追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布

文字の大きさ
20 / 31

20話

しおりを挟む
 粉々に砕けた契約石の破片が、冷たい床に虚しく散らばっている。
 壁際で崩れ落ちたエドワード王子は、王族としての尊厳をかなぐり捨て、ガタガタと歯を鳴らしていた。その隣で、セシリアは自分の手が白くひび割れていくのを見て悲鳴を上げている。

「あ……あぁ……! 私の力が、魔法が消えていく……!」

 セシリアが縋るように僕を見たが、その視線は届かない。彼女の魔力は、もともと僕が供給していたおこぼれに過ぎなかった。その源泉が自らの意志で閉ざされた今、彼女はただの「魔力を持たない少女」に戻ったのだ。

「……ジゼル。その二名を地下牢へ。クリュス王国には『聖女の偽造、および帝国への宣戦布告とみなす』と通告しろ」

 アルヴィス様の冷酷な声が、広間に響き渡る。
 ジゼルさんは深く一礼すると、近衛兵たちに合図を送った。兵士たちに引きずられていく王子とセシリアの叫び声が、次第に遠ざかっていく。

 静寂が戻った広間。
 僕は全身から溢れさせていた光を収め、ふぅ、と長い息を吐いた。
 途端に襲ってきたのは、強烈な脱力感だった。
 
「うわっ……」

 よろめいた僕の体を、力強い腕が背後から抱きとめる。
 そこには、これまで見たこともないほど複雑な表情をしたアルヴィス様がいた。驚愕、喜び、安堵……そして、隠しきれないほどの熱い独占欲。

「ヒイロ、貴様……本当に、とんでもない男だな。……私が拾ったのは、一国の運命を左右する神の落とし子だったか」

 アルヴィス様は僕を正面から抱きかかえると、その顔を僕の首筋に深く埋めた。
 震えている。
 あれほど傲然としていた彼が、僕を失う寸前だった恐怖から、まだ抜け出せずにいるのだ。

「ごめんなさい、アルヴィス様。黙っていたわけじゃないんです。自分でも、こんな力があるなんて知らなくて……」

「謝るな。……むしろ、礼を言いたいのは私の方だ。貴様が、自らの意志で、私を選んでくれた……」

 彼は顔を上げると、僕の頬を両手で挟み、じっと瞳を見つめてきた。

「もう一度、言え。……どこへも行かないと。私のために、その力を使いたいと」

 その必死な瞳。
 僕はふっと笑って、今度は僕の方から彼の首に腕を回した。
 そして、彼の耳元で、甘やかな呪いのように囁く。

「当たり前じゃないですか。……僕は、アルヴィス様だけの『聖女』ですから」

 彼が再び僕を強く抱きしめる。その腕は、先ほどよりもずっと独占欲に満ちていて、骨が軋むほどだった。
 けれど、僕はそれがたまらなく愛おしくて。
 遠くで雨が上がり、雲の間から差し込む陽光が、傷だらけの広間を優しく照らしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【8話完結】いじめられっ子だった僕が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

オメガはオメガらしく生きろなんて耐えられない

子犬一 はぁて
BL
「オメガはオメガらしく生きろ」 家を追われオメガ寮で育ったΩは、見合いの席で名家の年上αに身請けされる。 無骨だが優しく、Ωとしてではなく一人の人間として扱ってくれる彼に初めて恋をした。 しかし幸せな日々は突然終わり、二人は別れることになる。 5年後、雪の夜。彼と再会する。 「もう離さない」 再び抱きしめられたら、僕はもうこの人の傍にいることが自分の幸せなんだと気づいた。 彼は温かい手のひらを持つ人だった。 身分差×年上アルファ×溺愛再会BL短編。

貧乏子爵のオメガ令息は、王子妃候補になりたくない

こたま
BL
山あいの田舎で、子爵とは名ばかりの殆ど農家な仲良し一家で育ったラリー。男オメガで貧乏子爵。このまま実家で生きていくつもりであったが。王から未婚の貴族オメガにはすべからく王子妃候補の選定のため王宮に集うようお達しが出た。行きたくないしお金も無い。辞退するよう手紙を書いたのに、近くに遠征している騎士団が帰る時、迎えに行って一緒に連れていくと連絡があった。断れないの?高貴なお嬢様にイジメられない?不安だらけのラリーを迎えに来たのは美丈夫な騎士のニールだった。

声なき王子は素性不明の猟師に恋をする

石月煤子
BL
第一王子である腹違いの兄から命を狙われた、妾の子である庶子のロスティア。 毒薬によって声を失った彼は城から逃げ延び、雪原に倒れていたところを、猟師と狼によって助けられた。 「王冠はあんたに相応しい。王子」 貴方のそばで生きられたら。 それ以上の幸福なんて、きっと、ない。

処理中です...