身寄りのない少女を引き取ったら有能すぎて困る(困らない)

長根 志遥

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第15章 南へ

第217話 港町へ

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「そーいえば、私たちってどーゆー関係になるんでしょう?」

 トロンの街のレストランに行き、それまで満足そうに夕食を頬張っていたエミリスは、突然ふと疑問を口にした。
 意図がよく理解できなかったウィルセアが聞き返す。

「……と言いますと?」

「えっと、たとえばナターシャさんはアティアス様の姉なので、私から見れば義理の姉になるじゃないですか。……私のが年上ですけど」

「まぁ、そうだな」

 アティアスが頷く。

「で、このメラドニアでは第二夫人が認められてるワケですけども……。つまり、ウィルセアさんから見てもナターシャさんは姉になるんですよね。逆に、ナターシャさんから見たら、私もウィルセアさんも妹になるワケです」

「なるほど……」

 ウィルセアは頷く。
 これまでそんなことを考えたことはなかったけれども、「夫人」というフレーズを耳にして、目尻が下がるのが自分でもわかる。

「それじゃ、私とウィルセアさんは何なんでしょう? やっぱり義理の姉妹なんですかねぇ? ……って思いまして」

「……なんか、変なところにこだわるんだな」

「あっ、別にただ疑問に思っただけですよ。ただ単に、です」

 アティアスに呆れられると、エミリスは慌てて手を振って弁明する。
 その様子をウィルセアはクスッと笑った。

「ふふっ、エミリスさんは大雑把なようで細かいですからね。いいじゃないですか、それなら私が妹ですわね」

「どっちかっていうと、見た目ならウィルセアのが姉に見えるけどな」

 以前なら確かにウィルセアは幼かった。しかし、今は成長して外観上の年齢はすでにエミリスを逆転しているようにも思えた。
 しかも、それはどんどん開いていくのだろう。

 エミリスは口を尖らせる。

「ぶー、どーせ私は背も低いし、胸もちっちゃいですもん」

「まあまあ、そう拗ねるなよ。もういまさら大きくならんだろ。諦めろ」

「ぶーぶー。気にしてるんですから、傷口に塩を塗らないでくださいっ!」

 怒っている素振りは全くないが、わざとらしく口をへの字に曲げたエミリスは、アティアスの脇腹をビシビシと指でつついた。

 そんなふたりの変わらぬ仲の良さを、ウィルセアは近くでずっと見てきたこともあるし、これまで羨ましいと思っていた。
 まだまだ同じようにはなれないけれども、今日その一員に近づけたのだろうと思うと、やはり嬉しいものだとも思う。

「あ、こらっ! ウィルセアもやめろって」

 アティアスの反対側の脇腹をウィルセアもつつく。
 挟まれた彼は防御もできなくて、身をよじっているのが面白い。

「ふふっ、お姉様の助太刀ですわ」

「なんだよ、それはっ」

 そしてその攻防はエミリスが満足するまで続けられた。

 ◆◆◆

 それから3日。
 トロンを出てからは、定期運行されている乗合馬車を使うことにした。
 ゼバーシュとトロンの間、それと同じくゼバーシュと港町ゾマリーノの間は、交易が広いこともあって、安定的に定期運行されている馬車がある。

 当初は全行程を歩くつもりにしていたが、ゼバーシュ近郊は普段から見慣れていた場所だということもあり、敢えて歩く必要もないだろうと判断したのだ。
 なによりも、その区間を全て歩いた場合、倍の日数がかかってしまうことも大きい。

 ゾマリーノに着いて馬車から降りたあと、背中を伸ばしながらエミリスが満足げな顔を見せる。

「というわけで、久しぶりの海ですねー」

「なにが、『というわけ』なのかはわからんが、まぁそうだな」

「ようやく旅のスタート地点に着いた、ってことですよっ」

 エミリスの言うように、今回の旅はここまで10日掛けているが、実質のスタート地点はこのゾマリーノだ。
 ここまでの道のりは序章に過ぎない。

「エミリスさんに運んでもらわずに、ここまで来たのは初めてですわ……」

 ウィルセアが嬉しそうに呟く。
 この町には海があるため、休暇の際にはこの3人で何度か足を運んでいたし、領主の仕事としての視察で来たこともある。
 しかし、いずれも多忙だという理由で、エミリスの力を借りての来訪だった。

「俺も久しぶりだよ。エミーと会ってからは初めてだな」

「ふふ、アティアス様はいつも私を便利な乗り物扱いしてますもんねぇ……」

 含みのある顔でニヤリとエミリスが笑う。
 しかし、アティアスは彼女の頭を撫でながらも、呆れた顔をした。

「おいおい、誤解されそうな言い方はやめろって。……それにいつも感謝してるよ」

「んんー? 誤解ってなんのことですかねぇ? 私、わからないので教えてほしいですー」

 エミリスは上目遣いをしながら、わざとらしく言った。

「あの……。よくわからないのですけど、誤解するような要素あります……? エミリスさんには申し訳ないのですけど、いつも助かっておりますし……」

 ウィルセアが首を傾げながら、まっすぐな瞳でエミリスに頭を下げる。
 エミリスは困ったような顔をして、アティアスに助けを求めた。

「えっと……。ウィルセアさんにはまだ早いというか……? いえ、もう早くはないのかもしれませんけど……。ねぇ、アティアス様……?」

「…………?」

 全く理解できないウィルセアは、ぽかーんと口を開けたままだ。
 アティアスも苦笑いしながらウィルセアの耳元で囁く。

「……それは知らなくてもいい話だって。――さ、早めに定期船の出航日を確認しておこうか」

「あ、はいっ! 行きましょう」

 はっと顔を上げたウィルセアは、慌ててアティアスの後を追って、港へと向かった。
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