転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布

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37話

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 森の最深部、静まり返った広場にリィエルの詠唱が低く響く。
 彼はゴーレムの胸部装甲に直接手を触れ、自身の魔力を細い糸のように紡いで、苔の下に眠る魔導回路へと流し込んでいった。

「……回路の導通を確認。深層領域の論理門を一つずつ解放する。ガイアスさん、そのままフレームを固定していてください。起動時の振動で姿勢制御が狂うと、再起不能なエラー(バグ)になりかねない」

「分かった。……しかし、この重厚な手応え。まるで山そのものを支えている気分だぞ」

 ガイアスは全身の筋肉を強張らせ、巨人の背中をがっしりと支え続けた。
 その隣では、ルミがゴーレムの額にある魔石に張り付き、自身の純粋な光を流し込んでいる。シロは周囲を忙しなく走り回り、異変がないか耳をそばだてていた。

 やがて、巨人の全身に刻まれた銀の溝が、青白い光を帯びてゆっくりと明滅を始めた。
 ズ、ズズ……という、地鳴りのような機械音が森の空気を震わせる。

「……メインプロセス、再起動。全システム、オンライン」

 リィエルが最後の一押しとして魔力を叩き込むと、ゴーレムの瞳に当たる二つの魔石が、カチリという音と共にオレンジ色の光を灯した。
 数百年もの間、沈黙を守っていた金属の巨躯が、ぎこちない動作でゆっくりと立ち上がる。蔦や苔が引き千切れ、周囲に土埃が舞った。

「きゅうっ!」

 シロが驚いてリィエルの足元に飛び込む。
 巨人はしばらくの間、焦点の定まらない瞳を左右に動かしていたが、やがて目の前に立つ銀髪の少年の姿を捉えた。

「……照合完了。生体反応、および魔力波長の整合率九十八パーセント。……おはようございます、お母様。再起動後の初期化を完了しました」

 巨人の口部から発せられたのは、意外にも幼い子供のような、透明感のある合成音声だった。
 リィエルの脳内に、翻訳果実の効果による「音声ログ」が直接流れ込んでくる。

「……お母様? 待て。その呼称は論理的に矛盾している。俺は男だし、お前を製造したエンジニアでもない。……ガイアスさん、こいつの認識システム、経年劣化でデータが破損している可能性があります」

「お、お母様か。……はは、リィエル。まさかお前に、こんなに巨大な息子ができるとはな」

 ガイアスは緊張から解き放たれたのか、膝をついて豪快に笑い声を上げた。
 一方でゴーレムは、リィエルの否定を全く気にする様子もなく、巨大な指先を器用に動かして、リィエルのローブの裾をそっとつまんだ。

「お母様、お腹が空きました。……魔力の充填効率が低下しています。抱っこ、あるいは高密度の魔力供給を要求します」

「だ、抱っこだと? 三メートルもある巨体にそんな機能を実装した覚えはない! ……ルミ、お前が余計なデータを流し込んだんじゃないだろうな」

「ぷる、ぷるるん!」

 ルミは楽しそうにゴーレムの頭の上を跳ね回っている。
 巨人は大きな体を揺らし、甘えるようにリィエルの顔の近くまで巨顔を寄せた。

「……やれやれ。新しい防衛システムを確保したつもりが、またしても管理コストの極めて高い居候を増やしてしまったか。……シロ、お前の弟分だ。あまりいじめてやるなよ」

「きゅう……(ええ、僕がお兄ちゃんなの?)」

 シロは困惑しながらも、巨人の足首に鼻先を寄せて匂いを確認し始めた。
 夕闇の森の中、不器用な親子(?)のような一行は、ゆっくりとした歩調でログハウスへの帰路に就いた。
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