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第三十七話②『返り討ち』
しおりを挟む「和泉嶺歌様にお話があって参りました」
数日後に子春は予測通りやってきた。マンションのインターホンを鳴らし、再び現れた彼女はスーツを着用しており、まるで嶺歌に関して何かを伝えにきたとでもいう体を装っている。
嶺歌はそのまま自宅まで上げる事にした。
家族を巻き込む事をしたくないのは今でも同じだが、家族は今全員が不在中だ。嶺歌があらかじめそうなるよう誘導していた。
子春がいつ嶺歌の元へ訪れるのかも事前の調査で知っていたからだ。
マンションのオートロックを開け、自宅前までやってきた子春を家の中へと上げる。密室の方が好都合なため作戦通りである。
何も知らない子春はそのまま嶺歌のテリトリーの中に足を踏み入れると「あら……ご家族は?」と困惑の色を出し始めた。
彼女はきっと家族の前で嶺歌に恥をかかせようとしていたのだろう。その為嶺歌の家族が自宅の中にいる事が彼女の中では大事だったはずだ。
しかし嶺歌はさも知らぬそぶりで「いませんけど」と声を返す。
すると子春の様子が一変した。
「何でいないのっ!? 外出なんてしてなかったじゃない!!!!!」
「監視でもしてたんですか? 何でそんなプライベートな事知ってるか不思議ですけど」
本当は、子春がここ数日間嶺歌のマンション前で嶺歌の一家を見張っていた事を嶺歌は知っていた。他でもなく嶺歌も子春を見張り続けていたからだ。
子春はどうしても嶺歌一家が揃っているところで勝負に出たかったようで、家族が全員家の中に入ったことを確認してからインターホンを鳴らそうと企んでいたようだ。
それを知っていた嶺歌は子春にだけ見えない透明魔法を家族全員にかけていた。そのため家族がマンションのエントランスを出たとしても子春はそれを認知する事が出来ない。
だからこそ今、子春はひどく動揺している。きっと自分の尾行の腕前に相当な自信があったのだろう。
「で? 何で来たんですか」
嶺歌は子春をリビングのソファに誘導すると彼女はぶつぶつ言いながらもソファの上に腰掛ける。
そんな彼女と対面する形で、嶺歌も手前の椅子に座るとそのまま彼女に目線を向けた。
すると子春は低い声を出しながらこんな言葉を放ち始める。
「貴女の普段の行いをご家族にも教えてやろうと思ったのよ……高円寺院家にどれだけの迷惑を掛けて、貴女がどれだけ身の程知らずな存在なのか……」
「まーだそんな事言ってんですか」
嶺歌は眉根を寄せながら子春に向き合う。そうして彼女に言葉を放った。
「あなたがしてるのは犯罪ですよ? ストーカー行為に迷惑行為。警察に訴えてもいいんですけどね」
嶺歌がそう言うと子春は「ハッ!」と小馬鹿にしたような笑いを向けてこう返してくる。
「貴女のようなお子様のお話を警察が信じるとでも? 私のアリバイは完璧ですよ? 盗聴器だって録音だって貴女が今していないのは分かった上で行動してるんですからね」
呆れた発言だ。自分の非を認めているもののそれを開示される心配はないと本気で信じている。盗聴器や録音などなくても嶺歌にはいくらでもその方法があるというのに。
「あのですね、あたしもあなたが来てから色々調べてみたんです」
「……?」
嶺歌は、余裕たっぷりにソファに腰掛けこちらに敵意を向ける子春に対して新たな一手を繰り出し始めた。
「子春さん、あなたここ最近の行動がおかしいくらいストーカーなんですよ」
そこまで口にして嶺歌は子春のここ数日の行いを全て口にしてみせた。
何日の何時何分にどこで嶺歌たちの行動を確認していたのか、事細かく詳細に教えていく。
子春は初め訝しげな顔をしていたものの、嶺歌の放つ言葉が全て身に覚えのある事のようで次第に青ざめていった。
子春から嶺歌一家に向けられたストーカー行為の全てを本人に伝え終えると、子春は恐ろしいものを見るかのような目で嶺歌を見据え、僅かに震えた言葉を発する。
「き、気持ち悪い……そんな細かい事、どうして……なっ何なんですか貴女」
「いやそれはあたしの台詞ですよ。あなたがしてた事と全く同じですけど? まああたしのは正当防衛ですよね、先に仕掛けたのはそっちなんですから」
そう言って嶺歌はテーブルの上に片足をバンッと乗せると、身を乗り出して子春に啖呵を切った。
「あたしは気持ち悪いくらいあなたの事たくさん知ってますよ。昨日あなたが家で食べた天丼をどこで買ったのかも知ってますし、朝ごはんの目玉焼きを崩して舌打ちしたことも知ってます。あーあとは、ベタな事にタンスの角に小指ぶつけてましたよね? あれは一昨日でしたよね」
嶺歌は早口で彼女にプライベートな情報を話し始める。
絶対に誰も知らないはずの情報までもが、嶺歌の口から露出していく事に恐怖を覚えたのか、子春は青ざめさせた顔を更に真っ青にすると「なっ何なの!? 何者なの!!?」と声を上げてきた。
しかし彼女の声はもはや戦意を喪失しており、そう口にするのが精一杯のようだった。嶺歌はそんな彼女を見下ろしながらその問いかけに答える。
「ずーっと調べてたんだから知ってますよね? 和泉嶺歌。あなたが敵視しているただの女子高生ですよ」
そう言って嶺歌は最後の言葉を放つ。
「二度とあたしの家族に近付かないでもらえます? 調べるのもストーカーみたいに気持ち悪い事すんのももうやめて下さい。高円寺院家は厳重だから入れなかったようですけどあたしの住むマンションにあなたが張り付いていたのは本当迷惑でした」
next→第三十七話③
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