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第12章 領主の日常
第180話 状況の整理
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「あ、アティアス様……! そ、そちらの……!」
アティアスたちがポチを連れて砦に着くと、門を守っている兵士が驚いた表情を見せた。
明らかに怯えているように見える。
ただ、立ち止まるエミリスの後ろで、ポチは我関せずと、行儀良く座っていた。
「あぁ、今回うちで飼うことにしたポチだ。噛んだりしないから大丈夫だ」
「で、ですが……」
「たぶん、炎吐いたりもしないから大丈夫……だと思う」
確証は持てないが、そもそもポチはまだ一度も炎を吐いたりしていない。
「ほら、ポチ。挨拶しなさい」
「バウ!」
エミリスが促すと、ポチは元気よく吠える。
それを見てヨシヨシと頭を撫でると、気持ちよさそうに彼女の膝に頭を擦り付けた。
「……な、大丈夫だろ?」
「は、はぁ……」
まだ不安そうな兵士だったが、領主が大丈夫と言っているのにそれ以上なにも言えない。
砦に入る一行についていくポチを横目に見ていることしかできなかった。
見送ったあと、他の兵士に耳打ちする。
「……あれ、俺の見間違いじゃなければ、ヘルハウンド……だよな? 一度見たことあるぜ」
「ああ……。そう思ったよ。魔獣を手懐けられるって、やはり……」
兵士たちは誰もがエミリスの異常な魔力を知っている。
もちろん、簡単にこの街を消し去ることができるということも。
そんな彼女だからこそ、魔獣だろうがペットにできるのだろうと、無理矢理納得することにした。
◆
「さて、それじゃまずは当面の状況を整理しておきたいと思う」
「わかりましたわ」
「はい」
執務室で顔を合わせながら、まずはこれからのことの意識合わせをする。
「まず、ここしばらくの間で一番大きな仕事は収穫祭だ。もうあと1ヶ月しかない」
「早いものですねぇ……」
しみじみとエミリスが呟く。
「これは農業組合が主催ですね」
「ああ、俺たちは後援だけど、酔っ払いが多く出るから兵士達は大変だ。その指揮はノードに取ってもらう」
「ふむふむ」
「エミーはお酒飲むの禁止な。葡萄は好きなだけ食べてもいいが……」
「はーい」
ワインが飲めないのは残念だが、とはいえ祭りの間は観光客も多い。もし何かあった場合、エミリスの力が必要となるかもしれない。
そのとき、潰れてしまっていては困るのだ。
「……と、ここまでは普通の話なんだが。観光客が来るってことは、それに紛れて良くない輩も来る可能性があるな。まず祭りまでの間は、門でのチェックを厳重にしたほうが良いだろう」
「そうですね。兵士に周知しておきますわ」
「それに、先日のゼバーシュの爆発事件のことを考えると……可能性として、こういう祭りのときは何か起こる可能性も予想しておかないといけない」
祭りで人が増えるときは、不審な人物がいても気づかれにくい。
また、アティアスたちも街に出ることがあるだろう。
「アティアス様はちゃーんと私がお守りしますから」
「エミーは葡萄に気を取られすぎるんじゃないぞ?」
「はーい」
アティアスが念を押すと、不満そうな顔でエミリスが返事をする。それを、ウィルセアはクスッと笑って見ていた。
「とはいえ、祭りで何か事件があるって決まったわけじゃない。そればっかり考えてて、祭りそのものが疎かになるのもダメだからな」
考えることは多い。
なにしろ、アティアスたちがこの収穫祭に関わること自体が初めてのことなのだ。
それだけでも大変なのに、予想外のことまで考えておくのは大変だ。
そのとき、ウィルセアが話し始めた。
「すみません、話は少し変わるのですが。昨日の爆発事件、アティアス様は事前にゼバーシュに行くことを通達していたわけではないのに、どこから漏れたんでしょうか。それが気になりまして」
「ふむ……」
アティアスは顔を伏せて考え込んだ。
確かに、ウィルセアの言うように、一昨日唐突にゼバーシュに訪問した。
そこから考えると、予め事件を起こすことを準備していたとは思えず、突発的な襲撃だったのではないかと考えられた。
「……少なくとも、当日の朝。俺たちを見つけて隠し持ってた魔法石で襲う、ってようなことは考えにくいな。となると、前日には準備していたと考えるべきだろう。それに、襲撃をしたのが、偶然エミーがいないときだったのか。それとも、いないところを狙ったのか」
「私は、それは偶然じゃないかと思いますわ。エミリスさんのこと、ゼバーシュではそれほど知ってる人いないんですよね?」
ウィルセアがアティアスに確認する。
「ああ。親父や兄弟はともかく、一般兵は知らないはずだ。マッキンゼ領の兵士の中には知ってる者も多いんだろうが……」
ダライやテンセズでの戦いで、マッキンゼ領の兵士相手には、かなりエミリスの力を見せてしまっていた。
それ故に恐れられているということでもあった。
しかし、ゼバーシュでは、あくまでアティアスの妻としての立場に留まっているはずだ。
「……ということは、前日にゼバーシュの街か城で俺たちを見かけて、準備をした可能性が高いってことだな」
「私はそう思いますわ」
ウィルセアが頷く。
「うーん……。ただ、それだと魔法石をどこから入手したのかわからないな。マッキンゼ領の兵士ならともかく、ゼバーシュにはもともと魔法石が無いからな」
「確かに……そうですわね」
アティアスが来るかどうかもわからないゼバーシュで、事前に襲撃の準備をしていたとはとても考えられない。
つまり突発的な事件なのは間違いない。
しかし、それにしては犯人の意図が理解できなかった。
「まぁ、考えてもこれはわからないな。当面は周りに気をつけておこう。ウィルセアはエミーから離れないようにな」
「わかりましたわ」
「エミーもしばらくは飲みすぎないように」
「残念ですけど、こればっかりは仕方ないですねぇ」
これから収穫祭に向け、周りにも気を付けることを確認し合う。
しかし、先のゼバーシュでの事件が、これから起こる領地を揺るがすほどの大きな事件の序章だったことは、この時はまだ誰も予想していなかった。
◆
【第12章 あとがき】
休み明けの執務を終え、夕食を取っているとき、エミリスは鼻息荒く、胸を張って言った。
「ふふふ。私、やっぱり有能ですよね? ね?」
「それ以上に色々やらかしてくれたけどな」
「うっ……! で、でもっ! 命の方がずっと大事ですからっ」
アティアスに指摘されて一瞬怯む。
しかし言い返すと、ウィルセアが頷いた。
「それはエミリスさんの言うとおりですわ。本当にありがとうございました」
「ですよねっ! ……それにしても、アティアス様はよく命狙われますねぇ」
「なんでだろうな。エミーがいなかったら、命がいくつあっても足りないよ」
アティアスは苦笑いしながらボヤく。
「まー。第3幕が終わってようやく完結したと思いきや、また何か起こりそうですし。いつになったらのんびりアティアス様と旅に出られるんでしょうねぇ……」
「そうですわね。私もご一緒させてもらうって話はどこに……」
「はは、しばらくは忙しいから無理だな」
「ぶーぶー」
エミリスは口を尖らせて不満を漏らした。
「さて、今回のあとがきはこんなものでいいだろ」
「ええー、短いですねぇ……」
「だって、次章を紹介するって言っても、まだ1文字も書かれてないんだから、伝えようがないしな」
「なるほど。今までは書き溜めがあったけれど、今はゼロってことですね」
「みたいだな」
エミリスは「やれやれ」といった表情で首を振った。
「ま、作者も他の作品書いたり、引越しがあったりと忙しいみたいだから、生温かく見守りましょうかねぇ」
「そうしてやってくれ。じゃないと、また変な事件を起こされかねないからな」
「ふふふ。その時は私が無理矢理にでも解決しますから、ご安心を」
不敵な笑みを浮かべたエミリスを、ウィルセアは引き攣った笑みで見ていた。
そして、その足元ではポチが優雅にあくびをした。
アティアスたちがポチを連れて砦に着くと、門を守っている兵士が驚いた表情を見せた。
明らかに怯えているように見える。
ただ、立ち止まるエミリスの後ろで、ポチは我関せずと、行儀良く座っていた。
「あぁ、今回うちで飼うことにしたポチだ。噛んだりしないから大丈夫だ」
「で、ですが……」
「たぶん、炎吐いたりもしないから大丈夫……だと思う」
確証は持てないが、そもそもポチはまだ一度も炎を吐いたりしていない。
「ほら、ポチ。挨拶しなさい」
「バウ!」
エミリスが促すと、ポチは元気よく吠える。
それを見てヨシヨシと頭を撫でると、気持ちよさそうに彼女の膝に頭を擦り付けた。
「……な、大丈夫だろ?」
「は、はぁ……」
まだ不安そうな兵士だったが、領主が大丈夫と言っているのにそれ以上なにも言えない。
砦に入る一行についていくポチを横目に見ていることしかできなかった。
見送ったあと、他の兵士に耳打ちする。
「……あれ、俺の見間違いじゃなければ、ヘルハウンド……だよな? 一度見たことあるぜ」
「ああ……。そう思ったよ。魔獣を手懐けられるって、やはり……」
兵士たちは誰もがエミリスの異常な魔力を知っている。
もちろん、簡単にこの街を消し去ることができるということも。
そんな彼女だからこそ、魔獣だろうがペットにできるのだろうと、無理矢理納得することにした。
◆
「さて、それじゃまずは当面の状況を整理しておきたいと思う」
「わかりましたわ」
「はい」
執務室で顔を合わせながら、まずはこれからのことの意識合わせをする。
「まず、ここしばらくの間で一番大きな仕事は収穫祭だ。もうあと1ヶ月しかない」
「早いものですねぇ……」
しみじみとエミリスが呟く。
「これは農業組合が主催ですね」
「ああ、俺たちは後援だけど、酔っ払いが多く出るから兵士達は大変だ。その指揮はノードに取ってもらう」
「ふむふむ」
「エミーはお酒飲むの禁止な。葡萄は好きなだけ食べてもいいが……」
「はーい」
ワインが飲めないのは残念だが、とはいえ祭りの間は観光客も多い。もし何かあった場合、エミリスの力が必要となるかもしれない。
そのとき、潰れてしまっていては困るのだ。
「……と、ここまでは普通の話なんだが。観光客が来るってことは、それに紛れて良くない輩も来る可能性があるな。まず祭りまでの間は、門でのチェックを厳重にしたほうが良いだろう」
「そうですね。兵士に周知しておきますわ」
「それに、先日のゼバーシュの爆発事件のことを考えると……可能性として、こういう祭りのときは何か起こる可能性も予想しておかないといけない」
祭りで人が増えるときは、不審な人物がいても気づかれにくい。
また、アティアスたちも街に出ることがあるだろう。
「アティアス様はちゃーんと私がお守りしますから」
「エミーは葡萄に気を取られすぎるんじゃないぞ?」
「はーい」
アティアスが念を押すと、不満そうな顔でエミリスが返事をする。それを、ウィルセアはクスッと笑って見ていた。
「とはいえ、祭りで何か事件があるって決まったわけじゃない。そればっかり考えてて、祭りそのものが疎かになるのもダメだからな」
考えることは多い。
なにしろ、アティアスたちがこの収穫祭に関わること自体が初めてのことなのだ。
それだけでも大変なのに、予想外のことまで考えておくのは大変だ。
そのとき、ウィルセアが話し始めた。
「すみません、話は少し変わるのですが。昨日の爆発事件、アティアス様は事前にゼバーシュに行くことを通達していたわけではないのに、どこから漏れたんでしょうか。それが気になりまして」
「ふむ……」
アティアスは顔を伏せて考え込んだ。
確かに、ウィルセアの言うように、一昨日唐突にゼバーシュに訪問した。
そこから考えると、予め事件を起こすことを準備していたとは思えず、突発的な襲撃だったのではないかと考えられた。
「……少なくとも、当日の朝。俺たちを見つけて隠し持ってた魔法石で襲う、ってようなことは考えにくいな。となると、前日には準備していたと考えるべきだろう。それに、襲撃をしたのが、偶然エミーがいないときだったのか。それとも、いないところを狙ったのか」
「私は、それは偶然じゃないかと思いますわ。エミリスさんのこと、ゼバーシュではそれほど知ってる人いないんですよね?」
ウィルセアがアティアスに確認する。
「ああ。親父や兄弟はともかく、一般兵は知らないはずだ。マッキンゼ領の兵士の中には知ってる者も多いんだろうが……」
ダライやテンセズでの戦いで、マッキンゼ領の兵士相手には、かなりエミリスの力を見せてしまっていた。
それ故に恐れられているということでもあった。
しかし、ゼバーシュでは、あくまでアティアスの妻としての立場に留まっているはずだ。
「……ということは、前日にゼバーシュの街か城で俺たちを見かけて、準備をした可能性が高いってことだな」
「私はそう思いますわ」
ウィルセアが頷く。
「うーん……。ただ、それだと魔法石をどこから入手したのかわからないな。マッキンゼ領の兵士ならともかく、ゼバーシュにはもともと魔法石が無いからな」
「確かに……そうですわね」
アティアスが来るかどうかもわからないゼバーシュで、事前に襲撃の準備をしていたとはとても考えられない。
つまり突発的な事件なのは間違いない。
しかし、それにしては犯人の意図が理解できなかった。
「まぁ、考えてもこれはわからないな。当面は周りに気をつけておこう。ウィルセアはエミーから離れないようにな」
「わかりましたわ」
「エミーもしばらくは飲みすぎないように」
「残念ですけど、こればっかりは仕方ないですねぇ」
これから収穫祭に向け、周りにも気を付けることを確認し合う。
しかし、先のゼバーシュでの事件が、これから起こる領地を揺るがすほどの大きな事件の序章だったことは、この時はまだ誰も予想していなかった。
◆
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休み明けの執務を終え、夕食を取っているとき、エミリスは鼻息荒く、胸を張って言った。
「ふふふ。私、やっぱり有能ですよね? ね?」
「それ以上に色々やらかしてくれたけどな」
「うっ……! で、でもっ! 命の方がずっと大事ですからっ」
アティアスに指摘されて一瞬怯む。
しかし言い返すと、ウィルセアが頷いた。
「それはエミリスさんの言うとおりですわ。本当にありがとうございました」
「ですよねっ! ……それにしても、アティアス様はよく命狙われますねぇ」
「なんでだろうな。エミーがいなかったら、命がいくつあっても足りないよ」
アティアスは苦笑いしながらボヤく。
「まー。第3幕が終わってようやく完結したと思いきや、また何か起こりそうですし。いつになったらのんびりアティアス様と旅に出られるんでしょうねぇ……」
「そうですわね。私もご一緒させてもらうって話はどこに……」
「はは、しばらくは忙しいから無理だな」
「ぶーぶー」
エミリスは口を尖らせて不満を漏らした。
「さて、今回のあとがきはこんなものでいいだろ」
「ええー、短いですねぇ……」
「だって、次章を紹介するって言っても、まだ1文字も書かれてないんだから、伝えようがないしな」
「なるほど。今までは書き溜めがあったけれど、今はゼロってことですね」
「みたいだな」
エミリスは「やれやれ」といった表情で首を振った。
「ま、作者も他の作品書いたり、引越しがあったりと忙しいみたいだから、生温かく見守りましょうかねぇ」
「そうしてやってくれ。じゃないと、また変な事件を起こされかねないからな」
「ふふふ。その時は私が無理矢理にでも解決しますから、ご安心を」
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