α主人公の友人モブαのはずが、なぜか俺が迫られている。

宵のうさぎ

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幼少期編

想いをぶつける

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「アルファの男でいいなら僕でもいいはずだろうッ!!!!!」



 怒りに白磁の肌を赤く染めたレオンが叫んだ言葉に、その場にいた全員が固まった。
 その後ろで、このサロンの前に詰めていた侍従たちがへたり込んでいるのが見える。
 そちらに視線を向けると、まるでそれを許さないと言わんばかりに冴え冴えと煌めくアイスブルーに貫かれた。



「僕はッ!!お前が女が好きだと言うから!だから諦めたんだ!!エドワードにやるためじゃない!!!」
 俺に詰め寄ったレオンがその腕を俺に回し、その場にいたエドワードへと容赦ない威圧を放つ。
 ベータのヴァルターと、アルファとはいえ格がレオンよりも低いフィリップがその場で膝をついた。
 エドワード殿下は汗を伝わせているものの、圧倒はされていない様子。意外なことに、エドワード殿下とレオンはアルファとしての格はほとんど変わらないようであった。

「は、ハハッ!傑作だ!!散々持ち上げられていた氷の公爵子息サマであるレオンハルトがこの俺と同じ格のアルファなのか!!さぞ王妃陛下や国王陛下は驚かれるだろうな!」
「何を……ッ、カイルの意にそぐわぬ婚姻を迫っておきながら、気にするのはそんなことか、エドワード!!」
「ハァ?婚姻??」

 ここでようやく何か食い違っていると眉をひそめたエドワード殿下に対し、レオンは一人ヒートアップする。
「浅ましくもカイルに腹を見せろなどッ!侯爵家ならば反抗できないと踏んで愚弄するか!いいだろう、ならばこの僕がその雪辱を晴らしてくれる……ッ!」
「ま、待て!なにか、何か決定的に食い違っている気がするぞ!?」
「笑止千万!手袋を拾え!」
 慌てたエドワード殿下が弁明しようとするが、完全に頭に血が上ってしまったレオンは聞いていない。
 最初のレオンの発言以降、止まっていた俺の思考もようやく戻ってきた。これ以上は洒落にならん。



「いい加減とまれ、この馬鹿レオン!!」



 従兄弟同士のけんかで済まなくなる前にレオンの頭をバシンッとはたく。
 手袋を投げつけたらいよいよ後継者争いだ。冗談で済まない。
 なんでこんなことであわや内戦勃発の危機になってるんだ!

「レオン、俺を見ろ」
「カイル、なぜ止めるんだ……ッ」
「いいから、一回落ち着け。な?……頼むから、俺の言葉をちゃんと聞いてくれ。……お前は、とてつもない勘違いをしてる」
 立ったレオンの腹に頭を抱え込まれているので、レオンの背中に腕を回してぽんぽんと宥めるようにその背を叩いた。



「まず、俺が王子殿下と婚姻するわけがないだろう」
「ハァ!?」
 王子殿下が素っ頓狂な声を上げた。うん、そうだろうな。だて、王子殿下はそんなつも微塵もないもんなぁ……。

「それから、ウン。あの、エット……っ。れおんって、俺のことすき、なの……?」


 正直、体中の血が沸騰したような心地だ。
 好きな友達にいきなり、しかも間接的に告白されて妙に気恥ずかしい。
 俺の顔は、きっと真っ赤になっていることだろう。

 レオンは、数秒俺の言葉の意味を考えて、それから首まで真っ赤にしてその場にへたり込みそうになる。
 倒れたら危ないのでその腰を抱くようにして支えると、怒りに燃えていたはずのその瞳が今は涙でいっぱいになっていた。
 すぐさま手で顔を覆ってしまって見えなくなったのを妙に残念に感じる。



「み、……ッ、みないで、くれ…………ッ」
「む、むりだろぉ……。なんっ、なんで、言った本人が照れてんの!?俺も恥ずかしいんだけど!」
 涙で潤んだ目を背けようとするレオンの頬に手を添え、俺の方を向ける。
 信じられないと言わんばかりにはくはくと口を開けたり閉じたりするレオンにそう言い募ると、その辺の乙女よりもよっぽど可憐な恥じらい姿を見せた。

「言うつもりは、なかったんだ……ッ」
 絞り出すようなレオンの声に耳を傾ける。
 昔よりもほんの少し低くなった声が震えている。
 
「ひっそり、と……。お前が、つがいを迎えるまで、耐えるつもりだった、のに……っ」
 今までの、何の遠慮もなく俺に甘えていたレオンと、今目の前でいじらしく恥じ入る姿が交差し頭がショートしそうだ。


「そ、もそも!僕がせっかく気持ちにけりをつけるために距離を置こうとしたのに、お前はわざわざ普段のルーティンを崩してまで僕に合わせてくるし!いっそ、お前に恋人ができれば諦めがつくかと思ってお前好みの女を近づくのを許したのに、お前は余計僕の方にくる!なんなんだ!?カイルは僕をどうしたいんだ!?」
 は、なに?今までそんなことしなかったじゃん!

「なッ!そん、な……?え、えぇぇ……。俺、レオンに嫌われたかと思ったじゃんよぉ」
「そんなわけない!僕が、お前を嫌うなんて……」

 お互い鏡合わせのように、体まで真っ赤に染め上げた情けない顔だ。
 それ以上の言葉が見つからずに黙って見つめあう俺たち二人の頭を、エドワード殿下がスパンッ!と思い切りはたく。
 そのまま呆然とするしかない俺たちの首根っこをひっつかんだエドワード殿下によって、部屋の外へと放り出された。



「痴話喧嘩なら!!!他所でやれ!!!!!」





 エドワード殿下に追い出された後。最初はぎこちなく二人並んで歩いていたのだが、途中からレオンにパシリと手を握られて半ば駆けるような足取りで寮の俺の部屋へと戻る。
 レオンはそのまま寝室の扉を開けると、俺をベッドへと押しやった。
 勢いのままにベッドの縁に座った俺の肩をレオンが押さえ、押し倒された。
 
 さらりと銀白の髪が短いカーテンのようにレオンの顔を縁どる。



「カイル。お前が悪いんだ。僕を諦めさせてくれないから……っ」
 俺を詰る言葉なのに、その声は自分を責めているようだ。
 透き通った湖面のような瞳から雫が落ちる。
 レオンが俺の手を取ると、そのまま持ち上げ自身の頬に寄せた。

「僕には、カイルが好む暗い色のふわふわした髪も、一緒にいるだけで癒されるような顔も、鳥のさえずりのような可憐な声も、柔らかい肉体も、花のように甘やかなフェロモンも。何一つ持っていない」
 ひとつひとつ、俺に意識させるように上から下へと手を滑らせられる。
 視界いっぱいに広がる倒錯的な光景に体が固まり、動けなくなる。

「でも、今日のでわかった。僕は……、誰かにカイルを譲るなんてできない。今更、お前へのこの気持ちをなかったことなんかにはできないんだよ。……ねぇ、カイル」
 体を這わせた俺の左手を、再び顔の位置まで持ち上げた。

「お前が育てた気持ちなんだから、責任とって」
 左手の薬指を口にくわえると、じっと俺の目を睨みつけながらその根元をガリッと強く噛んだ。
 指先に触れるぬるりとした舌の感触に気がとられ、痛みを感じること余裕もない。



「カイル。諦めて……、僕を受け入れて」
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