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第15章 南へ
第216話 5年間の想い
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「ま、またまたご冗談を……」
エミリスの言葉を冗談だと受け取ったのか、ウィルセアは笑いながら返した。
しかし、エミリスは真面目な顔で首を振る。
「いえ、冗談じゃないです。もともと、アティアス様の立場を考えると、ヴィゴールさんとの繋がりがある方が良いのは、私もわかっているんです」
それはウィルセアがまだ12歳の誕生日を迎える前、初めて出会った時からわかっていたことだ。
アティアスが男爵の爵位を賜ったとはいえ、周囲の諸侯に比べるとずっと立場は低い。伯爵であるゼルム家の後ろ盾があるとはいえ、周囲との繋がりが多い方がいいことには変わりない。
もっとも、実態としてすでにウィルセアがアティアスと共にいることは周知の事実であり、彼女の父であるマッキンゼ子爵がアティアスと敵対することはあり得ないだろう。
そして、万が一そんなことがあったとしても、排除する力はエミリスが保持している。
「……もちろん、心情的にはアティアス様を独り占めしたくはあります。でも、ウィルセアさんももう17歳でしょう? ずっとこうしているわけにもいかないし、ウィルセアさんなら良いかなと、最近思うようになりました」
「エミリスさん……」
「まぁ、最後は私が決めることではないですけれど。……アティアス様とウィルセアさんでよく相談してください。不安なら、多少はお手伝いしましょう」
エミリスはそう言うと、口ぎりぎりまでお湯に浸かって、何かを考えるようにゆっくりと目を閉じた。
彼女の濃い緑の髪がお湯に綺麗に広がっていた。
「……ありがとう……ございます」
ウィルセアもそう呟き、ゆっくりと天井を見上げて大きく息を吐いた。
◆
エミリスがウィルセアと共に部屋に戻ると、すでにアティアスは風呂を済ませたのか、部屋に戻ってベッドに腰掛けていた。
ウィルセアは自分がどうするべきなのか悩みつつ、急に彼の顔を見るのが恥ずかしくなり、エミリスの影に隠れていた。
しかし。エミリスはぐいっと彼女をアティアスに押し付けるようにして言った。
「そういうことですので、ウィルセアさんをよろしくお願いします」
「いや、いきなりそこから始められても、なんのことか全くわからん」
「むぅ。ストレートに言うと、さくっと抱いてあげてください、ってことです」
「――ふぁ?」
「多少の手伝い」とは言っていたが、全くオブラートに包まずに言い放ったエミリスに驚いて、ウィルセアは喉から裏返った声が出た。
それと同時に、みるみるうちに頬が赤く染まっていく。
アティアスにとっても予想外のことだろう。
目を丸くしながら、エミリスとウィルセアを交互に見やる。
「ちょ、ちょっと待て。エミー、落ち着けって」
「落ち着いてないのはアティアス様ですー。ほらほら」
軽く言いながら、真っ赤になったウィルセアの背中を押して、アティアスに押し付けた。
彼女を抱きとめるように腕を回したアティアスは、エミリスに聞く。
「まぁ待てって。せめて経緯をだな」
「説明の必要あります? ウィルセアさんがアティアス様を好きなのはご存知でしょう? もう17歳ですよ? このまま生娘のまま、放置されるおつもりですか?」
「だからといってだな……」
呆れつつも、自分の腕の中で緊張した顔のウィルセアに視線を落とす。
少し震えているようにも感じるのは、気のせいではないのだろう。
エミリスの言うとおり、このままずっと自分のところで働いてもらうだけというのは、あまりにも申し訳なく思ってはいた。
他の選択肢もあることは何度か示したこともある。それでもこうして離れずにいてくれているのだから。
「……ウィルセアはどうしたい?」
アティアスが聞くと、ウィルセアは震える声で答えた。
「私は……私は、アティアス様に抱いていただけるなら、これ以上の幸せはありません……」
「そうか……。エミーはいいのか……?」
改めてエミリスにも確認する。
「……ウィルセアさんなら、構いません。不安なら、一緒にお付き合いしますけど……?」
「――え?」
ウィルセアは慌ててエミリスの顔を振り返った。
確かに、今日泊まっているこの3人部屋だと、それ以外の選択肢は、しばらく外に出ていてもらうしかない。
「……うん、それが良いですね。私もしばらくぶりですし、アティアス様とふたりでウィルセアさんを……。ふふふ……」
「……ひえっ……!」
アティアスとエミリスに挟まれるような格好となったウィルセアは、急に怖くなって小さく声を上げる。
(まさか「手伝い」って、そういう意味……?)
そんな彼女の頬にそっと手を伸ばしたエミリスは、優しく告げる。
「だいじょーぶです。すっごく気持ち良くなりますから。……ね、アティアス様」
エミリスはそのまま手を降ろしていって、ウィルセアの服のボタンに手をかける。
それを見ていることしかできないウィルセアだったが、ふいに顎に手が添えられてピクッと体を震わせた。
「アティアス様……」
それがアティアスの手であることにすぐに気づく。
そのまま少し顎を持ち上げられると、すぐに彼の唇が重ねられた。
「ん……」
それは彼女が待ち望んでいた、初めての口付けだった。
うっとりとした表情で目を閉じると、彼に体を任せる。すうっと自分の体から力が抜けていくのがわかった。
唇を重ねたまま、ゆっくりとベッドに体が横たえられると、その時にはすでにボタンは全て外されていた。
「……もう一度だけ聞くぞ、本当にいいんだな?」
潤んだ瞳で彼の顔を見上げるウィルセアに、アティアスはもう一度確認する。
「……はい。5年間、ずっとこの時を待っておりました」
ウィルセアはこくりと小さく頷き、はっきりと答えた。
◆
「……そういえば、まだ夕食はこれからでしたわね」
ベッドにうつ伏せになったまま、ぽつりとウィルセアが呟く。
シーツは被っているが、その下は一糸纏わぬ姿だ。
恥ずかしくてそうしているのだろうが、シーツに浮かび上がる身体の起伏で、より艶かしく見えることに、彼女は気づいていない。
「ですねー、私もお腹ぺこぺこです」
「エミーのお腹はいつもペコペコだろ?」
「ぶー。そんなことないですー」
すぐ近くから、聞き慣れたやり取りが聞こえてきて、ウィルセアの頬が緩む。
エミリスの言う「手伝い」は、ほとんど自分の反応を楽しんでいるだけだったような気もしたが、それで緊張が解れたとも言える。
(……そんな余裕なかっただけですけど)
そんなことを考えていると、ふいに頭を撫でられる感触で顔を上げる。
「……アティアス様。ありがとうございます……」
アティアスの指がそっと自分の髪を梳いてくれるのが心地良くて、ゆっくり目を閉じ、身を委ねることにした。
エミリスの言葉を冗談だと受け取ったのか、ウィルセアは笑いながら返した。
しかし、エミリスは真面目な顔で首を振る。
「いえ、冗談じゃないです。もともと、アティアス様の立場を考えると、ヴィゴールさんとの繋がりがある方が良いのは、私もわかっているんです」
それはウィルセアがまだ12歳の誕生日を迎える前、初めて出会った時からわかっていたことだ。
アティアスが男爵の爵位を賜ったとはいえ、周囲の諸侯に比べるとずっと立場は低い。伯爵であるゼルム家の後ろ盾があるとはいえ、周囲との繋がりが多い方がいいことには変わりない。
もっとも、実態としてすでにウィルセアがアティアスと共にいることは周知の事実であり、彼女の父であるマッキンゼ子爵がアティアスと敵対することはあり得ないだろう。
そして、万が一そんなことがあったとしても、排除する力はエミリスが保持している。
「……もちろん、心情的にはアティアス様を独り占めしたくはあります。でも、ウィルセアさんももう17歳でしょう? ずっとこうしているわけにもいかないし、ウィルセアさんなら良いかなと、最近思うようになりました」
「エミリスさん……」
「まぁ、最後は私が決めることではないですけれど。……アティアス様とウィルセアさんでよく相談してください。不安なら、多少はお手伝いしましょう」
エミリスはそう言うと、口ぎりぎりまでお湯に浸かって、何かを考えるようにゆっくりと目を閉じた。
彼女の濃い緑の髪がお湯に綺麗に広がっていた。
「……ありがとう……ございます」
ウィルセアもそう呟き、ゆっくりと天井を見上げて大きく息を吐いた。
◆
エミリスがウィルセアと共に部屋に戻ると、すでにアティアスは風呂を済ませたのか、部屋に戻ってベッドに腰掛けていた。
ウィルセアは自分がどうするべきなのか悩みつつ、急に彼の顔を見るのが恥ずかしくなり、エミリスの影に隠れていた。
しかし。エミリスはぐいっと彼女をアティアスに押し付けるようにして言った。
「そういうことですので、ウィルセアさんをよろしくお願いします」
「いや、いきなりそこから始められても、なんのことか全くわからん」
「むぅ。ストレートに言うと、さくっと抱いてあげてください、ってことです」
「――ふぁ?」
「多少の手伝い」とは言っていたが、全くオブラートに包まずに言い放ったエミリスに驚いて、ウィルセアは喉から裏返った声が出た。
それと同時に、みるみるうちに頬が赤く染まっていく。
アティアスにとっても予想外のことだろう。
目を丸くしながら、エミリスとウィルセアを交互に見やる。
「ちょ、ちょっと待て。エミー、落ち着けって」
「落ち着いてないのはアティアス様ですー。ほらほら」
軽く言いながら、真っ赤になったウィルセアの背中を押して、アティアスに押し付けた。
彼女を抱きとめるように腕を回したアティアスは、エミリスに聞く。
「まぁ待てって。せめて経緯をだな」
「説明の必要あります? ウィルセアさんがアティアス様を好きなのはご存知でしょう? もう17歳ですよ? このまま生娘のまま、放置されるおつもりですか?」
「だからといってだな……」
呆れつつも、自分の腕の中で緊張した顔のウィルセアに視線を落とす。
少し震えているようにも感じるのは、気のせいではないのだろう。
エミリスの言うとおり、このままずっと自分のところで働いてもらうだけというのは、あまりにも申し訳なく思ってはいた。
他の選択肢もあることは何度か示したこともある。それでもこうして離れずにいてくれているのだから。
「……ウィルセアはどうしたい?」
アティアスが聞くと、ウィルセアは震える声で答えた。
「私は……私は、アティアス様に抱いていただけるなら、これ以上の幸せはありません……」
「そうか……。エミーはいいのか……?」
改めてエミリスにも確認する。
「……ウィルセアさんなら、構いません。不安なら、一緒にお付き合いしますけど……?」
「――え?」
ウィルセアは慌ててエミリスの顔を振り返った。
確かに、今日泊まっているこの3人部屋だと、それ以外の選択肢は、しばらく外に出ていてもらうしかない。
「……うん、それが良いですね。私もしばらくぶりですし、アティアス様とふたりでウィルセアさんを……。ふふふ……」
「……ひえっ……!」
アティアスとエミリスに挟まれるような格好となったウィルセアは、急に怖くなって小さく声を上げる。
(まさか「手伝い」って、そういう意味……?)
そんな彼女の頬にそっと手を伸ばしたエミリスは、優しく告げる。
「だいじょーぶです。すっごく気持ち良くなりますから。……ね、アティアス様」
エミリスはそのまま手を降ろしていって、ウィルセアの服のボタンに手をかける。
それを見ていることしかできないウィルセアだったが、ふいに顎に手が添えられてピクッと体を震わせた。
「アティアス様……」
それがアティアスの手であることにすぐに気づく。
そのまま少し顎を持ち上げられると、すぐに彼の唇が重ねられた。
「ん……」
それは彼女が待ち望んでいた、初めての口付けだった。
うっとりとした表情で目を閉じると、彼に体を任せる。すうっと自分の体から力が抜けていくのがわかった。
唇を重ねたまま、ゆっくりとベッドに体が横たえられると、その時にはすでにボタンは全て外されていた。
「……もう一度だけ聞くぞ、本当にいいんだな?」
潤んだ瞳で彼の顔を見上げるウィルセアに、アティアスはもう一度確認する。
「……はい。5年間、ずっとこの時を待っておりました」
ウィルセアはこくりと小さく頷き、はっきりと答えた。
◆
「……そういえば、まだ夕食はこれからでしたわね」
ベッドにうつ伏せになったまま、ぽつりとウィルセアが呟く。
シーツは被っているが、その下は一糸纏わぬ姿だ。
恥ずかしくてそうしているのだろうが、シーツに浮かび上がる身体の起伏で、より艶かしく見えることに、彼女は気づいていない。
「ですねー、私もお腹ぺこぺこです」
「エミーのお腹はいつもペコペコだろ?」
「ぶー。そんなことないですー」
すぐ近くから、聞き慣れたやり取りが聞こえてきて、ウィルセアの頬が緩む。
エミリスの言う「手伝い」は、ほとんど自分の反応を楽しんでいるだけだったような気もしたが、それで緊張が解れたとも言える。
(……そんな余裕なかっただけですけど)
そんなことを考えていると、ふいに頭を撫でられる感触で顔を上げる。
「……アティアス様。ありがとうございます……」
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