44 / 164
第十八話①『翌日』
しおりを挟む目を覚ますとそこは自宅のベッドの上だった。
朝日がカーテンの隙間から差し込み、早朝であることを理解する。昨日はあれからずっと眠ってしまっていたようだ。
「どうやって帰ったんだろ」
眠気はもうない。ぐっすりと眠ったせいか身体も軽く感じられる。しかし昨日の記憶はあの場で形南の復讐を見届けたところで途絶えている。
嶺歌は自分のスマホを探し始めると数秒して机の上に置かれている事に気が付いた。
『嶺歌、本日はお疲れ様でございますの。ゆっくりお休みになられたら、ご連絡してちょうだいね』
そしてスマホの横に小さなメモ用紙が置かれており、そこには形南の手書きのメッセージが添えられていた。
「れかちゃん」
すると突然部屋のドアがノックされ、嶺歌がいいよと声を返すと扉の向こうから嶺璃が入ってくる。そして妹の姿を見て今日は休日であることを思い出した。
「おはよ嶺璃」
嶺歌が口元を緩め、そう挨拶の言葉を向けると嶺璃は途端に嬉しそうな顔をしてこちらに抱きついてきた。甘えん坊な妹だが、そんな彼女に癒やされているのも事実だ。
「れかちゃん~! 昨日キラキラした女の子がね! れかちゃんの友達だって言ってて、わたしが妹だって言ったらこれくれたの!」
「ん?」
見て見て! と目をキラキラ輝かせながら嶺璃が見せてきたのはリボンがあしらわれた可愛らしいブレスレットだった。
ちょうど嶺璃くらいの年頃の子どもが喜びそうなデザインである。キラキラした女の子と言うのは形南の事で間違いないだろう。
いつの間にこのようなものを入手したのだろうと思いながらも嶺歌は心底嬉しそうにブレスレットを手首につける嶺璃の姿を見て笑みをこぼした。
「良かったじゃん、ちゃんとお礼言った?」
「もっちろん! そしたらキラキラの女の子とでっかい優しい執事さんが笑顔でわたしの頭撫でてくれた!」
その嶺璃の言葉を耳にして嶺歌はここまで運ばれた経緯を思考した。意識はなかったものの、なんとなく昨日自分が誰かによって運び込まれたという感覚を身体が覚えていた。
がっしりと支えられ、心地良い運搬だったような気がする。今の嶺璃の発言も加えると、どう考えてもあれは兜悟朗が運び込んでくれたという事に違いないだろう。ここまで彼に担がれてきたのかと思うと急激な羞恥心に駆られた。
記憶にないとはいえ、兜悟朗に抱えられてきた自分を想像すると嶺歌の頭は爆発しそうだった。
「れかちゃんお顔赤いよ~?」
「……なんでもないよ! さ、ご飯食べに行こ」
嶺歌は誤魔化すように嶺璃の背中を押しながら部屋の外に出る。とりあえず朝の支度をしてから形南へ連絡をしよう。
そう思い嶺歌は手早く家事を済ませるのであった。
「おはよー! 昨日は色々してくれたみたいでほんとありがとう! 妹にもプレゼントしてくれたって聞いたけど」
朝の支度が全て終わり、自室へ戻ると早速スマホから形南へ電話をかける。形南は案の定、すぐに電話に出てくれていた。
『こちらこそ本当に感謝しかありませんの。嶺歌、急ですが本日のご予定は空いていまして? 妹様の事もお話ししたいですわ』
「空いてる空いてる! あたしも色々話したかったからタイミングめっちゃいい!」
嶺歌は形南の誘いに乗るとそのままこの後会う約束を取り交わした。形南が自宅前まで迎えにきてくれるようだ。せっかくの厚意なのでお言葉に甘えることにした。
形南と会う時間までは少々厄介ごとに巻き込まれていた。母に昨日は何があってあのような形で自宅に戻ってきたのか説明をしろとしつこく問われたのだ。
確かに自分の娘が眠ったままの状態で一度しか会った事のない男性に担がれ、見知らぬ女性と共に自宅に運んできたら驚くのは分かる。
ゆえにそう尋ねてくる母の気持ちは理解できるのだが、魔法少女の存在を隠している以上は説明を全て行うのは難しい。
適当に誤魔化して何とか事なきを得ていた。
数時間後になると嶺歌の家のインターホンが鳴り響く。
「嶺歌! 回復なさったようで安心ですの!」
「あれなも元気そうだね! あたしも安心だよ」
急いでエントランスに向かった嶺歌は私服姿の形南と一日ぶりに再会した。
形南も心なしか晴れ晴れとした表情をしており、それが昨日の一件と関連しているのだと思い付き納得する。
(うん、やっぱり良かった)
自分が行った行動が独りよがりのものでなくて本当に良かった。魔法少女として、何より形南の友人として自分は役目を果たせたのだ。そう思えた事が嬉しい。
「嶺歌さん」
するともう一人の声に気が付く。形南の後ろに必ずいつも控えている執事の兜悟朗だ。嶺歌は彼の方へ顔を向けると目が合い、すぐに会釈をした。
「兜悟朗さん、昨日は家まで運んでくれてありがとうございました。それに、色々……」
昨日兜悟朗にしてもらった事は実は運んでもらった事だけではない。
嶺歌が魔力切れで倒れかけた時、支えてくれた上に彼の膝に頭を乗せ、休ませてもらっていたのだ。
あの時は意識が朦朧としておりそこに気を掛けられる余裕がなかったのだが、回復した今思い返すととてつもない事をしてもらっていたのだと自覚し、叫び出したい程の羞恥心が襲ってくる。
「あたしが倒れた時に、ご面倒おかけしてすみません!」
嶺歌は顔が熱くなるのを感じながらも彼に頭を下げる。高校生にもなって、男性の膝の上で休んでしまうなど何たる事だろうか。
しかしそんな嶺歌とは対照的にくすくすと笑う形南の声と、柔らかい言葉を返してくる兜悟朗の声が嶺歌に向けられる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件
こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる
まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる