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第六話①『予想外の訪問者』
しおりを挟む――――――『それでしたら兜悟朗と恋仲になりなさいな!』
翌朝になっても昨日の形南の言葉は理解不能であった。何故急にそのような話になったのだろうか。
考えてみても全く分からない。昨日、あの台詞で驚く嶺歌に形南は再び言葉を続けてきていた。
『あら、そこまで驚かれる事かしら? 嶺歌には現在恋人や意中のお相手がいらっしゃらないと判断してのご提案なのですけれど』
『…そういう問題じゃなくて……いや、確かにどっちもいないけど』
嶺歌はそう言葉を返すとそれまで口を閉ざしていた兜悟朗がようやく口を開き出す。
『お嬢様、お言葉ですが些かお戯が過ぎます。和泉様がお困りで御座いますよ』
彼の言葉は今思い返しても有り難い。何度心の中で頷いた事だろうか。
形南は不思議そうな顔をしてそうかしらと声を出すと『じゃあ今のは忘れて構いませんの』と百八十度違う言葉を口にした。
その発言で嶺歌はホッとしたのだが、形南は更にもう一つ言葉を付け加えた。
『ですが、お互いがいいなと思われたら遠慮なくお付き合いをして下さいましね。私あなた達なら大歓迎ですの!』
『いやあ…………』
そんなやり取りがあったのだ。形南が何を思ってあのような言葉を口に出したのかは翌朝になっても分からないままであったが、彼女が冗談であんな事を口にした訳ではない事は理解していた。だからこそ、困惑しているのだ。
「いや、別に執事さんとそうなる事なんてないけどさ」
嶺歌は誰もいない自室で一人呟き始める。兜悟朗の事はこの数日間でそれとなく人となりが分かってきていた。
彼は万能で有能。逞しい肉体に顔立ちの整った表情は常に穏やかな笑みを向けており、腰も低く柔らかい。そして何と言っても紳士的だ。仕事も早く彼の動きにはいつも無駄がなかった。
兜悟朗は文句なしのハイスペックな執事だと誰が見ても口を揃えてそう言うだろう。しかし――――――
(あたしより絶対かなり年上じゃん……!!!)
兜悟朗のプロフィールはよく知らない。だが確実に七歳以上、いや下手をしたら十二歳くらいは離れているかもしれない。
嶺歌が知っている彼はこの数日間自身の目で見てきた彼の動作や言動のみである。形南から兜悟朗の話を聞いた事は勿論、嶺歌から聞く事もなかった。
そして当然の如く、兜悟朗本人から聞く事もなかった。しかしそれでも彼の年齢はそれとなく予想する事ができる。
(別に歳の差とか気にしないけど)
問題は彼の方だ。未成年の、しかもいくつも離れた年下の女など、ただの小娘にすぎないだろう。
たとえ嶺歌が兜悟朗を良いと思ったとしても兜悟朗が嶺歌をそういった目で見る事はないのではなかろうか。
それに嶺歌自身、ここまで考えてはいても好きでもない異性と付き合いたいとは思わない。嶺歌はそもそも恋人の存在を必要としていないからだ。
形南の言葉は気持ちだけ受け取っておくことにしよう。そう考えを纏めてこれ以上の思考はやめることにした。
(まあでも、それだけあたしを友達として好いてくれてるって事だよね)
形南が好きでもない友人を自身の身を守る大切な執事とくっ付けさせようとする事はあり得ないだろう。
嶺歌はそこまで思考が行き着くと自然と口元が緩まるのを感じた。形南にそう思われている事が何だかとても嬉しく思えたのだ。
形南と出かけて以降、彼女と毎日のように会う事はなかったが、連絡だけは毎日取り合っていた。
そして嶺歌は魔法少女の活動を順調に続け、学校での友人とも放課後を楽しく過ごし平穏で充実する毎日を送っていた。
その日もいつもの様に休み時間を過ごしていた時だった。その時嶺歌はトイレを済ませ自身の教室へと戻っていた。
自分のクラスである一組の教室に足を踏み入れると何やら教室内が騒がしい事に気が付く。教卓の前には数人の女子生徒が何かを囲む様にして集まっていた。
嶺歌は不思議に思いながら友人である女子生徒達に声を掛ける。
すると嶺歌の声に反応した女子生徒達はこちらの姿にいつもの陽気な笑みを向けてくると「聞いてよ嶺歌」と同意を求めるように言葉を発してきた。
「こいつがさー、嶺歌に用があるって言うけど実際どうなん? 知り合い?」
「ん?」
そう言って身長の高い一人の女子生徒が横にずれるとそこには何とひどく困惑した様子の平尾が立っていた。
「え?」
思わず声に出る。何故彼がここにいるのだろうか。いや、自分に用とはどういう事なのだろう。どうやら教室が騒ついていたのは彼の存在が要因のようだ。
嶺歌は思いつく限りの事を頭で整理しているとその間にまた別の女子生徒がとある言葉を口にする。
「レカちゃん戸惑ってるじゃん。もしかしてレカちゃんに優しくされて勘違いしたクチ? いるよねそういう根暗な男って」
「ちょっと」
瞬間、嶺歌は思考を止め、彼女と平尾の間に割って入った。今の発言は聞き捨てならない。いくら友人と言えど許せない発言というものはある。
「今の心乃の言い方は彼に失礼だよ。あたしも平尾君も対等な人間なんだよ? 平尾君に謝った方がいい」
「あ……ご、ごめんっ」
嶺歌は平尾を庇う形で友人――心乃の目の前に立つと彼女は瞬時に慌てた様子でペコペコと謝罪した。
「えっあ、いや……うん。全然」
シンと教室内が静まっているのを認識して自分達のやりとりが注目を集めている事に気が付く。
これ以上注目を集めるのは彼も本意ではないだろう。彼の額から大量の汗が滲み出ているのがその証拠だ。
嶺歌は「平尾君ちょっと来て」と口に出し彼を手招きすると平尾は困惑した状態のまま辺りを見回しこちらに近付いてくる。休み時間はまだ始まったばかりだ。
嶺歌はそのまま彼がついてくるのを確認しながら人気の少ない裏庭へ向かった。
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