追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布

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2話

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 深い眠りから覚めたとき、最初に感じたのは「重み」だった。
 それも、凍死寸前だった雪山の冷たさではない。羽毛のように軽くて、それでいて確かな熱を持った何かが、僕の体を包み込んでいる。

(……あれ? ここ、天国?)

 ゆっくりと瞼を持ち上げる。視界に飛び込んできたのは、見たこともないほど高い天井だった。
 繊細な彫刻が施された梁に、淡く光る魔石のシャンデリア。
 そして僕が横たわっているのは、一人暮らしのワンルームが丸ごと入りそうなほど巨大な天蓋付きのベッドだ。

「……起きたか」

 鼓膜を震わせる、低く掠れた声。
 心臓が跳ねた。首を横に向けると、そこにはあの大男が座っていた。

 アルヴィス。
 雪山で僕を拾い上げ、離さないと宣言した、あの漆黒の美貌だ。
 彼は上着を脱ぎ、薄いシャツ一枚の姿でソファに深く腰掛けていた。手には古い書物を持っているが、その視線はまっすぐに僕を射抜いている。

「あ、あの……助けていただいて、ありがとうございます」
「礼は不要だ。貴様が私にとって有益かどうか、それを見極めるまではな」

 冷たい言い方。けれど、その瞳には雪山で出会った時のような険しさはない。
 むしろ、飢えた獣が獲物を観察するような、得体の知れない熱が混じっている気がする。

「ヒイロと言ったな。……薄汚れている。まずはその体を洗え」
「えっ、あ、はい。すみません、行き倒れだったので……」

 言われてみれば、僕はボロボロの麻服のままだ。泥と雪にまみれた姿で、こんな高級そうなベッドを汚してしまったのかと思うと、血の気が引く。

「立てるか?」
「は、はい、なんとか……うわっ」

 立ち上がろうとして、膝に力が入らずよろける。
 倒れる、と思った瞬間、視界がぐるりと回った。

「っ……!」

 アルヴィスの長い腕が、僕の腰をがっしりと抱きとめていた。
 近い。鼻先が触れそうな距離で、彼のプラチナシルバーの瞳が揺れる。
 ドクン、と僕の心臓が大きな音を立てた。それと同時に、雪山でも感じた「あのお湯」が、彼に触れている部分からドバドバと流れ出していく感覚。

「貴様……やはり、触れるだけで私の魔素を安定させるのか」
「あの、アルヴィス様……? ちょっと、苦しいです……」

 彼は僕を離すどころか、さらに力を込めて抱き寄せた。
 彼の首筋に顔を埋める形になり、そこから漂う白檀のような、冷たくも甘い香りが鼻腔をくすぐる。
 アルヴィスは小さく吐息を漏らすと、僕を横抱き――いわゆるお姫様抱っこの状態で持ち上げた。

「……そのまま浴室へ運ぶ。ジゼルを呼ぼうと思ったが、止めた。貴様のその力、他人に触れさせるのは好かん」

 独占欲。
 まだ出会って数時間のはずなのに、彼の言葉にはそんな響きが混じっていた。
 僕はされるがままに、豪華すぎる大浴場へと運ばれていく。
 これからの生活が、ただの「恩返し」では済まない予感に、背中が少しだけ震えた。
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