身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥

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第10章 王都にて

第141話 尾行

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「いや、俺も驚いたよ……」

 アティアスは青ざめたエミリスに答える。

「ま、まぁ……別に悪いことしてるわけじゃない……ですし……ね」
「そうだな……」

 どこからその話が漏れたのかはわからないが、隠してもいなかったし、彼女のような生い立ちの結婚談は良いネタだったのだろう。
 そのあたりを自覚していなかったのが失敗とも言えた。

「吟遊詩人が歌ってるってことは……あっという間に広まるんですよね……?」
「そうだろうな……」
「うーん。そのうち、その妻が実は魔女で、貴族を乗っ取ろうとしてた……とか、尾ヒレが付かないことを祈りますよぅ……」

 マッキンゼ領との騒動の話が広まれば、あながちそんなことになってもおかしくない。

「有り得なくはないな。特にエミーは色々目立つからな」
「あああ……。早くワイヤードさんに髪の色変える魔法教えてもらわないと……!」

 彼女は頭を抱えてうなだれた。

「……とりあえず帰るか?」

 アティアスが聞くが、エミリスは首を振った。

「いえ、こうなったら、今のうちにたっぷり遊んでおくことにします……!」
「ははは、大丈夫だって。心配しなくても、女王様ほどの有名人にはならないから」
「ほんと女王様とか大変ですよねぇ……。どこに行くとしても、護衛が付いてないとダメですよねぇ?」
「……そりゃそうだろうけど、俺を護衛してるエミーが言う台詞じゃないぞ、それ」

 呆れつつアティアスが諭す。
 確かに、四六時中彼の護衛をしてることを考えると、あまり大差ないのかもしれない。

「そうかも……。って考えると、さっき女王様がワイヤードさんだけを連れて来られたのって、やっぱり相当ですよね……?」
「だな。俺でも1人だけしか護衛を付られないってなれば、エミーのほかだとノードくらいだよ。信用できるのはな」

 横に座る彼女の肩に腕を回して、近くに抱き寄せながら言う。

「ふふ、ありがとうございます。アティアス様に居なくなられると困りますからね」
「俺もエミー居なくなると困るからな。……早く片付けて帰りたいな」
「はい、私にお任せください。……アティアス様のためなら、喜んで魔女にでもなりますよ」

 ◆

「……いるな? 入っていいか?」

 エレナ女王との謁見から3日経った日のこと。
 2人が宿でのんびりしていると、唐突にノックされ、ドア越しに声がかけられた。

「ああ、大丈夫だ」

 アティアスが返答すると、ドアが開けられてワイヤードが顔を出した。
 エミリスが気付かなかったことを考えると、いつもの分身体のようだ。いきなり部屋に現れることもできたのだろうが、わざわざノックして入ってきたということは、それなりに気を使ってくれたのだろうか。

「明日奴が動く。……やるぞ」

 単刀直入にワイヤードが話すと、聞いた二人に緊張が走った。

「……どこに行く感じでしょうか?」
「明日、王子は何人か護衛を連れて、郊外へと狩りに行く予定になっている。……あいつの趣味なんだ」
「なるほど。……野盗にでも扮して、それを襲うってことか?」
「そうだ。ただ、手ごわいぞ? 大丈夫か?」

 ワイヤードの言葉に、エミリスは頷く。

「外なら負ける要素はありません」
「大した自信だな。……それじゃ、頼む。一応、あいつの予定は紙に書いてきたから渡しておく。……後始末は俺と女王に任せろ」
「わかりました」

 そう言って二人にメモを渡し、ワイヤードはふっと消えた。

「どうやるつもりだ?」

 アティアスが聞くと、エミリスは軽い口調で答える。

「えっと、空から大きめの石を投げつけるだけで良いかなって」
「ふむ……。確かにな」

 自分が飛んでしまえば、相手が飛べない限り反撃される心配はない。
 あとは死ぬまでひたすら石をぶつければいい、という算段だった。

「雹が降ることもあるんですから、石が降っても自然災害ですよねぇ……?」
「いや……それは違うと思うぞ?」

 彼女のつぶやきに、アティアスは呆れて首を振った。

 ◆

「ワイヤードさんのメモの通り、何人かの気配があります」

 街道から少し離れた場所に身を潜めている二人は、街道を行く馬数頭の気配を感じ取っていた。
 話の通りなら、王子と護衛数人、というところだろう。

「そうか。見つからないように追うぞ」
「わかりました。でも相変わらず、王子の気配は感じられませんね。……乗ってる馬だけは分かるのですけど」
「それもあの指輪の効果なのかな? 厄介なものだな」
「本当にそうですねぇ……」

 彼女は頷きながらも彼の腰に手を回し、少しだけ地面から身体を浮かせた。
 そのまま目立たぬように草を陰にしつつ、王子の一行から一定の距離を保って付いていく。

 しばらく走ったあと、王子たちが止まったのは、王都から2時間ほど離れたところにある広い草原だった。

「……ちょっと広すぎますね」
「確かに、ここだと目立ちすぎるな」
「はい。よほど高く飛んでも見えちゃいますしね」

 草原はかなり広く、今二人はその周囲を囲む林の中から様子を窺っていた。

「狩りってどんなことするんですか?」
「まぁ色々だけど、一般的なのは弓とかで獣を狙ったりだな。魔法で追い立てたりして……」
「なるほど……」

 今はこちらからも目視で見えるほどの距離ではないため、逆に相手からも見られることはないだろう。
 そのため、何をしているのかも当然分からない。

「ここからだと、流石に狙えないか?」

 アティアスが聞く。彼女は少し悩んでから答えた。

「えっと、このくらいの距離なら私は大丈夫ですけど、あの王子は正確な場所が分からないので……。できれば目で見える範囲に来てほしいです」

 王子の居場所を魔力で感知できないということは、場所も曖昧だということか。
 おそらく護衛の者の近くにはいるのだろうが……。

「そうか。そうだよな……。しばらく様子を見るか」
「そうしましょう」

 エミリスは頷いて、草原のほうに意識を集中しながら身を屈めた。
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