神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

文字の大きさ
35 / 201
第一部 ラクルス村編 第三章『闇』の襲来

4.醜悪なる対価

しおりを挟む
 漆黒が支配する世界。
 あの時と同じように、ルシフはそこにいた。

『やあ、また会えたね、お兄ちゃん。うれしいよ』

 あいかわらずその姿なのかよ。
 桜稔の姿で話しかけてくるルシフに、僕はウンザリした気分で思う。

『まーね。稔クンって結構かっこいいし?』

 うわぁ、うざい。

『そんなことよりさ、お兄ちゃん、助けてほしいんでしょう?』

 そうだけど。

『今のお兄ちゃんに必要なのは2つだよね。
 1つはアイツ――お兄ちゃんが勝手に『闇』とか呼んでいたヤツを倒す力。
 もう1つはお母さんの怪我を治す力』

 確かにその通りだ。
『闇』を倒し、お母さんを助けられるなら……

 ……月並みな表現だけど、悪魔にだって魂を売れる。
 そう思ったからこそ、ルシフの誘いに乗ったのだ。

『うわぁ、ひどい。まるでボクが悪魔みたいな言い草』

 似たようなモノとしか思えないけど。

『お兄ちゃんに悪魔って言われるなんて……ボク、かなしいよぉ』

 稔の姿で下手くそな泣き真似をするルシフ。下手くそというよりは、わざとらしすぎるというべきかもしれないが。

『それこそ、わざとらしく見せてるからね』

 そう言って今度はニヤニヤと笑うルシフ。
 どうみても、1ミリも信用できない。

 ――いいのか?
 ――本当にもう一度コイツに頼って良いのか?
 ――だけど、ほかにどうにも……

『心配しなくても、ボクはお兄ちゃんに『闇』を倒す魔法を与える準備があるよ。それに、お母さんを助ける魔法もね』

 ルシフを信用できるとは思わない。
 それでも、今は……

 ――わかった。もう一度魔法をくれ。

 だが、ルシフはチッチと指を鳴らして言った。

『うーん、お兄ちゃん。ボクが前に言ったこと忘れちゃったんかな? 次はそれなりの代償を払ってもらうって、そう言ったはずだよ』

 確かに。
 ブシカさんも本来魔法の契約には対価が必要だと言ってた。

 何がほしい?
 お母さんを助けられるなら、なんでもしてやる。

『お、いいね。じゃあ、魔法の対価として……』

 ルシフはそこで一瞬言葉を止めた。
 そして、これまで見せた中でも、もっとも邪悪な笑みを浮かべて、こう言ったのだ。

『……お兄ちゃんの家族の命をちょうだい』

 その言葉に、僕の中で何かがプチンと切れた。

 ---------------

 家族の命、だと?
 お母さんの命を救うために、家族の命をよこせと、そう言っているのか?

『そうだよ。何か問題がある?』

 ある。
 あるに決まっている。

『あ、誤解しないで。家族の命って言っても、全員ってわけじゃない。誰か1人の命で……』

 言いかけたルシフに、僕は跳びかかる。
『闇』に対してそうしたのと同じように殴りかかったのだ。
 ここはラクルス村じゃない。地面を壊す心配もいらない。

 だが。

 僕が飛びかかる寸前、ルシフの姿が消えた。
 僕の拳はむなしく空振り、ルシフは僕の後ろに再び現れる。

『うんもう、突然何するんだよ? おにいちゃんってば、丁寧で慎重なようでいて、意外と沸点低いよねぇ。そのせいで村の建物もこわしちゃってさぁ』

 うるさいっ!!
 痛いところを突かれ、僕は憎々しくルシフを睨みつける。

『何もお母さんを助ける代わりに、この世界の家族の命をよこせなんて言っていないよ。だって、お兄ちゃんには他にも家族がいるじゃない?』

 どういう意味だ?
 確かに、ラクルス村の住人は家族みたいに親しいが……

『そういう意味じゃないよ。うーん、分からないかなぁ。それとも分からないふりでもしているの? 単純なことさ。パドの家族だけでなく、桜勇太の家族がいるでしょう』

 桜稔の姿をしたルシフはニヤニヤしたまま言った。

『だからさ、前世の両親のどっちかか、弟の命をよこせば、今のお母さんを助けた上に、『闇』を倒す力もあげるって言っているんだよ』

 ――コイツはっ!!
 そんな取引、ぼくが頷くと思っているのか!?

『思っているよ。だって、このままだったら、『闇』はお母さんだけでなく、パドくんのお父さんも、友達も、村の皆全員殺しちゃうよ。
 両親を含む何十人もの村民と、たった1人の前世の家族。
 どっちを大切にすべきか、簡単な算数の問題だろう?』

 ――算数の問題。

 今度こそ僕は確信する。
 ルシフを信用してはいけない。
 人の命を簡単な算数の問題といいきったコイツは、僕とは絶対に相容れない存在だ。

 桜勇太は病室から出る見込みがなかった。
 算数の問題として考えれば、完治の見込みがない桜勇太に医療費をかけるなら、もっと助かる見込みのある人間の医療費にまわすべきだという意見だってあるだろう。
 だけど、それでも僕は――桜勇太は11年間戦った。
 
 だから、僕は信じている。
 人の命は簡単な算数の問題で語れるようなものではないと。

『はぁ、やれやれ』

 ルシフはわざとらしくため息をつき、両手を広げて首を左右に振った。

『正直、ボクには理解しかねるね。お兄ちゃんはパドとして今の世界で幸せになりたいんだろう? だったら、前世の家族がどうなろうと一切関係ないじゃないか。
 それともいつかは前世の家族とも再会できるとか期待しているの? 断言しても良いけど、人間が世界を渡るなんて不可能だよ』
 
 そんなこと、期待していない。

『だったら、今の家族と村のみんなを大切にするべきだろう? 前世の家族の命なんてどうでもいいじゃないか』

 そんなわけないだろ!!

『なぜ? お兄ちゃんの言い分は全く論理的じゃない。前世の家族の命は今生の人生においてなんら意味を持たないはず。それなのに、なぜお兄ちゃんは前世の家族に義理立てするの?』

 心底分からないという表情で彼は言う。

 たぶん、ルシフは本心から不思議がっているのだろう。
 そして、僕が何を言っても彼は理解しないだろうとも思う。
 ルシフの価値観を僕は受け入れられないし、ルシフは僕の価値観を理解できない。

『じゃあ、しょうがない。これが最後の提案だ。家族の命が嫌だというなら、別の捧げ物をもらおう』

 ――別の捧げ物?

『そうだなぁ……お兄ちゃんの手首でももらうか』

 ――手首。

『心配しなくてもサービスで止血処理はするし、痛みも感じないように切り取ってあげる。右か左か、どっちか片方でいいよ』

 僕は自分の両手首を見る。
 彼の言葉を信じるなら、今の僕は魂だけの存在だ。
 しかし、確かに両手が認識できる。
 両手を握って、開いて、もう1度握った。

『これ以上ボクは譲歩するつもりはない。今のお兄ちゃんには3つの選択肢がある』

 そう言って、ルシフは指を3本立てる。

『1.今の家族の命をボクに捧げて魔法を手に入れる。
 2.前世の家族の命をボクに捧げて魔法を手に入れる。
 3.自分の手首をボクに捧げて魔法を手に入れる』

 言って、指を曲げていくルシフ。

『さあ、どうする?』

 目の前の桜稔の顔は、今までで1番不愉快な笑みに彩られた。

『あ、4つめの選択肢として、せっかくの魔法を手に入れる機会を逃して、このままヤツに殺されて、お母さんも助けないっていうのもあるね』

 僕は彼をにらみつける。

『念のため言っておくけど、殺されるまでにボク以外の精霊やら神やらが他の魔法を授けてくれるかもしれないとか、突然勇者様が村を都合良く訪問して救ってくれるかもしれないとか、実は村人の中に強力な魔法使いがいたとか、そんな非現実的ご都合主義展開は期待はしない方がいいよ。
 僕と契約しないなら、お母さんだけでなく村の人間はみんな死んじゃうよ』

 本当にお前と契約すればお母さんを助けて、『闇』を倒せるのか?

『保証はできないよ。
 ボクは回復系の魔法は専門外でね。お母さんの傷をふさぐ魔法はあげられるけど失った血液を与えることはできないから、手遅れになる可能性はある。
 攻撃系に関しても、あくまでも戦うのはお兄ちゃんだから、勝てるかどうかもお兄ちゃん次第だね。
 でも、このままならお母さんが助かる可能性も、ヤツを倒せる可能性も0%だ。
 ボクと契約すれば0%が50%になるくらいに考えれば良い。こっちの算数の問題なら理解してもらえるかな?』

 ここまで言われれば、僕の選択肢はもう1つしかない。

 ――わかった、僕の左手をやるよ。だから魔法をよこせ。
 僕のその言葉に、彼はニッコリほほえんだ。

『よし、それじゃあ契約成立だね』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...