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25話
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今日は、帝国中の貴族が集まる「勝利記念、兼・新聖女お披露目晩餐会」のための衣装合わせの日だ。
……といっても、僕がやることはただ一つ。部屋に次々と持ち込まれる豪華な衣装を、着せ替え人形のように着て、アルヴィス様のチェックを受けることである。
「殿下、こちらの深紅のベルベットはいかがでしょうか。ヒイロ様の白い肌によく映えるかと」
お抱えの老仕立屋が、うやうやしく新作の礼服を差し出す。
僕はすでに三着目の着替えで、少々ぐったりしていた。けれど、ソファに座って優雅にワインを傾けているアルヴィス様の審美眼は、一切の妥協を許さない。
「却下だ。……色が強すぎる。ヒイロの柔らかさを殺してしまうだろう。もっとこう、月明かりを透かしたような、淡い銀か青の生地はないのか」
「それでしたら、こちらのシルクなど……」
仕立屋が慌てて別の布を取り出す。
僕はその隙に、ジゼルさんに目配せをして「助けて」と訴えたが、彼女は「殿下がお楽しみの最中ですので」と楽しそうにスルーした。冷たい。僕の唯一の味方が、最近すっかりアルヴィス様側の「観測者」になっている。
「あの、アルヴィス様。もうこれでいいんじゃないでしょうか。どれも本当に綺麗ですし、僕みたいな元・一般人が着るには勿体ないくらいで……」
「ヒイロ、貴様は自分の価値をまだ理解していないようだな。……よし、仕立屋。その生地で進めろ。だが、首周りのカットをもっと高くしろ」
「え? 流行りはもう少し鎖骨が見えるデザインだと伺っておりますが……」
仕立屋の言葉に、アルヴィス様がピシリとグラスを置いた。
「……昨夜、私がつけた『痕』を、他人の目に晒せというのか? 貴様のその美しい肌を眺めていいのは、私だけだと言ったはずだが」
「ひえっ……!」
仕立屋が飛び上がらんばかりに驚き、真っ赤になって平伏した。僕だって顔から火が出る思いだ。
そう。昨夜の「供給」は、いつもより少しだけ激しかったのだ。アルヴィス様が、僕が英雄として崇められることに嫉妬して、わざわざ見えない場所にたくさんの印を刻み込んだせいだ。
「アルヴィス様! 公の場でそんなこと言わないでください!」
「事実だろう。……いいか、ヒイロ。晩餐会では、貴様は私の隣から一歩も動くことは許さん。ダンスも、食事も、会話も、すべて私を通せ。……分かったな?」
彼は立ち上がると、仕立屋たちを下がらせ、僕の元へ歩み寄ってきた。
そして、着替えかけの僕の腰を引き寄せると、まだ開いている襟元から覗く「痕」を、満足げに指先でなぞった。
「貴様があまりに綺麗だから、悪い虫がつかないか心配でたまらん。……晩餐会が終わったら、またじっくりと『塗り潰して』やらねばな」
「……供給、多すぎませんか?」
「足りないくらいだ。一生かけても、私は貴様を吸い尽くすことはできんだろうからな」
彼の熱い吐息が首筋にかかる。
晩餐会という晴れ舞台の前に、僕は彼の独占欲という名の荒波に、早くも飲み込まれそうになっていた。
……といっても、僕がやることはただ一つ。部屋に次々と持ち込まれる豪華な衣装を、着せ替え人形のように着て、アルヴィス様のチェックを受けることである。
「殿下、こちらの深紅のベルベットはいかがでしょうか。ヒイロ様の白い肌によく映えるかと」
お抱えの老仕立屋が、うやうやしく新作の礼服を差し出す。
僕はすでに三着目の着替えで、少々ぐったりしていた。けれど、ソファに座って優雅にワインを傾けているアルヴィス様の審美眼は、一切の妥協を許さない。
「却下だ。……色が強すぎる。ヒイロの柔らかさを殺してしまうだろう。もっとこう、月明かりを透かしたような、淡い銀か青の生地はないのか」
「それでしたら、こちらのシルクなど……」
仕立屋が慌てて別の布を取り出す。
僕はその隙に、ジゼルさんに目配せをして「助けて」と訴えたが、彼女は「殿下がお楽しみの最中ですので」と楽しそうにスルーした。冷たい。僕の唯一の味方が、最近すっかりアルヴィス様側の「観測者」になっている。
「あの、アルヴィス様。もうこれでいいんじゃないでしょうか。どれも本当に綺麗ですし、僕みたいな元・一般人が着るには勿体ないくらいで……」
「ヒイロ、貴様は自分の価値をまだ理解していないようだな。……よし、仕立屋。その生地で進めろ。だが、首周りのカットをもっと高くしろ」
「え? 流行りはもう少し鎖骨が見えるデザインだと伺っておりますが……」
仕立屋の言葉に、アルヴィス様がピシリとグラスを置いた。
「……昨夜、私がつけた『痕』を、他人の目に晒せというのか? 貴様のその美しい肌を眺めていいのは、私だけだと言ったはずだが」
「ひえっ……!」
仕立屋が飛び上がらんばかりに驚き、真っ赤になって平伏した。僕だって顔から火が出る思いだ。
そう。昨夜の「供給」は、いつもより少しだけ激しかったのだ。アルヴィス様が、僕が英雄として崇められることに嫉妬して、わざわざ見えない場所にたくさんの印を刻み込んだせいだ。
「アルヴィス様! 公の場でそんなこと言わないでください!」
「事実だろう。……いいか、ヒイロ。晩餐会では、貴様は私の隣から一歩も動くことは許さん。ダンスも、食事も、会話も、すべて私を通せ。……分かったな?」
彼は立ち上がると、仕立屋たちを下がらせ、僕の元へ歩み寄ってきた。
そして、着替えかけの僕の腰を引き寄せると、まだ開いている襟元から覗く「痕」を、満足げに指先でなぞった。
「貴様があまりに綺麗だから、悪い虫がつかないか心配でたまらん。……晩餐会が終わったら、またじっくりと『塗り潰して』やらねばな」
「……供給、多すぎませんか?」
「足りないくらいだ。一生かけても、私は貴様を吸い尽くすことはできんだろうからな」
彼の熱い吐息が首筋にかかる。
晩餐会という晴れ舞台の前に、僕は彼の独占欲という名の荒波に、早くも飲み込まれそうになっていた。
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