がもっと繁殖しやすいようにと、二つ目の性別を人間に与えたそうだ。

 太陽の男神の加護を色濃く受けた者たち――アルファ。
高い身体能力、優れた知性、強いフェロモンを持ち、統率力や支配力に秀でた種。

 月の女神の加護を色濃く受けた者たち――オメガ。
柔軟な身体と高い受容力を持ち、子をなす力が強く定期的に発情期を迎える。
 
最も数が多く、二つの性質が調和しあい感情も体質も安定しているベータ。
特別秀でているわけではないがフェロモンの影響を受けづらく、社会の基盤を支える存在として、各階層に広く存在している。


 つまり、世に言うところのオメガバースの世界らしい。
 俺はノンケだが腐女子の姉を持つ弟だから飲み込めたが、三分の一の確率で男の体のまま子供を産むなんて恐ろしいな。前世の、地球の記憶を持っている男だと特に。
 獣人、つがい、オメガバースにDOM/SUBユニバース。いろんな特殊設定に慣れてしまった己の思考が恨めしい。しかし、今ばかりは姉ちゃんの嗜好に感謝しかない。
 姉ちゃん。弟は姉ちゃんの腐女子趣味のおかげで心穏やかに過ごせています。





 先日五歳の誕生日を迎えたばかりのカイルが生まれたのは、王都にほど近いラジェルド侯爵領の領都・ヴァルデンだ。
 普段は王城に勤めていてほとんど領地に帰ってこない父が帰ってきたのがひと月前。
 なんでも、宰相閣下の息子さんの知能が同年代に比べて著しく高く、そのせいで鬱屈とした日々を過ごしているらしい。
 そこで、父が俺のことを友人にどうかと薦めたらしい。まぁな、俺の中身前世入ってるもんな。普通の五歳児よりも賢いけどさ。

 そんなこんなで、公爵夫人が母をお茶会に招待するという建前の元、俺は王都にあるエルヴェール公爵家のタウンハウスにお呼ばれしたのだ。

「カイル。こちらエルヴェール公爵夫人イレーネ様とご子息のレオンハルト様よ。ご挨拶をして」

通された公爵邸のサロンで、俺は天使を見た。

 
 透き通るような滑らかな白い肌。月の女神を想起させるような銀白のサラサラとした髪。アイスブルーのキリリとした目がじっと俺のことを観察している。
 イレーネ夫人とよく似た美しい相貌だ。
 思わず、これで女じゃないなんてもったいないと思ってしまうのは、俺に前世があるからだろうか。
 
 カイルとして生まれてからは、高位貴族子息としての振る舞いを心掛けてきた。なので特に気負わず、紳士の礼をとって挨拶をする。

「ラジェルド侯爵家の長男、カイル・ロヴェリウス・ラジェルドと申します。本日はご招待いただき、誠にありがとうございます」
 あくまで私的な場なので正式な口上ではなく、略式で。しかし五歳児にしては及第点だろう。事実、イレーネ夫人も満足げに頷いている。

「まぁ……お行儀の良い坊ちゃま。レオンハルト、仲良くできそうかしら?」
「エルヴェール公爵家が長男。レオンハルト・アウグストゥス・フォン・エルヴェールと申します。ラジェルド公子どうぞごゆっくりお過ごしください」

 恐らく、俺に話が回ってくる前に公爵夫人は王都の同じ年頃か少し上の子供にも声をかけたのだろう。
 でも、挨拶を交わした感じだいぶ大人びてる様子。と、いうか。前世のある俺と同じような口上を述べられる時点でかなり知能が高いとみえる。現代で言うところのギフテッドというやつに近いのだろう。
 そりゃ、普通の五歳児とは話が合わないだろうな。

「お気遣いありがとうございます。どうぞカイルとお呼びください、エルヴェール公子」
「……では、どうぞ私のこともレオンハルトとお呼びください」
「ありがとうございます」
 
 にこやかに挨拶を終えるころには、レオンハルトからは俺に対する興味が向けられていた。
 たぶん、こうやって普通に会話することすら今までは難しかったのではなかろうか。
 俺の場合は精神が前世に引っ張られ、ある程度成熟していたから病むことはなかったが、普通の子供であるレオンハルトにとって知能レベルが合わないと言うのは大きなストレスだったに違いない。

 ちらりと公爵夫人を見ると、心底安心したように息をついていた。彼女も息子のことを心配していたのだろう。
 次いで母に視線を向ければ、笑顔を深めて頷いた。

 なるほど。つまり、俺に求められている役目はこの少年が息を抜けるような相手になることなのだな。



「レオンハルト様、よろしければ書架を案内してくれませんか?私の家は騎士の家系なので軍略や武術についての本はあふれるほどにあるのですが、レオンハルト様が普段どのような本を読まれているのか興味があります」
「……私がよく読むのは精霊魔法に関してです」
「精霊魔法!興味があります」
「そ、そうですか。では、その……ぼくの部屋に来ますか?」
「いいんですか?ぜひ」
 明らかに彼の纏う空気が緩んだ。口元をもにょもにょとさせ、それからてちてちと俺の側にきて手をとった。
 うーん。可愛いな。なまじ顔が綺麗で無表情は冷たく見える分、表情が緩むと一気に可愛らしさが前面に出る。これは将来イケメンになりそうだ。


 
 と、ここでレオンハルトがどういう大人になるのだろうかと想像を膨らませ、わずかな既視感を覚えた。
 銀白のサラサラとした髪。アイスブルーのきりっとした目。五歳児ながら優れた知能に、エルヴェール公爵家。

 記憶をさかのぼる様にこの既視の正体を探っていると、前世の記憶でピンときたものがあった。



あぁ、そうだ。俺の前世関連の記憶で今まで引っかかったこと一つしかないじゃないか。
姉ちゃんの持ってきてた、あの本の山。

 ここ、BL漫画の世界だわ。



 姉ちゃんが持ってきたBL漫画の一つで見たんだった。
 確か、舞台は精霊と生きる国・セレスタリア王国にある、貴族子女の通う聖ミレニア学園。
 主人公は王宮の書記官を親に持つオメガの青年。いわゆる不憫平凡受けと言うやつで、不運に見舞われやすい体質だ。オメガだが、特別見目がよくないからと言う理由で婚約者もいない。
 そんな主人公が学園に入り、ハイスペックアルファと出会って溺愛されるという話だ。

 まぁ、なんだ。濡れ場のシーンがなかなかエロくてつい抜いてしまったのは、うん。しょうがない。なんでBL本のエロってあんなに力入ってるんだろう。

 だが、問題はそこじゃない。その漫画に出てくるハイスペックアルファの名前がレオンハルト・エルヴェール。エルヴェール公爵子息で、幼い頃から突出した才能を持っていたがために孤高の存在になってしまったというキャラクターだったはず。

 まんま、目の前にいるレオンハルトのことではないか。


「カイル様?どうかしましたか?」
「あ?あ、あぁ、いや。なんでもないです」

 推定未来のハイスぺアルファ様が心配そうな顔をする。こういうところはまだ子供なんだよなぁ。
 少なくとも、漫画のレオンハルトが表情を変えるのは受けのオメガに対してだけだった。

「本楽しみです、レオンハルト様」
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