お嬢様と魔法少女と執事

星分芋

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第五十四話①『お泊まりと赤面』

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 学園祭がやってくる。

 嶺歌れかは時間も身も削って作り上げた縁日会場に満足しながらクラスTシャツを身に付け学園祭を楽しんだ。

 多くの友人達と様々な出し物を見て回りながら楽しい時間を過ごす。

 両親は忙しくて来れなかったが、母方の祖母が嶺璃を連れて遊びに来てくれていた。嶺璃れりは文化祭の雰囲気に興奮し、ずっと楽しそうな顔で笑っていた。

 形南あれなも呼ぼうと思っていたのだが、彼女は半泣きになりながら絶対に外せない稽古が運悪く土日の二日間行われると言っていた。

 その日はスマホも触れない地獄の稽古なのだと聞き、以前兜悟朗とうごろうが形南の代わりに電話に出ていた事を思い出す。

 そのため兜悟朗も今回呼ぶ事はできなかった。不在中である形南の代わりに彼が担う役目が多いはずだからだ。

 嶺歌は気持ちを切り替えると自分の当番の時間がそろそろくる事を確認して、教室へと戻り始める。そうして二日間の学園祭を送るのであった。



 学園祭も終わり、学校は定期テストの話で不満の声が上がる。

 楽しい文化祭が終わってしまい、次に待つのは中間テストという事態に皆、気分が落ちている様子だった。

 嶺歌れかもそれは同じであるのだが、勉強への不満よりも次はいつ兜悟朗とうごろうに会えるだろうかという楽しみの方が気持ちは強かった。

(早く会いたいな)

 会う予定がある日以外は兜悟朗から連絡が入ることはない。会うつもりのない連絡だけでもしたいとは思うのだが、それは日々忙しい彼にしてはいけない気がして嶺歌から送れずにいる。

 そして彼に会いたいと思った時に関しても、嶺歌の方から誘ってみようと何度も考えたのだが、嶺歌と会う為だけに何度も休暇を取ってもらうのは形南あれながいいと言ってはいても申し訳ないという思いが強かった。

 そんな考えから、寂しい気持ちはあれど兜悟朗からのお誘いを待つ事に決めたのだが、その決意を固めた矢先、形南から唐突にレインが送られてきた。

『嶺歌お疲れ様でございますの! 今週の金曜日、宜しければわたくしの家に泊まりに来られないかしら? 夜な夜な恋バナをしたいのですのっ!』

(めっちゃ楽しそう!)

 そのレインを見て嶺歌はすぐにそんな感想を抱く。そうして金曜には何も予定がない事を脳内で確認し、早速形南に返事をした。予定がない今、もちろん答えはイエスだ。

 有名かつ豪邸である形南の家に泊まるというのは中々肩身の狭いものでもあるが、形南がいいと言ってくれているのだ。変に遠慮をして断るのも逆効果だろう。

(あれなの家とはいえ、兜悟朗さんもいる……)

 そこで嶺歌は兜悟朗の存在を意識し、一つ屋根の下で彼と一緒に過ごせる事に胸を高鳴らせた。とはいえ、大規模な敷地の高円寺院こうえんじのいん家で兜悟朗と一緒というのは規模が大きすぎる故にそこまで意識する程のことではあるまい。

 だが嶺歌にとってはそれでも心が踊るようだった。形南と二人で女子会が出来ること自体が嬉しい話だというのに、それに加えて兜悟朗とも同じ領地で一晩を過ごせるのだ。

(テスト勉強はそれまでにちゃんとしておいて、週末は遊ぼう)

 嶺歌はそう計画を立てながら口元が緩むのを抑えきれずにいた。



 そして金曜日はすぐにやってきた。テスト勉強も魔法少女の活動も順調だ。嶺歌れかは泊まり掛け用のカバンに荷物を詰め込み終えると自宅をそのまま出る。

 今日は母も仕事が休みのため、嶺璃れりの夕飯の心配が要らない日だった。

 エレベーターに乗りエントランスに足を運ぶと驚いた事に、兜悟朗とうごろうがこちらに向かって歩いてきていた。

「あれ、兜悟朗さん」

「嶺歌さんお疲れ様で御座います。お荷物お持ち致します」

 マンションを出た先にリムジンを停車させて、そこで迎え入れてくれると思い込んでいた嶺歌は予想外の兜悟朗の姿に動揺する。

 だが兜悟朗がすぐに嶺歌の荷物を手に取った行動を見ると、自分の荷物の重さを事前に考慮して来てくれたのだと気が付く。

(本当に……なんでも予想以上の事をしてくれちゃう人なんだな)

 兜悟朗の気遣い力はこれまで出会ってきた人間の中でもピカイチだ。

 誇張表現などではなく、本当に兜悟朗ほど気を遣える人物はいないのではないかと嶺歌は本気で思う。魔法少女の自分としても、彼の気遣い力は見習いたいお手本のようなものだと言えるレベルだ。

「ありがとうございます」

 嶺歌は非力という訳でもないが、だからと言って特別力持ちという訳でもない。運んで貰えることは有難い事だ。

 それに、こうして好きな人に荷物を運んでもらえるのは一人の女として素直に嬉しい事だった。

 兜悟朗にお礼を告げると、彼はとんでも御座いませんといつものように和やかな笑みでそう返してくる。

 嶺歌は嬉しい気持ちを持ちながら兜悟朗と肩を並べて足を進める。ほんの数秒の時間が嶺歌にはとても、長い時間に感じられていた。


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