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第12章 領主の日常
第165話 地下室大作戦(前編)
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ファンタジー小説大賞の最後ということで、執筆中の次章の序盤を先行で公開します。
(前・後話構成です)
◆◆◆
「エミリスさん、最近少し疲れてそうですわね」
「ウィルセアもそう思うか?」
「ええ……」
ウメーユの砦の執務室で、たまたまエミリスが部屋を離れたタイミングに、ウィルセアはアティアスに聞いた。
アティアスが叙爵され、ウメーユとテンセズを治めるようになって早くも3ヶ月。
今が一番暑い夏のことだった。
「まぁ、エミーは暑さが本当に苦手だからな」
「あ、そうだったのですね。いつも『暑いー』って言っているの、口癖かと思っていました」
「ははは、ちょうどそろそろ夏の大休暇の時期だろ? 3日くらいナターシャに任せて、俺たちも休みを取るか?」
カレンダーを見ると、この地域全般で一斉に休暇を取る人が多い『夏の大休暇』と呼ばれる週が、ちょうど来週に迫っていた。
もちろん、まだ完全にウメーユとテンセズの自治が回りきっていない今、長期間の休みを取るのは難しかった。
しかし、その週であれば急ぎの重要な案件はあまり上がって来ないことが予想され、数日なら姉のナターシャとノードの2人に任せるくらいはできるだろう。
「良いですね。アティアス様もほとんど休まれていませんから、心配していたところですわ」
「それを言うならウィルセアもだろ。……よし、エミーに頼んで、ゾマリーノにでも泳ぎに行くかな」
「ゾマリーノはゼバーシュの港町ですね。一度だけ、父に連れて行ってもらったことがありますわ」
アティアスはほぼ毎日のように砦で執務をしていた。
その補佐として主にウィルセアが付いていたが、週に数日はエミリスが代わりにそれを手伝うというパターンができあがっていた。
と言っても、エミリスは基本的にアティアスの近くからは離れないため、執務を手伝っていないときも彼女は部屋に来ていることが大半だ。今のように1人部屋から出ていることが珍しかった。
「あぅー。暑いです、暑いです……」
ゆらゆらとしながら執務室に戻ってきたエミリスは、うわ言のように呟きながら、ソファにバタッと倒れ込んだ。
少しでも涼しいようにと、薄手の白いワンピース姿で、髪も普段より短めに切り揃えていた。
「大丈夫か? まぁこの部屋は3階だし、一番暑いからな。1階だともう少し涼しいんだが……」
「うぅ……。その1階でしばらく涼んでましたけど、それでも暑いです……。せめて地下室が……」
部屋を離れていたのは、少しでも涼しい場所を求めて彷徨っていたのか。
地下室なら夏でも涼しいだろうが、残念ながらこの砦には地下室が作られていなかった。
「地下室か……。そうだな。暑さが苦手なエミリス様のために、来年までに作ってもいいかもな」
「……来年と言わず、いますぐ欲しいですよぅ」
「それは無理だろ。欲しいなら自分で庭にでも掘ってくれ」
アティアスにそう言われたエミリスは、ハッと顔を上げた。
「掘ってもいいんですか⁉︎ なら掘っちゃいますけど……?」
「別に構わないぞ。ただ、雨が降り込んで、プールになるようなことがないようにな」
「はいっ! わかりましたっ!」
急に元気よく返事したエミリスは、鼻歌混じりで部屋を出ていった。
「アティアス様、大丈夫でしょうか……?」
心配そうに聞くウィルセアに、彼は「まぁ、最悪埋めれば大丈夫だろ?」と答えた。
◆
「ふんふふーん」
「よぉ、さっきまでと違って、急に元気だな」
どこに地下室を作ろうかとエミリスが砦の周囲を物色していると、それを見つけたノードが声をかけた。
「ええ、アティアス様が地下室を掘っても良いと。どこに掘ろうかなぁって」
「地下室か……。確かにあると食料の保管もできて良いな。……そうだ、今の倉庫の床から掘ったらちょうど良いんじゃないか?」
そう言ってノードは砦の脇に立つ、大きな倉庫の建物を指差した。
そこには兵士の武具などの他に、非常用の食料なども保管されている。
「なるほど。室内から掘ったら、雨の心配は要らないですね」
「そう言っても、一応水が溜まる場所を作っておかないと、壁からも染み出してくるからな」
「ふむふむ。とりあえずは涼みたいだけなので、サクッと掘ってみますね」
「上の建物は壊さないでくれよ?」
「もちろんですー」
エミリスはそう言うと、鼻歌混じりで倉庫のほうに向かった。
入り口を守る兵士を顔パスで通過すると、倉庫の中を見渡した。
「うーん……掘った土を捨てるのが大変ですね……」
考えてみると、穴を掘るのは簡単にできるが、掘った土をどこかに運ばないといけない。
室内に入り口を作ると、掘った土を外に運び出すのが手間だった。
「あ、そうだ。外で掘ってから、後で室内と入り口を繋げるのが良いかなぁ……」
まずは外で小さめの穴から掘って行って、ある程度掘り進んだら中に広い部屋を作る。
そこから斜め上に掘って入り口と繋げてから、最初の穴を塞ぐという算段だった。
そうと決まれば、早速倉庫から出て、倉庫の近くの適当な広い場所に穴を掘り始めた。
彼女の魔力で掘られた土が、あっという間に周囲に山を作る。
何事かと兵士が彼女の様子を見にきたが、それを気にも留めずに、彼女はせっせと掘り進めていく。
そろそろ横に部屋を広げていこうと思った時だった。
「……んん? なんでしょうか?」
急に土ではなく、何か硬いものに当たって、それまでのように掘り進めることができなくなった。
岩のような感じもしたが、彼女の頭にはそれで諦めるという選択肢はなかった。
「むぅ。邪魔をするなら割ってしまいましょう」
そう言って穴の縁から下を覗き込み、軽めの爆裂魔法を撃ち込んだ。
――ドゥン!
という一瞬地鳴りのような音がしたが、どうも割れたような感触はなかった。
「むむー。それなら……!」
ムキになった彼女は、先ほどより魔力を込めて、もう一度魔法を放った。
――ドゴォオン!!
激しい爆音が周囲に轟く。
これなら割れただろうと、エミリスが鼻息を荒くした時だった。
――ガラガラガラ……!!
すぐ隣にあった倉庫が、激しい音を立てて崩れはじめたのを見て、エミリスは顔を青ざめさせた。
(前・後話構成です)
◆◆◆
「エミリスさん、最近少し疲れてそうですわね」
「ウィルセアもそう思うか?」
「ええ……」
ウメーユの砦の執務室で、たまたまエミリスが部屋を離れたタイミングに、ウィルセアはアティアスに聞いた。
アティアスが叙爵され、ウメーユとテンセズを治めるようになって早くも3ヶ月。
今が一番暑い夏のことだった。
「まぁ、エミーは暑さが本当に苦手だからな」
「あ、そうだったのですね。いつも『暑いー』って言っているの、口癖かと思っていました」
「ははは、ちょうどそろそろ夏の大休暇の時期だろ? 3日くらいナターシャに任せて、俺たちも休みを取るか?」
カレンダーを見ると、この地域全般で一斉に休暇を取る人が多い『夏の大休暇』と呼ばれる週が、ちょうど来週に迫っていた。
もちろん、まだ完全にウメーユとテンセズの自治が回りきっていない今、長期間の休みを取るのは難しかった。
しかし、その週であれば急ぎの重要な案件はあまり上がって来ないことが予想され、数日なら姉のナターシャとノードの2人に任せるくらいはできるだろう。
「良いですね。アティアス様もほとんど休まれていませんから、心配していたところですわ」
「それを言うならウィルセアもだろ。……よし、エミーに頼んで、ゾマリーノにでも泳ぎに行くかな」
「ゾマリーノはゼバーシュの港町ですね。一度だけ、父に連れて行ってもらったことがありますわ」
アティアスはほぼ毎日のように砦で執務をしていた。
その補佐として主にウィルセアが付いていたが、週に数日はエミリスが代わりにそれを手伝うというパターンができあがっていた。
と言っても、エミリスは基本的にアティアスの近くからは離れないため、執務を手伝っていないときも彼女は部屋に来ていることが大半だ。今のように1人部屋から出ていることが珍しかった。
「あぅー。暑いです、暑いです……」
ゆらゆらとしながら執務室に戻ってきたエミリスは、うわ言のように呟きながら、ソファにバタッと倒れ込んだ。
少しでも涼しいようにと、薄手の白いワンピース姿で、髪も普段より短めに切り揃えていた。
「大丈夫か? まぁこの部屋は3階だし、一番暑いからな。1階だともう少し涼しいんだが……」
「うぅ……。その1階でしばらく涼んでましたけど、それでも暑いです……。せめて地下室が……」
部屋を離れていたのは、少しでも涼しい場所を求めて彷徨っていたのか。
地下室なら夏でも涼しいだろうが、残念ながらこの砦には地下室が作られていなかった。
「地下室か……。そうだな。暑さが苦手なエミリス様のために、来年までに作ってもいいかもな」
「……来年と言わず、いますぐ欲しいですよぅ」
「それは無理だろ。欲しいなら自分で庭にでも掘ってくれ」
アティアスにそう言われたエミリスは、ハッと顔を上げた。
「掘ってもいいんですか⁉︎ なら掘っちゃいますけど……?」
「別に構わないぞ。ただ、雨が降り込んで、プールになるようなことがないようにな」
「はいっ! わかりましたっ!」
急に元気よく返事したエミリスは、鼻歌混じりで部屋を出ていった。
「アティアス様、大丈夫でしょうか……?」
心配そうに聞くウィルセアに、彼は「まぁ、最悪埋めれば大丈夫だろ?」と答えた。
◆
「ふんふふーん」
「よぉ、さっきまでと違って、急に元気だな」
どこに地下室を作ろうかとエミリスが砦の周囲を物色していると、それを見つけたノードが声をかけた。
「ええ、アティアス様が地下室を掘っても良いと。どこに掘ろうかなぁって」
「地下室か……。確かにあると食料の保管もできて良いな。……そうだ、今の倉庫の床から掘ったらちょうど良いんじゃないか?」
そう言ってノードは砦の脇に立つ、大きな倉庫の建物を指差した。
そこには兵士の武具などの他に、非常用の食料なども保管されている。
「なるほど。室内から掘ったら、雨の心配は要らないですね」
「そう言っても、一応水が溜まる場所を作っておかないと、壁からも染み出してくるからな」
「ふむふむ。とりあえずは涼みたいだけなので、サクッと掘ってみますね」
「上の建物は壊さないでくれよ?」
「もちろんですー」
エミリスはそう言うと、鼻歌混じりで倉庫のほうに向かった。
入り口を守る兵士を顔パスで通過すると、倉庫の中を見渡した。
「うーん……掘った土を捨てるのが大変ですね……」
考えてみると、穴を掘るのは簡単にできるが、掘った土をどこかに運ばないといけない。
室内に入り口を作ると、掘った土を外に運び出すのが手間だった。
「あ、そうだ。外で掘ってから、後で室内と入り口を繋げるのが良いかなぁ……」
まずは外で小さめの穴から掘って行って、ある程度掘り進んだら中に広い部屋を作る。
そこから斜め上に掘って入り口と繋げてから、最初の穴を塞ぐという算段だった。
そうと決まれば、早速倉庫から出て、倉庫の近くの適当な広い場所に穴を掘り始めた。
彼女の魔力で掘られた土が、あっという間に周囲に山を作る。
何事かと兵士が彼女の様子を見にきたが、それを気にも留めずに、彼女はせっせと掘り進めていく。
そろそろ横に部屋を広げていこうと思った時だった。
「……んん? なんでしょうか?」
急に土ではなく、何か硬いものに当たって、それまでのように掘り進めることができなくなった。
岩のような感じもしたが、彼女の頭にはそれで諦めるという選択肢はなかった。
「むぅ。邪魔をするなら割ってしまいましょう」
そう言って穴の縁から下を覗き込み、軽めの爆裂魔法を撃ち込んだ。
――ドゥン!
という一瞬地鳴りのような音がしたが、どうも割れたような感触はなかった。
「むむー。それなら……!」
ムキになった彼女は、先ほどより魔力を込めて、もう一度魔法を放った。
――ドゴォオン!!
激しい爆音が周囲に轟く。
これなら割れただろうと、エミリスが鼻息を荒くした時だった。
――ガラガラガラ……!!
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