無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布

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11話

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二人が正式に「恋人」となってから数週間。共通の友人の結婚披露宴当日、遥は慣れないスリーピースのスーツに身を包み、鏡の前で溜息を漏らしていた。


湊の要望で新調させられたこのスーツは、一見すると上品だが、体のラインを驚くほど正確に拾い、どこか艶めかしい印象を周囲に与える。


「……遥、準備はいいか」


背後から現れた湊に、遥は思わず息を呑んだ。


ダークネイビーのスーツを完璧に着こなした湊は、まさに「氷の貴公子」そのものだ。会場に足を踏み入れれば、間違いなく注目の的になるだろう。


「うん。でも、やっぱりちょっと恥ずかしいよ。こんなに高いスーツ、僕には不釣り合いじゃ……」


「……不釣り合いなものか。お前は俺の隣に立つのにふさわしい、最高の装いをしている」


湊は遥のネクタイの結び目を丁寧に整えると、指先でその喉仏をなぞった。


「……会場では、俺の側を離れるな。誰に声をかけられても、最低限の返事だけでいい」


「わかってるって。……湊、心配しすぎだよ」


「……心配ではない。俺以外の視線に、お前を晒したくないだけだ」


会場に着くと、案の定、二人の登場は静かなざわめきを呼んだ。


エリート街道を突き進む湊と、その隣で少し控えめに微笑む遥。かつての「幼馴染」という関係を知る者たちは、二人の間に漂う、以前とは明らかに違う濃密な空気に戸惑いを見せていた。


「おーい、一ノ瀬! 瀬戸くんも久しぶり!」


大学時代の同期数人が、遥に親しげに駆け寄ってくる。


「瀬戸くん、なんか雰囲気変わった? すごく大人っぽくなったっていうか……」


「え、そうかな? 毎日仕事が忙しくて」


遥が愛想よく笑うと、男たちの一人が、冗談めかして遥の肩を叩いた。


「相変わらず可愛いな。これなら職場でもモテるだろ? 今度、俺の知り合いの女の子紹介しようか?」


その瞬間、周囲の空気が一気に凍りついた。


遥が反応するよりも早く、湊の手が、遥の肩に置かれた男の手首を掴んでいた。


「……悪いが、こいつにその必要はない」


湊の声には、怒りさえ感じさせないほどの絶対的な拒絶が宿っていた。


「え、あ、一ノ瀬……?」


「……遥は今、俺の仕事を手伝わせている。プライベートな時間はすべて俺が管理しているんだ。余計な世話は焼かなくていい」


湊は男の手を冷酷に振り払うと、遥の腰を抱き寄せ、自分の体へと強く密着させた。


見せつけるようなその仕草に、周囲は沈黙する。


「湊、そんな言い方……」


遥が小声で窘めるが、湊は聞く耳を持たない。それどころか、遥の腰を抱く手にさらに力を込め、周囲を威圧するように冷たい視線を向けた。


「……遥。俺が言ったことを忘れたのか」


湊の低い囁きが耳朶を打つ。


「……お前の笑顔は、俺だけのものだと言ったはずだ」


披露宴の華やかな喧騒の中で、遥は逃げ場のない熱い束縛に、震えるような快感を覚えていた。
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