追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布

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1話

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「――陽彩(ヒイロ)くん。君、魔力測定の結果……『ゼロ』だったよ」

 目の前に突きつけられた水晶球は、どんよりとした灰色に濁っていた。
 豪華絢爛な王宮の大広間。その中心で、僕は呆然と立ち尽くす。

「え、ゼロ……? そんなはずは……」
「黙れ、無能が! 聖女召喚の儀式に紛れ込んだ不純物め!」

 怒号を飛ばしたのは、このクリュス王国の第一王子だった。
 ついさっきまで「救世の主よ!」なんて笑顔で迎えてくれていたのに、現金なものだ。

 僕、浅陽陽彩(あさひ ひいろ)。二十歳。
 ブラック企業の事務職として、エナジードリンクを主食に書類の山と戦っていたはずが、気づけば見知らぬ魔法陣の上に立っていた。

 そして隣には、同じく召喚された「本命」の聖女様。

「ひどい……。ヒイロくん、私と一緒に頑張ろうって言ったのに……」

 うるうると瞳を揺らして僕を見るのは、女子大生のセシリア。
 彼女の水晶は、目が眩むほどの黄金色に輝いていた。
 ……さっき、魔法陣の中で「あんた、邪魔だから端っこに寄ってなさいよ」って僕を突き飛ばした時の顔とは大違いだ。

「セシリア様、このようなゴミに慈悲をかける必要はございません」
「そうですよ。魔力のない男など、この国には不要です」

 周囲の貴族たちがクスクスと笑い声を漏らす。
 ああ、これ、ネット小説でよく見たやつだ。
 いわゆる「追放」ってやつ。

(……でも、ちょっと待って。魔力ゼロって本当かな?)

 実は、召喚された瞬間から、僕の体の中には「お湯」が流れているような不思議な感覚があるのだ。
 熱くて、キラキラしていて、今にも指先から溢れ出しそうな何か。
 でも、この国の測定器には反応しなかったらしい。

「あの、王子。魔力はないかもしれませんが、僕、事務作業なら得意です。帳簿の整理とか、資料のシュレッダーがけとか……」
「ふん、そんなものは下級役人にやらせればいい! 我が国が求めているのは、魔物と戦うための聖女の力だ」

 王子は忌々しそうに鼻を鳴らすと、冷酷な宣告を口にした。

「こいつを北の国境付近にある『嘆きの森』へ捨ててこい。魔力なしでどこまで生き延びられるか、見ものだな」

 えっ、ちょっと待って。
 嘆きの森って名前からしてヤバそうなんだけど。
 せめてハローワーク的な場所に紹介してくれないの!?

「待ってください! せめて防寒具くらいは――」
「連れて行け!」

 屈強な兵士たちに両脇を抱えられる。
 僕はそのまま、豪華な王宮から文字通り「ゴミ箱行き」の馬車へと放り込まれた。

 * * *

 数日後。
 僕は、一面の銀世界の中にいた。

「……寒い。死ぬ。これ、確実に死ぬやつだ」

 ガチガチと歯が鳴る。
 着せられているのは、薄っぺらな麻の服一枚。
 目の前には、不気味にうごめく黒い樹木が立ち並ぶ「嘆きの森」が広がっている。

 兵士たちは僕をここに降ろすと、「運が良ければ数時間は生きられるぜ」と笑って去っていった。
 運が良くても数時間か。なかなかのハードモードだ。

(……お腹空いたなぁ。最後、牛丼食べておけばよかった)

 意識が朦朧としてくる。
 雪の上に倒れ込むと、冷たさすら感じなくなってきた。
 体の中の「熱いお湯」のような感覚だけが、なぜかどんどん強まっていく。

 その時だった。

 ――ザッ、ザッ、と雪を踏みしめる音が聞こえた。

「……狂犬を放っておけと言ったはずだ。なぜこんなところに人間がいる」

 低くて、氷のように冷徹な声。
 けれど、その響きは驚くほど美しかった。

 重い瞼を無理やり持ち上げると、そこには一人の男が立っていた。
 漆黒の外套を羽織り、夜の闇を溶かしたような長い髪。
 そして、鋭く輝くプラチナシルバーの瞳。

(うわぁ……めちゃくちゃ美人……)

 死に際に見る幻覚にしては、出来が良すぎる。
 男は冷ややかな目で僕を見下ろしていたが、ふと、その眉根を寄せた。

「……待て。貴様、その体……」

 男が僕の喉元に手を伸ばす。
 殺されるのかな、と思ったけれど、その手は驚くほど熱かった。

 触れられた瞬間、僕の中に溜まっていた「お湯」が、一気に彼の指先へと流れ込んでいく。

「……っ!? なんだ、この膨大な魔素は……。私の呪いが、静まる……?」

 男の瞳が驚愕に見開かれる。
 彼はそのまま僕を抱き上げると、信じられないほど強い力で抱きしめた。

「おい、死ぬな。貴様、名は?」
「……ヒ、イロ……」
「ヒイロか。……拾ってやる。その代わり、二度と私から離れることは許さん」

 えっ、初対面で重くない?
 というか、今の「離れるな」って、もしかして就職内定ってことでいいのかな?

 そんな場違いなことを考えながら、僕は心地よい熱に包まれて意識を手放した。

 これが、僕と――後に「冷徹王太子」と呼ばれるアルヴィスとの、最悪で最高の出会いだった。
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