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16話
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王城で最も権威ある『真実の間』。
高い天井から吊るされた巨大なシャンデリアが、鈍い黄金の輝きを放っている。その広大な空間の温度は、外の雨よりもずっと低く凍りついていた。
僕とジゼルさんは、広間の上部にある回廊の影から、下の様子を伺った。
「……相変わらず、傲慢な顔をしているな。ルード帝国の王太子よ」
広間の中央。豪華な椅子に深く腰掛け、足を組んでいるのはアルヴィス様だ。その向かい側には、見覚えのある黄金の装飾過多な鎧を着た男――エドワード王子と、白一色の聖女服を纏ったセシリアが立っていた。
「……貴様らの醜悪な声が、この静謐な間を汚している。用件は簡潔に済ませろと言ったはずだ」
アルヴィス様の声は、氷の破片が触れ合うような冷たさだった。
エドワード王子は苛立ちを隠そうともせず、懐から巻物を取り出し、大仰に広げた。
「我が国が召喚した『聖女の触媒』……陽彩という名の男を返してもらいたい。あれは召喚の魔術によって我が国に帰属する資産だ。それを不当に留め置くことは、帝国による略奪とみなすが?」
「略奪、か。……国境にゴミのように捨てられたものを拾い上げ、命を繋いだことが略奪だというのなら、この世の救済はすべて罪になるな」
アルヴィス様の言葉に、王子の顔が屈辱で赤く染まる。
その隣で、セシリアが縋るような声を上げた。
「アルヴィス様、聞いてください……! ヒイロくんは、私がいなければ何もできない子なんです。あの子の魔力は、私という『器』があって初めて役に立つもの。今、あの子は自分の力がわからなくて、きっと混乱しているはずだわ。早く戻してあげないと、あの子自身も危ないんです!」
セシリアの言葉に、僕は思わず回廊の手すりを強く掴んだ。
嘘だ。彼女は僕を心配しているんじゃない。僕という「バッテリー」がなくなって、自分の聖女としての特権が剥がれ落ちるのが怖いだけだ。
「混乱している、だと?」
アルヴィス様が、ゆっくりと立ち上がった。
彼が動くだけで、周囲の空気が重圧(プレッシャー)によって歪むのがわかる。
「……貴様らのような無能な飼い主に、あやつの何がわかる。あやつは、私の腕の中で安らかに眠り、私の食事を美味そうに食べ、そして私の『呪い』をその指先一つで鎮めてみせた」
アルヴィス様は一歩、また一歩と王子たちへ歩み寄る。その足音が、死の宣告のように響く。
「あやつは、もはや私の魂の一部だ。……それを資産だの略奪だのと抜かす口は、二度と開けぬよう、ここで縫い潰してやってもいいのだぞ?」
「ひっ……!」
セシリアが悲鳴を上げ、後ずさる。エドワード王子も、あまりの威圧感に剣の柄に手をかけたが、その手は目に見えて震えていた。
「……強情だな。だが、これを見ても同じことが言えるかな?」
王子が震える手で取り出したのは、赤く不気味に発光する一つの魔石だった。
「これは『強制送還の契約石』だ。召喚主がこれを使えば、召喚された者は世界の理を無視して、元の場所へと引き戻される。……殿下、帝国と我が国の全面戦争を望まないのであれば、今のうちにその男をこちらへ渡すべきだ」
その言葉が放たれた瞬間、広間の空気が爆発するように弾けた。
高い天井から吊るされた巨大なシャンデリアが、鈍い黄金の輝きを放っている。その広大な空間の温度は、外の雨よりもずっと低く凍りついていた。
僕とジゼルさんは、広間の上部にある回廊の影から、下の様子を伺った。
「……相変わらず、傲慢な顔をしているな。ルード帝国の王太子よ」
広間の中央。豪華な椅子に深く腰掛け、足を組んでいるのはアルヴィス様だ。その向かい側には、見覚えのある黄金の装飾過多な鎧を着た男――エドワード王子と、白一色の聖女服を纏ったセシリアが立っていた。
「……貴様らの醜悪な声が、この静謐な間を汚している。用件は簡潔に済ませろと言ったはずだ」
アルヴィス様の声は、氷の破片が触れ合うような冷たさだった。
エドワード王子は苛立ちを隠そうともせず、懐から巻物を取り出し、大仰に広げた。
「我が国が召喚した『聖女の触媒』……陽彩という名の男を返してもらいたい。あれは召喚の魔術によって我が国に帰属する資産だ。それを不当に留め置くことは、帝国による略奪とみなすが?」
「略奪、か。……国境にゴミのように捨てられたものを拾い上げ、命を繋いだことが略奪だというのなら、この世の救済はすべて罪になるな」
アルヴィス様の言葉に、王子の顔が屈辱で赤く染まる。
その隣で、セシリアが縋るような声を上げた。
「アルヴィス様、聞いてください……! ヒイロくんは、私がいなければ何もできない子なんです。あの子の魔力は、私という『器』があって初めて役に立つもの。今、あの子は自分の力がわからなくて、きっと混乱しているはずだわ。早く戻してあげないと、あの子自身も危ないんです!」
セシリアの言葉に、僕は思わず回廊の手すりを強く掴んだ。
嘘だ。彼女は僕を心配しているんじゃない。僕という「バッテリー」がなくなって、自分の聖女としての特権が剥がれ落ちるのが怖いだけだ。
「混乱している、だと?」
アルヴィス様が、ゆっくりと立ち上がった。
彼が動くだけで、周囲の空気が重圧(プレッシャー)によって歪むのがわかる。
「……貴様らのような無能な飼い主に、あやつの何がわかる。あやつは、私の腕の中で安らかに眠り、私の食事を美味そうに食べ、そして私の『呪い』をその指先一つで鎮めてみせた」
アルヴィス様は一歩、また一歩と王子たちへ歩み寄る。その足音が、死の宣告のように響く。
「あやつは、もはや私の魂の一部だ。……それを資産だの略奪だのと抜かす口は、二度と開けぬよう、ここで縫い潰してやってもいいのだぞ?」
「ひっ……!」
セシリアが悲鳴を上げ、後ずさる。エドワード王子も、あまりの威圧感に剣の柄に手をかけたが、その手は目に見えて震えていた。
「……強情だな。だが、これを見ても同じことが言えるかな?」
王子が震える手で取り出したのは、赤く不気味に発光する一つの魔石だった。
「これは『強制送還の契約石』だ。召喚主がこれを使えば、召喚された者は世界の理を無視して、元の場所へと引き戻される。……殿下、帝国と我が国の全面戦争を望まないのであれば、今のうちにその男をこちらへ渡すべきだ」
その言葉が放たれた瞬間、広間の空気が爆発するように弾けた。
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