104 / 164
第四十話『思い出してときめく』
しおりを挟む『嶺歌! お久しぶりですの!!!』
形南から約一週間ぶりに連絡が来ていた。平尾とはちょうど昨日デートをしていたはずだ。
形南本人からは聞いていないが、一昨日平尾に聞いていたので間違いはないだろう。
嶺歌は形南からの久しぶりの連絡に嬉しい気持ちが湧き起こりながら、メッセージの返事を文字に打ち起こしていく。
何の変哲もないやり取りを数回繰り返した後、形南から今度一緒に海に行かないかとお誘いを受けた。夏休みはもう形南にも兜悟朗にも会えないと思い込んでいたため、急激にテンションが上がる。
『行く行く! いつにする!?』
そして互いにスケジュールの確認を終えると夏休みの最終日、八月三十一日に遊ぶ日が決定した。
夏ならではのレジャーを形南と楽しめる事に胸を弾ませていると、ふと兜悟朗の事を思い浮かべる。そうして形南に聞いてみた。
「ねえ兜悟朗さんももしかして来る?」
『ええきちんと呼んでおりますの。だって嶺歌の為ですもの!!』
形南は当然だと言うかのように声の調子を明るくしてそう答える。嶺歌は彼女の頼もしさに嬉しい気持ちになりながらも形南にまだ時間がある事を確認してから、最近起こった近況話を二人でする事になった。
形南は当然だとでも言うかのように声の調子を明るくしてそう答える。
嶺歌は彼女の頼もしさに嬉しい気持ちになりながらも形南にまだ時間がある事を確認してから、最近起こった近況話を二人でする事になった。
形南は早速昨日の平尾とのデートを嬉しそうに嶺歌に報告してくれる。
どうやら平尾とのデートは順調に上手くいき、進展こそないものの互いに楽しんで時間を過ごせたと実感ができていたようだ。
念の為聞いてみたが、平尾の服装も無難でとてもカッコよかったのだと嬉しそうに話してくれていた。彼は嶺歌の助言通りの服装を身に着けていったようで、それを聞いた嶺歌は心の中で良かったと安心した。
ある程度の一日の出来事を話し終えた形南は、次に申し訳なさそうな声色でこのような事を口に出す。
『本当は前日にお話ししようと思ったのですけれど、私の中でいつも以上にデートへの緊張が強かったのですの、ですから何だか落ち着かなくて連絡できなかったのですのよ。ごめんなさいね』
嶺歌はその言葉を聞いて一昨日の平尾の事を思い出していた。二人共同じような心境で前日を過ごしていたという事だ。
何だかお似合いな二人が更にお似合いに見えてくる。微笑ましいその状況に、嶺歌は笑みが出ていた。
「全然いいよ、今日聞けて良かったよ」
そう本心から思った言葉を返すと、形南はありがとうございますのと心底嬉しそうな声を口にしてから『ねえ嶺歌っ!』と声の調子を一段階あげてこちらに言葉を放ってくる。
すると形南は興奮した様子で、このような言葉を続けてきた。
『兜悟朗が休暇を取った日の事を、ずっとお聞きしたいと思ってましたの!!!!!』
形南はこれ以上我慢ができないといった様子でそう尋ねてくる。彼女の声からどれほど高揚しているのかが分かってしまうほどだ。
形南には子春との一件を話していない。
しかし、兜悟朗が珍しくも休暇を取ったという話を主人である形南が知らない訳がない為、彼がその日嶺歌に会いに来ていたという話自体は、形南の認知しているところだった。
嶺歌は兜悟朗が子春との事があったせいでわざわざ取る筈のなかった休暇を取り、会いに来てくれていたという事実を改めて認識する。そして同時にあの時言われた台詞を鮮明に思い出していた。
――――――『貴女様を失うのが……怖いのです』
あれだけはっきり休暇は必要ないと口にしていた兜悟朗が、嶺歌にあの事を伝えるためだけに休みを取得し、あのような本音を曝け出してくれた事が、本当に嬉しく感じられる。
嶺歌は思わず言葉を止めてあの日の出来事に思い浸っていると形南の名を呼ぶ声でハッと我に返る。
『嶺歌どうなさったの? どうかしまして?』
心配そうな声で形南に声をかけられ嶺歌は慌てて言葉を発した。
「ごめん! 何もないよ! てか、その二人で会った日のこと思い出してたら余韻に浸っちゃって……」
『あら!!! 何ですの!? 何がありましたのっ!!』
形南はその嶺歌の一言で更に火がついたようで、先程よりも押しが強い様子でこちらに話を促してくる。
嶺歌は白状するように、子春の事は伏せながらも兜悟朗とあった出来事を形南に報告するのであった。
『まあまあまあ!!! 兜悟朗ってば!! そのような事があっただなんて聞いていませんでしたの!』
嶺歌から一通りの出来事を耳にした形南は、心底嬉しそうに声を溢し続けると、興奮しすぎたせいか息切れを起こしていた。
相変わらずの彼女のそんな姿勢に嶺歌は自然と笑みが浮かぶ。
そして笑いながら落ち着いてと声を出すと形南は『ふふっそうですわね』と口にしてからもう一度嶺歌に声を向ける。
『けれど……そのようなお話、兜悟朗にはこれまで一度も起こらなかった事態ですの。そもそも兜悟朗が休暇をとった事も、実家に帰る時以外は一度もなかったのですのよ』
それを聞いて嶺歌は驚く。確かに彼の言い方からしてこれまで取得してきた休暇は少ないのだろうと思っていたが、本当にそうだったのだと、形南の言葉を耳に入れて実感していた。
そしてその事実にとてつもなく喜んでいる自分がいる。
『兜悟朗は嶺歌に会いたくて私に休暇を申し出ていたのだと思うと、今後もたくさん取得して貰いたいですの! ボーナスですの!』
明確に言えば、子春の一件で珍しく取り乱した兜悟朗が嶺歌に自分にも頼ってほしいのだと伝える為に休暇を取っていた、という認識なのだが、それを知らない形南は単純に嶺歌と遊ぶために兜悟朗が休みを取っていると思っている。
その微妙な違いを訂正したくはあるが、子春の事は内密にする約束だ。嶺歌は形南にありがとうとお礼を述べるだけにしてその気持ちを飲み込んだ。
(だけど本当……嬉しかったな)
どのような理由であれ、兜悟朗が嶺歌に会いに来てくれた事がまず嬉しかった。私服の彼とデートのようなドライブをできたことも。
そして何より――――彼に、自分を失う事が怖いと、そう言ってもらえた事がとてつもなく嬉しくて、嶺歌にとってそれ以上に喜ばしいことはなかったのだ。
第四十話『思い出してときめく』終
next→第四十一話
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる
まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」
父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。
清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。
なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。
学校では誰もが憧れる高嶺の花。
家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。
しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。
「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」
秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。
彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。
「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」
これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。
完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。
『著者より』
もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる