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39話
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庭の再設計が一段落し、ガイアスとアイアンが「自然な曲線」について熱い議論(あるいは一方的な講義)を交わしている最中だった。
アイアンの足元に埋め込まれた高感度センサーが、地面の深い場所から発せられる微弱な電気信号を感知した。
「……お母様。地下三メートルの地点に、既知の魔導プロトコルを確認しました。このログハウスの真下です」
「地下? ……ああ、そういえば。この家を建てたばかりの頃、環境データの長期バックアップ用に古い記憶媒体(ストレージ)を埋設した記憶があるな。すっかり忘れていた」
リィエルは床下収納の奥にある隠し扉を開いた。
埃を被った梯子を下り、ガイアスを伴って狭い地下室へと足を踏み入れる。そこは普段、保存食やスペアの魔石を置いているだけの場所だが、壁の一角にはリィエルが数年前に設置した、初期型の魔導計算機が鎮座していた。
「リィエル、お前が自分で埋めたものなのか? それなら安心だが……随分と物々しい厳重なプロテクトがかかっているように見えるぞ」
「……当時の俺は、今よりもさらに人間不信が深刻でしたからね。自分の思考ログを他人に覗かれるのを極端に嫌っていたんです。アイアン、そこのインターフェースと同期(リンク)しろ。当時の管理者キーを送信する」
アイアンが巨大な指を壁の端子に差し込むと、地下室の壁面にぼんやりと青い文字が浮かび上がった。
それは三年前、リィエルがこの森に引きこもり始めた直後の、非常に稚拙で、かつ切実な「初期の実験ログ」だった。
『――本日、ログハウスの基礎構築を完了。外部とのネットワークをすべて遮断した。これで、無能な上層部の命令も、不合理な納期も存在しない世界が手に入るはずだ。……寂しさという感情は、論理的に不要であると結論付ける』
「……ぶふっ! 待て、リィエル。これはお前の日記か? 『寂しさは論理的に不要』か。なかなか尖ったパッチを自分に当てていたんだな」
「……ガイアスさん、笑うなと言ったでしょう。当時の俺は真剣に、自分を完全な無機物(プログラム)に書き換えようとしていたんです」
リィエルは顔を赤らめ、慌ててログをスクロールさせた。
そこには、今の彼からは想像もつかないほど、必死に「一人で生きるための効率」を追い求めていた軌跡が記されていた。
シロとの出会い、初めて魔導結界を成功させた日の喜び、そして「もし、いつか誰かがここを訪ねてきたら」という仮定で書かれた、矛盾に満ちた歓迎のコード。
「……リィエル。この古いコードのおかげで、今の俺たちがここにいられるんだな。お前がどんなに『不要だ』と言い張っても、お前の深層心理は最初から、俺たちを受け入れるための拡張枠(スロット)を開けていたみたいだぞ」
「……うるさいですよ。そのログは今すぐ、物理的に消去(デリート)します。アイアン、今すぐその領域を上書きしろ!」
「拒否します、お母様。このデータは貴重な歴史遺産(レガシー)として、私の永久保存領域に転送されました」
リィエルの叫びも虚しく、地下室にはシロの「お母様、可愛いね!」という翻訳された声が響き渡った。
消したい過去と、捨てられない現在。
リィエルはため息をつきながらも、古い自分との対話に、少しだけ心が温まるのを感じていた。
アイアンの足元に埋め込まれた高感度センサーが、地面の深い場所から発せられる微弱な電気信号を感知した。
「……お母様。地下三メートルの地点に、既知の魔導プロトコルを確認しました。このログハウスの真下です」
「地下? ……ああ、そういえば。この家を建てたばかりの頃、環境データの長期バックアップ用に古い記憶媒体(ストレージ)を埋設した記憶があるな。すっかり忘れていた」
リィエルは床下収納の奥にある隠し扉を開いた。
埃を被った梯子を下り、ガイアスを伴って狭い地下室へと足を踏み入れる。そこは普段、保存食やスペアの魔石を置いているだけの場所だが、壁の一角にはリィエルが数年前に設置した、初期型の魔導計算機が鎮座していた。
「リィエル、お前が自分で埋めたものなのか? それなら安心だが……随分と物々しい厳重なプロテクトがかかっているように見えるぞ」
「……当時の俺は、今よりもさらに人間不信が深刻でしたからね。自分の思考ログを他人に覗かれるのを極端に嫌っていたんです。アイアン、そこのインターフェースと同期(リンク)しろ。当時の管理者キーを送信する」
アイアンが巨大な指を壁の端子に差し込むと、地下室の壁面にぼんやりと青い文字が浮かび上がった。
それは三年前、リィエルがこの森に引きこもり始めた直後の、非常に稚拙で、かつ切実な「初期の実験ログ」だった。
『――本日、ログハウスの基礎構築を完了。外部とのネットワークをすべて遮断した。これで、無能な上層部の命令も、不合理な納期も存在しない世界が手に入るはずだ。……寂しさという感情は、論理的に不要であると結論付ける』
「……ぶふっ! 待て、リィエル。これはお前の日記か? 『寂しさは論理的に不要』か。なかなか尖ったパッチを自分に当てていたんだな」
「……ガイアスさん、笑うなと言ったでしょう。当時の俺は真剣に、自分を完全な無機物(プログラム)に書き換えようとしていたんです」
リィエルは顔を赤らめ、慌ててログをスクロールさせた。
そこには、今の彼からは想像もつかないほど、必死に「一人で生きるための効率」を追い求めていた軌跡が記されていた。
シロとの出会い、初めて魔導結界を成功させた日の喜び、そして「もし、いつか誰かがここを訪ねてきたら」という仮定で書かれた、矛盾に満ちた歓迎のコード。
「……リィエル。この古いコードのおかげで、今の俺たちがここにいられるんだな。お前がどんなに『不要だ』と言い張っても、お前の深層心理は最初から、俺たちを受け入れるための拡張枠(スロット)を開けていたみたいだぞ」
「……うるさいですよ。そのログは今すぐ、物理的に消去(デリート)します。アイアン、今すぐその領域を上書きしろ!」
「拒否します、お母様。このデータは貴重な歴史遺産(レガシー)として、私の永久保存領域に転送されました」
リィエルの叫びも虚しく、地下室にはシロの「お母様、可愛いね!」という翻訳された声が響き渡った。
消したい過去と、捨てられない現在。
リィエルはため息をつきながらも、古い自分との対話に、少しだけ心が温まるのを感じていた。
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