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第14章 羨望
第210話 ……もし、次こういうことがあるなら
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「ポチ、元気にしてましたか?」
ウメーユの砦に帰り、執務室でエミリスが声をかけると、ポチは尻尾を振って彼女に擦り寄る。
「クゥーン」
「おー、よしよし」
その首筋をぐりぐりと撫でると、お腹を見せて気持ち良さそうに身を任せていた。
その様子を見ながら、アティアスは執務を代行してくれていたナターシャに声をかけた。
「姉さん、空けててすまない。とりあえずは片付いたから、戻ってきたよ」
「そうなのね。おかえり。思ったより帰ってくるの早かったわね」
立ち上がりながらそう答えたナターシャに、ノードも頷く。
「あと1週間くらいはかかると思ってたぜ。ま、早い方が楽で助かるけどな。……こいつ、よく食べるし」
言いながらノードはポチの方に視線を向けた。
「はは、この大きさだからな。暴れたりはなかったか?」
「ああ、大人しいもんさ。……でも火とか吐くんだよな、こいつ」
「こいつじゃないです、ポチですー」
『こいつ』呼ばわりしたノードに、エミリスがツッコミを入れた。
「悪い悪い。ポチな。本当に火吐くのか?」
「えー、私も見たことないですね。……ポチ、ちょっとやってみてください」
「バウ!」
それまでお腹を出して気持ちよさそうにしていたポチは、くるっと体を起こして、ノードの方に顔を向けて、口を開けた。
「ちょ、ちょっと待て。俺に向けて吐くなよ!」
「ははは。ポチ、それはまずい。エミーに向けて軽くやってみてくれ」
慌てて体を庇うノードを見て、アティアスが笑う。
エミリスなら炎を吐かれても防げるということだろう。
「バウ!」
アティアスに言われて、ポチは今度はエミリスに顔を向ける。
ただ、本当に吐いていいのか困っているような様子だ。
「ポチはいい子ですねぇ。……でも大丈夫です。ちょっと吐いてみてください」
「バウゥ」
ポチは小さく吠えてから、エミリスの方に口を開けると、その漆黒の口の中がキラキラと光る。
そして――。
――ゴゥ!
勢いよくその口から炎が吹き出した。
もちろん、その炎はエミリスの前でかき消され、彼女には届かない。
「おおぉ。結構熱いですねぇ……。ポチ、もういいですよ」
ポチが口を閉じると、吐いていた炎は、ふっと消え失せる。
そして、また伏せて尻尾を振っていた。
「……おっかねぇな」
ポツリとノードが呟く。
まだ子犬だが、下手な兵士よりも手強いのは間違いない。
そこで、改めてノードはアティアスに向き合う。
「……で、結局どういう話になったんだ?」
◆
「そうか……」
「セリーナさんが……」
アティアスがゼバーシュでの話を一通り説明すると、ノードとナターシャは顔を伏せた。
直接の交流が少ないアティアスと違い、ふたりともセリーナがゼバーシュに来たときから面識があるから尚更だろう。
ウィルセアが重い口を開く。
「……セリーナさんは、どうやらダリアン侯爵の後ろ盾を得て、トリックスさんを次期領主にしたかったようですね。私にはその気持ちはわかりませんが……」
生まれたときから子爵令嬢だったウィルセアと、そうではないセリーナの環境は大きく違う。
ただ、ウィルセアは生まれたときから決まっていて。
その役割通りに生きてきただけだ。
(……そうじゃなかったら、私は今ここに居ないわけですけれど)
その役割が良かったと思ったことはあまりないが、それでも……今こうしてここにいることができることには感謝しかない。
だからこそ、セリーナが思っていたことが理解できなくて。
たぶん、その立場に立ってみないと、その苦しさは理解できないのかもしれない。
「そうだな。……俺も四男で良かったと思ってるよ。レギウス兄さんの苦労は見てきてるし、そうじゃなかったらふらふらと旅に出て……エミーと会うことも無かっただろうし」
アティアスがエミリスを見ると、彼女は小さく頷いた。
「……ただまぁ、もし長男だったとしても、ウィルセアとは会ってたかもな。タラレバだけど、もしかしたら婚約者とかだったかもしれない。……その前に俺が暗殺されてたかもしれないけどな。ははは……」
苦笑いするアティアスに、ウィルセアは柔らかい微笑みを浮かべた。
「ふふ。そうですわね。……でも、ご安心ください。私は今でも十分幸せですから」
◆
その日はそのままノードたちに任せて、疲れを取るため3人は自宅に帰った。
荷物を片付けに自室へ向かったウィルセアを見送って、アティアスはエミリスと寝室に戻る。
「……昨晩はお楽しみでしたか?」
ふたりになった途端、意地悪な顔でエミリスが聞くと、アティアスは目を丸くする。
「おいおい。ウィルセアはまだ12歳だぞ。流石にまずいだろ」
「んー、見た目は私とそんなに変わらないと思うんですけどねぇ……。むしろウィルセアさんの方が大きいですし。色々と……」
軽い調子でエミリスは自分の胸をペタペタと触って見せた。
「べ、別に俺は子供が好きなわけじゃないから!」
「ふーん……。まぁいいです。……アティアス様が私を一番に愛してさえくだされば」
そう言いながら、エミリスは上目遣いで彼にすり寄った。
「……昨日は悪かったな。ひとりにさせて」
「寂しかったです。……王都以来ですね、ひとりで寝たのは」
思い返せば、王都で人身売買の囮を努めたとき以来のことだった。
それからすれば、半年以上経っている。
「……もし、次こういうことがあるなら、ウィルセアさんを呼んでアティアス様を挟むのが良いと思います。ふふ……」
エミリスは口元を緩めて、彼にしっかりと抱きついた。
ウメーユの砦に帰り、執務室でエミリスが声をかけると、ポチは尻尾を振って彼女に擦り寄る。
「クゥーン」
「おー、よしよし」
その首筋をぐりぐりと撫でると、お腹を見せて気持ち良さそうに身を任せていた。
その様子を見ながら、アティアスは執務を代行してくれていたナターシャに声をかけた。
「姉さん、空けててすまない。とりあえずは片付いたから、戻ってきたよ」
「そうなのね。おかえり。思ったより帰ってくるの早かったわね」
立ち上がりながらそう答えたナターシャに、ノードも頷く。
「あと1週間くらいはかかると思ってたぜ。ま、早い方が楽で助かるけどな。……こいつ、よく食べるし」
言いながらノードはポチの方に視線を向けた。
「はは、この大きさだからな。暴れたりはなかったか?」
「ああ、大人しいもんさ。……でも火とか吐くんだよな、こいつ」
「こいつじゃないです、ポチですー」
『こいつ』呼ばわりしたノードに、エミリスがツッコミを入れた。
「悪い悪い。ポチな。本当に火吐くのか?」
「えー、私も見たことないですね。……ポチ、ちょっとやってみてください」
「バウ!」
それまでお腹を出して気持ちよさそうにしていたポチは、くるっと体を起こして、ノードの方に顔を向けて、口を開けた。
「ちょ、ちょっと待て。俺に向けて吐くなよ!」
「ははは。ポチ、それはまずい。エミーに向けて軽くやってみてくれ」
慌てて体を庇うノードを見て、アティアスが笑う。
エミリスなら炎を吐かれても防げるということだろう。
「バウ!」
アティアスに言われて、ポチは今度はエミリスに顔を向ける。
ただ、本当に吐いていいのか困っているような様子だ。
「ポチはいい子ですねぇ。……でも大丈夫です。ちょっと吐いてみてください」
「バウゥ」
ポチは小さく吠えてから、エミリスの方に口を開けると、その漆黒の口の中がキラキラと光る。
そして――。
――ゴゥ!
勢いよくその口から炎が吹き出した。
もちろん、その炎はエミリスの前でかき消され、彼女には届かない。
「おおぉ。結構熱いですねぇ……。ポチ、もういいですよ」
ポチが口を閉じると、吐いていた炎は、ふっと消え失せる。
そして、また伏せて尻尾を振っていた。
「……おっかねぇな」
ポツリとノードが呟く。
まだ子犬だが、下手な兵士よりも手強いのは間違いない。
そこで、改めてノードはアティアスに向き合う。
「……で、結局どういう話になったんだ?」
◆
「そうか……」
「セリーナさんが……」
アティアスがゼバーシュでの話を一通り説明すると、ノードとナターシャは顔を伏せた。
直接の交流が少ないアティアスと違い、ふたりともセリーナがゼバーシュに来たときから面識があるから尚更だろう。
ウィルセアが重い口を開く。
「……セリーナさんは、どうやらダリアン侯爵の後ろ盾を得て、トリックスさんを次期領主にしたかったようですね。私にはその気持ちはわかりませんが……」
生まれたときから子爵令嬢だったウィルセアと、そうではないセリーナの環境は大きく違う。
ただ、ウィルセアは生まれたときから決まっていて。
その役割通りに生きてきただけだ。
(……そうじゃなかったら、私は今ここに居ないわけですけれど)
その役割が良かったと思ったことはあまりないが、それでも……今こうしてここにいることができることには感謝しかない。
だからこそ、セリーナが思っていたことが理解できなくて。
たぶん、その立場に立ってみないと、その苦しさは理解できないのかもしれない。
「そうだな。……俺も四男で良かったと思ってるよ。レギウス兄さんの苦労は見てきてるし、そうじゃなかったらふらふらと旅に出て……エミーと会うことも無かっただろうし」
アティアスがエミリスを見ると、彼女は小さく頷いた。
「……ただまぁ、もし長男だったとしても、ウィルセアとは会ってたかもな。タラレバだけど、もしかしたら婚約者とかだったかもしれない。……その前に俺が暗殺されてたかもしれないけどな。ははは……」
苦笑いするアティアスに、ウィルセアは柔らかい微笑みを浮かべた。
「ふふ。そうですわね。……でも、ご安心ください。私は今でも十分幸せですから」
◆
その日はそのままノードたちに任せて、疲れを取るため3人は自宅に帰った。
荷物を片付けに自室へ向かったウィルセアを見送って、アティアスはエミリスと寝室に戻る。
「……昨晩はお楽しみでしたか?」
ふたりになった途端、意地悪な顔でエミリスが聞くと、アティアスは目を丸くする。
「おいおい。ウィルセアはまだ12歳だぞ。流石にまずいだろ」
「んー、見た目は私とそんなに変わらないと思うんですけどねぇ……。むしろウィルセアさんの方が大きいですし。色々と……」
軽い調子でエミリスは自分の胸をペタペタと触って見せた。
「べ、別に俺は子供が好きなわけじゃないから!」
「ふーん……。まぁいいです。……アティアス様が私を一番に愛してさえくだされば」
そう言いながら、エミリスは上目遣いで彼にすり寄った。
「……昨日は悪かったな。ひとりにさせて」
「寂しかったです。……王都以来ですね、ひとりで寝たのは」
思い返せば、王都で人身売買の囮を努めたとき以来のことだった。
それからすれば、半年以上経っている。
「……もし、次こういうことがあるなら、ウィルセアさんを呼んでアティアス様を挟むのが良いと思います。ふふ……」
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