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第11章 その後
第163話 叙爵
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「よく来たな、アティアス」
半年ぶりに王都に来たアティアス達を王都の門で出迎えたのは、ワイヤードだった。
馬車を降り、彼に向き合う。
「またしばらく世話になるよ」
「女王も楽しみにしてるよ。……エミリスもどうだ? 元気にしてたか?」
「はい、忙しくてあっという間でしたけど……」
そう言って彼女も実の父親の彼に頭を下げる。
「そうか。それは良かった。……髪はそのままで良いのか?」
「今のところは。もう慣れてますし。……どうして来るのがわかったんですか?」
「ふ、相変わらずお前の魔力が駄々漏れだからな。……そっちの娘もそこそこの魔力があるみたいだな。アティアスよりは多い」
そう言ってワイヤードはウィルセアを見た。
「お久しぶりです。ワイヤードさん」
彼女が頭を下げると、ワイヤードは首を傾げた。
「ん、どこかで会ったか? すまんが覚えてなくてな」
「いえ、ほんの少しお見かけしただけですから。……私はウィルセア・マッキンゼと申します。最近、お二方にお世話になっております」
「なるほど、マッキンゼ子爵の娘か。……確かにヴィゴールと居たな。すまなかった」
ワイヤードは小さく手を上げて謝意を示す。
「いえ、置き物のように座っていただけですから。……アティアス様から教えていただきましたが、あなたがその……エミリスさんの……?」
「そうか、2人に信頼されてるようだな。……その通りだ。娘を頼む」
「はい。お任せください」
ウィルセアはそう言って頭を下げた。
3人に向かってワイヤードは言った。
「まぁこんなところではなんだ。時間があったら王宮に来てくれ。女王も楽しみにしてるよ。あと、確かマッキンゼ子爵も既に来ていたはずだ。どこかで会うだろう」
「お父様が?」
「ああ。……それじゃあな」
ワイヤードはそう言うと、ふっと姿がかき消えた。
アティアス達はもう慣れたものだが、初めて見たウィルセアは目を丸くした。
「え、いなくなりましたよ? どうなってるんですか?」
「元々そこにはいなかったんだ。魔力で作り出した幻影……らしい。そう聞いた」
「そんなことが……。エミリスさんもできるんですか?」
ウィルセアがエミリスに聞く。
「いえ、全然やり方わかりません。教えてもらったらできるかもしれませんけど……」
「エミーはぶっ壊すのは得意なんだけどな」
「うーん、そんなつもりはないんですけどねぇ……」
エミリスは彼の話に苦い顔をした。
「はは。それができたら、他の町にわざわざ顔を出さなくても情報収集できるんだけどな」
「あ、確かにそうですね。テンセズに頻繁に行くの、結構大変なんですよね」
「と言っても、飛んでいけばすぐだけどな。……さ、もう行こう」
「はーい」
アティアスに促され、頷いたふたりは改めて馬車に乗り込んだ。
◆
「アティアス・ヴァル・ゼルム。貴方にメラドニア女王エレナの名において、ウメーユ男爵位を与えます。……よろしく」
「は、光栄の極みです」
建国記念の式典の中、アティアスは女王エレナから叙爵され、証としての証書を受け取る。
爵位名は分かりやすく、治める中心地のウメーユから取られることになっていた。
今回、叙爵されたのは彼だけだが、他に功績のあった者に対する叙勲も同時に行われるため、拍子抜けするほどあっという間に終わった。
恐らく、エレナもそれを見越して、この日を選んだのだろう。
エミリスとウィルセアは、少し離れたところから、前に並ぶ彼を見ていた。
「私、初めてこういう式典に出たんですけど、意外とあっさりなんですね……」
「そうですね。みんな楽しみにしてるのは、このあとのパーティですよ。美味しい料理、食べ放題ですから」
「それは……アティアス様に聞いてましたが、楽しみですね」
「そうですね。私もお父様と以前一緒に来たときは、疲れてすぐ寝てしまったので……」
2人は小さな声で耳打ちしながら笑う。
この式典が終われば、晴れてアティアスは男爵となり、次はウメーユに帰っての就任式だ。
その前にパーティでお腹いっぱい食べるのを楽しみにしていた。
「なら、一緒に料理を食べ切りましょうね」
「はい。エミリスさんにはとても敵いませんが、がんばります」
◆
式典が終わり、パーティが大広間で開始された。
「ウィルセア、元気にしてるか?」
「お父様! はい、毎日楽しくやってます。お父様は?」
「はは、お前がいないから少し寂しいな。……まぁ、早いか遅いかの違いだけだが」
正装して3人が立っていると、そこにヴィゴールが来てウィルセアに声をかけた。
次にアティアスに向き合うと、右手を差し出す。
「アティアス殿。おめでとうございます。これから期待していますよ」
「ヴィゴール殿……。ありがとうございます。ウィルセア嬢をお借りして申し訳ありません」
「ははは。離れて見ていましたが、楽しそうにやっていたので安心しました。……少し、心配はしていたので」
ヴィゴールがそう言って笑う。
「お父様、心配はご無用ですわ。アティアス様は当然ですが、エミリスさんもすごく尊敬できる方ですので、お二人に良くしていただいて毎日充実しています」
「……そうか。お前もだいぶ成長したな。またウメーユに遊びに行くよ。……そうだ、収穫祭の時がいいな」
「ふふ、エミリスさんの食べっぷりを見たら驚きますよ?」
ウィルセアが笑う。
しかしヴィゴールは苦笑いして答えた。
「ははは、実は去年の収穫祭にエミリス殿は来ていてな。その時にもう見たよ」
「あ、そうなんですか。あれ、私も行きたかったのに……」
「すまんな。あの時は色々あってな」
残念がるウィルセアに申し訳なさそうにヴィゴールが言う。
ちょうどゼバーシュとのゴタゴタがあったころだからだろうか。
「ええ承知しております。ですから、今年は是非」
「ああ。今年はもうお前達の主催だからな。盛り上げてやってくれ。アティアス殿、頼みますよ」
「もちろんです。……このエミーに葡萄の大食いで勝ったら賞金、などいかがでしょうか、ははは」
アティアスがそう言って笑う。
それを聞いてエミリスは胸を張った。
「ふふ、誰にも賞金あげませんよ。逆に私が勝ったら、アティアス様に何かしていただきましょうかね」
「それは俺の分が悪いな……」
頭を掻くアティアスにヴィゴールは「ははは」と笑った。
半年ぶりに王都に来たアティアス達を王都の門で出迎えたのは、ワイヤードだった。
馬車を降り、彼に向き合う。
「またしばらく世話になるよ」
「女王も楽しみにしてるよ。……エミリスもどうだ? 元気にしてたか?」
「はい、忙しくてあっという間でしたけど……」
そう言って彼女も実の父親の彼に頭を下げる。
「そうか。それは良かった。……髪はそのままで良いのか?」
「今のところは。もう慣れてますし。……どうして来るのがわかったんですか?」
「ふ、相変わらずお前の魔力が駄々漏れだからな。……そっちの娘もそこそこの魔力があるみたいだな。アティアスよりは多い」
そう言ってワイヤードはウィルセアを見た。
「お久しぶりです。ワイヤードさん」
彼女が頭を下げると、ワイヤードは首を傾げた。
「ん、どこかで会ったか? すまんが覚えてなくてな」
「いえ、ほんの少しお見かけしただけですから。……私はウィルセア・マッキンゼと申します。最近、お二方にお世話になっております」
「なるほど、マッキンゼ子爵の娘か。……確かにヴィゴールと居たな。すまなかった」
ワイヤードは小さく手を上げて謝意を示す。
「いえ、置き物のように座っていただけですから。……アティアス様から教えていただきましたが、あなたがその……エミリスさんの……?」
「そうか、2人に信頼されてるようだな。……その通りだ。娘を頼む」
「はい。お任せください」
ウィルセアはそう言って頭を下げた。
3人に向かってワイヤードは言った。
「まぁこんなところではなんだ。時間があったら王宮に来てくれ。女王も楽しみにしてるよ。あと、確かマッキンゼ子爵も既に来ていたはずだ。どこかで会うだろう」
「お父様が?」
「ああ。……それじゃあな」
ワイヤードはそう言うと、ふっと姿がかき消えた。
アティアス達はもう慣れたものだが、初めて見たウィルセアは目を丸くした。
「え、いなくなりましたよ? どうなってるんですか?」
「元々そこにはいなかったんだ。魔力で作り出した幻影……らしい。そう聞いた」
「そんなことが……。エミリスさんもできるんですか?」
ウィルセアがエミリスに聞く。
「いえ、全然やり方わかりません。教えてもらったらできるかもしれませんけど……」
「エミーはぶっ壊すのは得意なんだけどな」
「うーん、そんなつもりはないんですけどねぇ……」
エミリスは彼の話に苦い顔をした。
「はは。それができたら、他の町にわざわざ顔を出さなくても情報収集できるんだけどな」
「あ、確かにそうですね。テンセズに頻繁に行くの、結構大変なんですよね」
「と言っても、飛んでいけばすぐだけどな。……さ、もう行こう」
「はーい」
アティアスに促され、頷いたふたりは改めて馬車に乗り込んだ。
◆
「アティアス・ヴァル・ゼルム。貴方にメラドニア女王エレナの名において、ウメーユ男爵位を与えます。……よろしく」
「は、光栄の極みです」
建国記念の式典の中、アティアスは女王エレナから叙爵され、証としての証書を受け取る。
爵位名は分かりやすく、治める中心地のウメーユから取られることになっていた。
今回、叙爵されたのは彼だけだが、他に功績のあった者に対する叙勲も同時に行われるため、拍子抜けするほどあっという間に終わった。
恐らく、エレナもそれを見越して、この日を選んだのだろう。
エミリスとウィルセアは、少し離れたところから、前に並ぶ彼を見ていた。
「私、初めてこういう式典に出たんですけど、意外とあっさりなんですね……」
「そうですね。みんな楽しみにしてるのは、このあとのパーティですよ。美味しい料理、食べ放題ですから」
「それは……アティアス様に聞いてましたが、楽しみですね」
「そうですね。私もお父様と以前一緒に来たときは、疲れてすぐ寝てしまったので……」
2人は小さな声で耳打ちしながら笑う。
この式典が終われば、晴れてアティアスは男爵となり、次はウメーユに帰っての就任式だ。
その前にパーティでお腹いっぱい食べるのを楽しみにしていた。
「なら、一緒に料理を食べ切りましょうね」
「はい。エミリスさんにはとても敵いませんが、がんばります」
◆
式典が終わり、パーティが大広間で開始された。
「ウィルセア、元気にしてるか?」
「お父様! はい、毎日楽しくやってます。お父様は?」
「はは、お前がいないから少し寂しいな。……まぁ、早いか遅いかの違いだけだが」
正装して3人が立っていると、そこにヴィゴールが来てウィルセアに声をかけた。
次にアティアスに向き合うと、右手を差し出す。
「アティアス殿。おめでとうございます。これから期待していますよ」
「ヴィゴール殿……。ありがとうございます。ウィルセア嬢をお借りして申し訳ありません」
「ははは。離れて見ていましたが、楽しそうにやっていたので安心しました。……少し、心配はしていたので」
ヴィゴールがそう言って笑う。
「お父様、心配はご無用ですわ。アティアス様は当然ですが、エミリスさんもすごく尊敬できる方ですので、お二人に良くしていただいて毎日充実しています」
「……そうか。お前もだいぶ成長したな。またウメーユに遊びに行くよ。……そうだ、収穫祭の時がいいな」
「ふふ、エミリスさんの食べっぷりを見たら驚きますよ?」
ウィルセアが笑う。
しかしヴィゴールは苦笑いして答えた。
「ははは、実は去年の収穫祭にエミリス殿は来ていてな。その時にもう見たよ」
「あ、そうなんですか。あれ、私も行きたかったのに……」
「すまんな。あの時は色々あってな」
残念がるウィルセアに申し訳なさそうにヴィゴールが言う。
ちょうどゼバーシュとのゴタゴタがあったころだからだろうか。
「ええ承知しております。ですから、今年は是非」
「ああ。今年はもうお前達の主催だからな。盛り上げてやってくれ。アティアス殿、頼みますよ」
「もちろんです。……このエミーに葡萄の大食いで勝ったら賞金、などいかがでしょうか、ははは」
アティアスがそう言って笑う。
それを聞いてエミリスは胸を張った。
「ふふ、誰にも賞金あげませんよ。逆に私が勝ったら、アティアス様に何かしていただきましょうかね」
「それは俺の分が悪いな……」
頭を掻くアティアスにヴィゴールは「ははは」と笑った。
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