お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

文字の大きさ
80 / 164

第三十話②『二人の雰囲気』

しおりを挟む


 焼きたての今川焼きを二個手にした嶺歌れかはそのまま商店街の外へと出てから黒いリムジンの方へ足を動かしていた。

 嶺歌の姿に気が付いたのか兜悟朗とうごろうはこちらが到着する前に直ぐに外へ出ると丁寧な一礼をする。

(本当、律儀な方だ)

 嶺歌がそう思いながら兜悟朗の行動に気持ちを高鳴らせていると「嶺歌さんお帰りなさいませ」という言葉の後にどうかしたのかと彼が尋ねてきた。

 予定よりも早く、いきなり一人で戻ってきたのだからそう聞かれるのも当然の事だろう。

 嶺歌は今川焼きを兜悟朗に手渡しながら一緒に食べませんかと思い切って誘ってみることにした。

 兜悟朗は柔らかな笑みを向けて再びこちらにお辞儀をしながらお礼の言葉を述べてくる。そうして丁重に嶺歌から今川焼きを受け取ってくれた。それだけで嶺歌の心はとてつもない程の喜びで溢れていた。

「実はあれなと平尾君がいい雰囲気だったので、二人きりにした方がいいと思ったんです」

 リムジンの中に乗車し、兜悟朗と二人で今川焼きを食べながら嶺歌は自分が抜けてきた理由を説明する。兜悟朗は静かにそれを聞いてくれていた。

「さっきも話したと思うんですけど、あの二人はもう少しでカップルになるんじゃないかなって思いました」

 そう言って今川焼きの粒あんを口に入れて味を楽しんでいると、兜悟朗は左様でございましたかと言葉を返してくる。

「お心遣いいただいたのですね、お二方の為に有難う御座います」

 兜悟朗はそう言って嬉しそうな、にこやかな笑みをこちらに見せる。

 そのような彼の優しげな笑みは、嶺歌にとってとんでもない威力を持っているのだが、本人は気付く訳もあるまい。

 嶺歌はほのかに赤らんだ頬をどうにかしようとして「全然です! 美味しいですね」と早口に話題を切り替える。

 そんな嶺歌に尚も微笑ましい視線を向けてくる兜悟朗はそうですねと同意の声を出してくれていた。

 そのまま今川焼きを食べ終え、今更ながらに喉が渇いた事を実感する。

 嶺歌れかは自身のペットボトルを飲み切っていた事を思い出し、自動販売機で飲み物を買ってこようと兜悟朗とうごろうの方に顔を向けると、彼はいつの間にか嶺歌の目の前に未開封のペットボトルを差し出していた。

「今川焼きのお礼で御座います。どうぞこちらをお飲み下さい」

 嶺歌が奢られることに躊躇いを持つ性格である事を兜悟朗は熟知してくれているのか、そのように言葉を発すると再び優しい笑みを向けてきた。

 嶺歌はドクンドクンと激しく動悸がするのと同時に嬉しい気持ちで胸が溢れ出しそうになりながら、そっと差し出されたペットボトルに手を伸ばしお礼を告げる。

 嶺歌と合流してから買いに行く様子はなかった事からきっと一人で待っている間に全員分の飲み物を購入してくれていたのだろう。

 本当に、兜悟朗は気が利いて完璧で紳士的な人だ。そう改めて感じ、嶺歌は胸が熱くなった。

「夏休み、兜悟朗さんは休暇を取るんですか?」

 ふと気になった事を尋ねてみた。

 執事と言えども少しの休暇くらいは許されるはずだろう。彼も一人の人間だ。休暇なくして働く事はどんな万能な人間でも不可能だ。

 嶺歌だって誇りに思っている魔法少女の活動を年中無休で行う事は流石に無理である。

 すると兜悟朗は口元を緩めたままこんな言葉を返してきた。

「休暇は僕には必要ありません。ですからこれまで通り形南お嬢様にお仕えさせて頂く予定で御座います」

「えっ一日も休まないんですか!?」

 何の問題もないかのようにそう笑みをこぼして断言する兜悟朗に思わず嶺歌は声のボリュームが上がる。

 しかし兜悟朗はそんな嶺歌を前にしても全く動じた様子を見せず、柔らかな表情で問題ありませんと言葉を返してくる。

「嶺歌さんの事ですから僕をご心配くださっているのでしょう」

 すると兜悟朗はそう言って嶺歌の方に視線を合わせる。彼の深緑色の瞳はこちらを見据えているにも関わらずどこか温かくて優しい。

 嶺歌もそんな彼から目を逸らす事はできず目線を返していると兜悟朗は先程よりも僅かに目を細めて言葉を続けてきた。

「ですが僕にとっての休養は、形南あれなお嬢様にお仕えする事も同然なので御座います。あの方の成長をお見届けする事こそが僕の喜びです。ですからご心配には及びません」

(なんて……)

 真面目な人なんだろう。執事の鑑だ。これほどまでに主人に敬愛を持つ執事が他にいるのだろうか。

 そう思ってしまうほどに兜悟朗とうごろうの強い忠誠心を目の前で見て、嶺歌れかは彼の生き方そのものを心の底から尊敬していた。彼が想い人であるからという理由は一切関係なく、一人の人間として素晴らしくできた人であると、そう感じた。

 そんな事を感じ取りながら嶺歌は暫し兜悟朗との時間を過ごす。

 そろそろ形南達も楽しんだ頃合いだろうと思った時間になると、嶺歌は形南との約束通りに商店街の方へ戻り、形南と平尾の二人を見つけて合流をした。

 彼女らと会話をしながらも嶺歌はそこで先程起きた兜悟朗とのやり取りを思い出していた。

 リムジンから嶺歌を見送る時、兜悟朗は微笑みながら嶺歌にこう言葉を口にしていたのだ。

「嶺歌さん」

「今川焼きとても美味しかったです。嶺歌さんが購入して下さったからこそ、美味しくいただく事ができました」

 そう言って彼はそれでは行ってらっしゃいませと丁重なお辞儀をして嶺歌を見送っていた。

 今思い出しても彼のあの台詞は嶺歌にとってご褒美のような物だった。

(兜悟朗さんて無意識天然……?)

 彼に邪な考えがあるとは思えない。

 あったとしても嶺歌にとって嬉しい以外の感情は湧かないのも確かなのだが、そう思ってしまうくらいには、兜悟朗に夢中になっている自分に気が付き、形南と平尾に合流したものの、頭の中は兜悟朗への想いでいっぱいいっぱいになっていた。


第三十話『二人の雰囲気』終

     next→第三十一話(7月25日更新予定です)
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...