身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥

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第13章 暗躍

第194話 想いの行き場

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 その場にいた者たちの反応は大きく分かれた。
 アティアスとウィルセアは、もともとエレナのことを知っているため、驚くような様子はなく、落ち着いていた。
 一方で、ダリアン侯爵とジェインは、信じられないという顔をしていて。
 残るヴィゴールは、さほどの感情も見せず、静かに様子を見ていた。

 しばらくして、ダリアン侯爵がうわずった声を上げた。

「そ、そうか。わかったぞ! 偽物だな⁉︎ このような辺境に本物の女王が来るはずがない!」

 その言葉に、エレナはあからさまに不機嫌そうな顔を見せる。

「酷いわねぇ……。侯爵だって、私と会ったことくらい何度もあるでしょ? 偽者に見える?」
「それは……確かに……。いや……しかし……っ!」

 確かに、その姿は過去何度か謁見したことがある女王その人に見える。
 しかしそれが事実ならば、このエミリスという少女は一体何者なのか?
 女王に息子がいることは周知の事実だが、娘がいたという話は聞いたことがなかった。

「ほら、ワイヤード。あれを……」
「わかりました」

 女王の手前、恭しくワイヤードが礼をして、懐から何かを取り出した。
 その手に光っているものは、ひとつの紋章だった。

「――それは、王家の証……!」

 式典の際にいつも女王が胸に付けているもので、ダリアン侯爵も見たことがあった。
 もちろん、偽造できなくもないのだろうが、このような場で偽ったものを見せるなどとは考えられなかった。

「わかった? ――それじゃ、一回みんな座りましょうか。詳しい話を聞かせてちょうだい」

 ◆

 それから、アティアスが代表して経緯を説明するのを、一同は黙って聞いていた。
 ダリアン侯爵は震えていたが、それでも口を挟まないということは、内容に間違いがないということだとエレナは理解していた。

「ふーん。なるほどね。……侯爵にも一応聞いておくけど、間違いない?」
「……はい」

 尋ねられたダリアン侯爵は、渋々首を縦に振る。

「わかったわ。とりあえず……明日がお祭りでしょ? いったん、今日はなかったことにしておくので良いかしら?」
「私は構いませんが……」

 エレナに聞かれて、アティアスは頷く。
 次にエレナがダリアン侯爵に顔を向ける。

「も、もちろんですとも! なあ、ジェインよ」
「――は、はい!」

 それを聞いて、エレナは満足そうに頷くと、目を細めた。

「……次はないわよ? ――あと、念を押しておくけれど、この子のことは漏らしたら駄目よ?」
「こ、心得ております……」

 カクカクと頭を振るダリアン侯爵の動きがコミカルで、エミリスは笑いそうになるけれど、我慢してそれを堪えた。

「マッキンゼ子爵は……もしかして知ってたのかしら?」

 一歩引いた立ち位置で見ていたヴィゴールに向かって、エレナは尋ねた。

「……いえ。ですが、何かあるとは思っておりましたので」
「そう。貴方は人をよく見てるわね。……その子も、なのかしら?」
「かもしれませんね。私よりよくできた娘かもしれません」

 ヴィゴールは、隣に座るウィルセアの頭にぽんぽんと手を乗せて笑う。
 照れながらウィルセアは少し視線を伏せた。

「――ところで」

 話がひと段落したと見たアティアスが、唐突に話し始めた。

「ダリアン侯爵がお持ちだった魔法石は、どこから手に入れたものでしょうか?」

 本来、ダリアン侯爵が持っているはずのないものだ。
 しかも、使い方も知っているということは、誰かに指南されたということでもある。

 ダリアン侯爵はしばし逡巡したあと、答えた。

「……これは、ゼバーシュの使者から預かったものだ」

 アティアスは目を見開く。
 ゼバーシュ側からの提供だということは、上層部の誰かの仕業ということに他ならない。

「それは……誰ですか?」
「いや、それはわからないのだ。使者を寄越した者の名前は伏せられていた。ただ――今後協力してくれるなら、それを供与すると。それはそのためのサンプルだった」
「…………そうですか」

 アティアスはがっかりしたような、あるいはその名前を聞かずに安堵したような、複雑な気持ちだった。
 ただ、この件がまだ片付いていないことだけは理解した。

「……さ、それじゃ話はおしまいにして、お祭りの前夜祭を楽しみましょうか」

 エレナの声に、一同は表情を緩める。
 ただ、ウィルセアはひとり複雑そうな顔をしていた。

(今日の話がなかったこと……というのは、私の話もなかったことなんでしょうか……?)

 それはアティアスの側室に……という件だ。
 こういう場であることもあるだろうが、彼が否定しなかったのだから、理解はしてくれていたのだろう。
 それも含めて無かったことになるのかどうか。
 できれば、そうじゃないほうが良いと思いながらも、自分から話を出す訳にもいかずに、その想いの行き場をなくした。
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