40 / 201
第一部 ラクルス村編 第四章 追放と飛躍
2.友達だよ!!
しおりを挟む
村長の家も壊滅状態だったため、村の外れの無事だった小屋に僕らは集まった。
村長と向かい合わせに僕とお父さんが座り、横にブシカさんとナーシャさんが座る。
村長は深刻なそうな顔。
ナーシャさんは悲しそうで、ブシカさんは苦い顔。
それで、僕はこれから告げられることが、きっととても辛い話なのだろうと想像した。
「パド、体調はもう大丈夫か?」
村長に問われ、ぼくは「はい」と頷いた。
「そうか。ならば村長としての決定を話す」
村長はそこで言葉を区切った。
「パド、ならびにサーラを村から追放する」
その言葉に、お父さんの顔が蒼白に、僕の頭が真っ白になった。
---------------
しばしの沈黙。
そして、お父さんが口を開く。
「それは、どういうことでしょうか?」
「言葉通りの意味だ。前に言ったはずだ。もしもパドの力が村にとって致命的な事態をもたらしたら村長として別の判断をしなければならなくなる、と」
致命的な事態。
村の家々が倒壊し、たくさんの怪我人が出て、冬を越せるかどうかも分からない。
村長の言うとおり、僕が力を振るったために、ラクルス村は致命的な事態に陥った。
お父さんが僕をかばうように言う。
「ですが、あの謎の存在――仮に『闇』と呼びますが――パドの行動は『闇』を倒すためのものです」
「それはもちろん分かっている。だが、そもそもどうして『闇』はこの村を襲ったのか。アレは最初にサーラを襲い、次にパドを襲った。あるいはパドが力を持つが故にアレがやってきたとも考えられる」
「それは想像に過ぎません」
「無論その通りだ。だが、村を破壊したのがパドの力だったことは事実だ」
村長の言うとおりだ。
それに、何故『闇』が襲ってきたのかという理由は、実は僕の中で1つ推論が出来上がりつつある。
もし、その推論が正しいならば、確かに村のためには僕は消えたほうがいい。
だけど――
――と、その時だった。
「ふざけんなよっ!!」
叫び声と共に、ジラが乱入してきたのだった。
---------------
会議の場に乱入したジラを、村長が一瞥する。
「ジラ、今は大人の話をしている。子どもが口を挟むな」
「子どものパドをよってたかって大人が虐めておいて、なに言っているんだ!」
「ジラ、ワシは村長として村の未来の話をしているのだ」
「村の未来のためにはパドを追い出すっていうのかよ!?」
「そうだ。必要とあればそういう決定をするのが村長であるワシの役目だ。そして、次期村長にお前がなるというならば、いずれお前の役目になる」
村長のその言葉に、ジラが両手の拳を握りしめる。
「パドは村を護ったんだ。片手を失って、お母さんを殺されかけて、それでも村を護ってくれたんだ。それなのに、何が村のためだよ!?」
「だが、パドの力は危険だ」
その言葉に、ジラは拳を振り上げる。
泣きそうな怒り顔を村長に向け、そして、僕に向き直る。
そして、次の瞬間。
ジラは僕の頬を思いっきり殴った。
――って、なんで!?
不意打ちだったので避けることも出来ず、僕はまともにジラのパンチを喰らう。
「ジラ……?」
僕は戸惑うことしか出来ず、頬を抑えながらジラの様子をうかがう。
「ほら見ろ、俺が殴ったってパドは何もしないじゃないか。もしもパドが危険なヤツだったら、俺はパドの力で殺されてる」
無茶苦茶なようでいて、子どもなりの精一杯の正論だった。
さすがに村長も二の句が継げない様子だ。
「ずっと思ってたんだ。なんでパドは俺達と遊ばないのかって。
でも、1ヶ月前にようやく分かった。パドは俺達を傷付けたくなかったんだ。俺達と勇者ごっこしたら、俺達を傷付けてしまうって思ったから、ずっと1人でいたんだ。
俺はそんなことにも気がつかないで、パドのことを弱虫だ、自分勝手だって思っていて、でも、パドは俺なんかよりずっと、ずっと……」
ジラは両方の瞳からポロポロと涙を流し、それ以上言葉が出てこない様子だった。
ああ、そうだ。
ジラはこういうヤツなんだ。
頭が良いわけじゃないし、乱暴だけど、仲間思いのすごく良いヤツ。
病室からでることができなかった11年間は得ることのできなかった、僕の大切な大切な友達。
その最高の友達を、僕は今苦しめている。
だから、僕は言った。
「ジラ、ありがとう。だけど、もういいから」
「何がいいんだよ!?」
「村長の言っていることは間違ってないよ。僕はこの村を出ていく」
「……それがどういう意味か分かっているのかよ!?」
分かっている。
この世界で村という最低限のコミュニティを追い出されたらどうなるか。
たぶん、生きていくだけでもとても大変だ。
それでも、これ以上、村のことも、ジラのことも傷付けたくない。
ジラが叫ぶ。
「俺達、友達じゃないのかよ!?」
「友達だよ!! ずっと、ずっと友達だよっ!!」
「だったら……」
「だから、ジラには立派な村長になってほしい。僕が壊してしまったこの村を、ジラに託したい。ジラなら信頼できるから」
僕の言葉に、ジラは息をのむ。
「村長なんて、こんな、こんな風に、友達を追い出さなくちゃいけないなら、俺はそんなんになりたくねーよ!!」
言って、ジラは小屋から駆け出す。
「ジラっ!!」
僕は思わず立ちあがりそうになり、しかしそれを村長がとどめた。
「パドまちなさい。ナーシャ、ジラを頼む」
「はい」
僕の代わりにナーシャさんがジラを追った。
---------------
ナーシャさんがジラを追った後、僕らは改めて村長と話し始めた。
「村長、僕は村を出ます。僕はこの村が大好きで、だからこれ以上村を傷付けたくないから。たぶん、『闇』の狙いは僕だったと思うし。
でも、お母さんは村においてください。
今のお母さんは村の外で生きていける状態じゃないです。それに、お母さんには何の責任もありません」
「今のこの村には、働けない者を養う余裕はない」
「でも……」
さらに言いつのろうとした僕に、ブシカさんが言う。
「パド、村長はね、あんた達母子をいったん預かってほしいと私に言ったんだよ。そして、お母さんの治療を頼めないかと」
その言葉に、僕はハッとなる。
そうだ、お母さんの治療。
ブシカさんなら……
「おっと、期待を裏切るようで悪いがね。私は断った。というよりも、私にも彼女の治療は無理だ。どうしたらいいのか見当もつかない。
いや、厳密には1つ当てはあるが……まあ、実現不可能なことだから当てともいえないか」
「実現不可能?」
「この国の王家だけに伝わる解呪法ならば、あるいはと思う。だが、確実ではないし、なによりも相手は王家だ。どうにもならん」
ブシカさんの声に苦々しさが混じるのは、自分がお母さんを助けられないという自責の念なのか、それとも王家へ思うところがあるのか。
「だが、いずれにせよ、今の彼女の状況ではこの村に置いておいてもいずれ衰弱するだろう。私のところにくれば、少しは防げると思う」
――村長はお母さんを助けようと……
――でも、それならどうして追放なんて言い方を?
その僕の内心の疑問に答えるように、ブシカさんは言う。
「村の人間達は今、心も体も追い詰められている。理不尽な状況に潰されかけている。
その状況はやがて怒りとなって村を支配する。群集心理というのはそういものだ。
その時、矢面に立つのはお前と村長だ。だから、あらかじめ追放という形でお前を罰し、村から遠ざけるつもりなのさ。村人の怒りを自分一人で受け止めるためにね」
僕は村長の顔を見る。
村長はしかめっ面のまま、ブシカさんに言う。
「ブシカ殿、それは買いかぶりというものですよ」
「そうかね。お前さんは恨み役を買って出ているのだろう? パドにも、サーラにも、自分の孫にもその恨みが向かないように。
かといって、恨みの感情まで押さえつけたら、村民達の生きる力が完全になくなってしまうとわかっている。
だから、孫に罵られてまでもこういう形で決着を付けようとしている」
村長は「ふぅ」っとため息。
「ワシはそこまで人間ができてはいませんよ。だが、もしワシがそう考えているなら……ブシカ殿の推論は他言無用に願いたいと思うでしょうな」
村長の言葉に、今度はブシカさんがため息。
「やれやれ、本当に不器用な男だね。
それはそうと、私からも1つ聞きたいんだがね。
確かにこの村には働けない者を置いておく余裕はないかもしれない。だが、村の復興のためにはパドの力は大いに役立つと思うんだが、村長として彼を追い出して、本当にいいのかい?」
「それは考え方次第でしょうな。ですが、今の村にとってはパドの強力な力よりも、村の団結の方が大切だと、ワシは判断しました」
「わかった。ならばパドとサーラは私が預かろう」
ブシカさんはそう言った。
「ありがとうございます」
僕は村長とブシカさんに心からそう言った。
そんな僕に、ブシカさんは鼻を鳴らす。
「ふん、パド、言っておくが私も無駄飯ぐらいをおいておくつもりはないからね。お前にはお母さんの分も含めて2人分――いや、やっかいごとに巻き込まれた分も含めて10人分は働いてもらうよ。
リラは女の子だから少しは手加減したが、お前はそれこそ奴隷のごとくこき使うからね」
う、うわ。
ブシカさん目、マジだ。
――と、ここまで話が進んだところで。
「待ってください」
声を上げたのはお父さんだった。
「村長のお気持ちも、ブシカさんのご厚意もよく分かりました。ですが私はパドの父親です。パドとサーラが村から追放されるというならば、私も共に参ります」
――お父さん……
僕はうれしくて涙が出そうになった。
だが。
「ダメだ」
村長は言い切った。
「何故です?」
「今の村には男手はいくらあっても足りん。特に弓の名手のお前を失うわけにはいかん」
「ですが……」
言いつのるお父さんを、僕が説得する。
「お父さん、ありがとう。でも、お父さんは村に残って。僕が壊してしまった村を治す手伝いをして」
「……パド」
「お母さんのことは、僕が護るから」
お父さんは目をつぶる。
じっと考えて。
考えて考えて。
そして、やがて言った。
「分かった。お母さんのことは任せたぞ」
「うん。村のことは任せたからね」
お父さんと僕はそう言って、笑い合った。
村長と向かい合わせに僕とお父さんが座り、横にブシカさんとナーシャさんが座る。
村長は深刻なそうな顔。
ナーシャさんは悲しそうで、ブシカさんは苦い顔。
それで、僕はこれから告げられることが、きっととても辛い話なのだろうと想像した。
「パド、体調はもう大丈夫か?」
村長に問われ、ぼくは「はい」と頷いた。
「そうか。ならば村長としての決定を話す」
村長はそこで言葉を区切った。
「パド、ならびにサーラを村から追放する」
その言葉に、お父さんの顔が蒼白に、僕の頭が真っ白になった。
---------------
しばしの沈黙。
そして、お父さんが口を開く。
「それは、どういうことでしょうか?」
「言葉通りの意味だ。前に言ったはずだ。もしもパドの力が村にとって致命的な事態をもたらしたら村長として別の判断をしなければならなくなる、と」
致命的な事態。
村の家々が倒壊し、たくさんの怪我人が出て、冬を越せるかどうかも分からない。
村長の言うとおり、僕が力を振るったために、ラクルス村は致命的な事態に陥った。
お父さんが僕をかばうように言う。
「ですが、あの謎の存在――仮に『闇』と呼びますが――パドの行動は『闇』を倒すためのものです」
「それはもちろん分かっている。だが、そもそもどうして『闇』はこの村を襲ったのか。アレは最初にサーラを襲い、次にパドを襲った。あるいはパドが力を持つが故にアレがやってきたとも考えられる」
「それは想像に過ぎません」
「無論その通りだ。だが、村を破壊したのがパドの力だったことは事実だ」
村長の言うとおりだ。
それに、何故『闇』が襲ってきたのかという理由は、実は僕の中で1つ推論が出来上がりつつある。
もし、その推論が正しいならば、確かに村のためには僕は消えたほうがいい。
だけど――
――と、その時だった。
「ふざけんなよっ!!」
叫び声と共に、ジラが乱入してきたのだった。
---------------
会議の場に乱入したジラを、村長が一瞥する。
「ジラ、今は大人の話をしている。子どもが口を挟むな」
「子どものパドをよってたかって大人が虐めておいて、なに言っているんだ!」
「ジラ、ワシは村長として村の未来の話をしているのだ」
「村の未来のためにはパドを追い出すっていうのかよ!?」
「そうだ。必要とあればそういう決定をするのが村長であるワシの役目だ。そして、次期村長にお前がなるというならば、いずれお前の役目になる」
村長のその言葉に、ジラが両手の拳を握りしめる。
「パドは村を護ったんだ。片手を失って、お母さんを殺されかけて、それでも村を護ってくれたんだ。それなのに、何が村のためだよ!?」
「だが、パドの力は危険だ」
その言葉に、ジラは拳を振り上げる。
泣きそうな怒り顔を村長に向け、そして、僕に向き直る。
そして、次の瞬間。
ジラは僕の頬を思いっきり殴った。
――って、なんで!?
不意打ちだったので避けることも出来ず、僕はまともにジラのパンチを喰らう。
「ジラ……?」
僕は戸惑うことしか出来ず、頬を抑えながらジラの様子をうかがう。
「ほら見ろ、俺が殴ったってパドは何もしないじゃないか。もしもパドが危険なヤツだったら、俺はパドの力で殺されてる」
無茶苦茶なようでいて、子どもなりの精一杯の正論だった。
さすがに村長も二の句が継げない様子だ。
「ずっと思ってたんだ。なんでパドは俺達と遊ばないのかって。
でも、1ヶ月前にようやく分かった。パドは俺達を傷付けたくなかったんだ。俺達と勇者ごっこしたら、俺達を傷付けてしまうって思ったから、ずっと1人でいたんだ。
俺はそんなことにも気がつかないで、パドのことを弱虫だ、自分勝手だって思っていて、でも、パドは俺なんかよりずっと、ずっと……」
ジラは両方の瞳からポロポロと涙を流し、それ以上言葉が出てこない様子だった。
ああ、そうだ。
ジラはこういうヤツなんだ。
頭が良いわけじゃないし、乱暴だけど、仲間思いのすごく良いヤツ。
病室からでることができなかった11年間は得ることのできなかった、僕の大切な大切な友達。
その最高の友達を、僕は今苦しめている。
だから、僕は言った。
「ジラ、ありがとう。だけど、もういいから」
「何がいいんだよ!?」
「村長の言っていることは間違ってないよ。僕はこの村を出ていく」
「……それがどういう意味か分かっているのかよ!?」
分かっている。
この世界で村という最低限のコミュニティを追い出されたらどうなるか。
たぶん、生きていくだけでもとても大変だ。
それでも、これ以上、村のことも、ジラのことも傷付けたくない。
ジラが叫ぶ。
「俺達、友達じゃないのかよ!?」
「友達だよ!! ずっと、ずっと友達だよっ!!」
「だったら……」
「だから、ジラには立派な村長になってほしい。僕が壊してしまったこの村を、ジラに託したい。ジラなら信頼できるから」
僕の言葉に、ジラは息をのむ。
「村長なんて、こんな、こんな風に、友達を追い出さなくちゃいけないなら、俺はそんなんになりたくねーよ!!」
言って、ジラは小屋から駆け出す。
「ジラっ!!」
僕は思わず立ちあがりそうになり、しかしそれを村長がとどめた。
「パドまちなさい。ナーシャ、ジラを頼む」
「はい」
僕の代わりにナーシャさんがジラを追った。
---------------
ナーシャさんがジラを追った後、僕らは改めて村長と話し始めた。
「村長、僕は村を出ます。僕はこの村が大好きで、だからこれ以上村を傷付けたくないから。たぶん、『闇』の狙いは僕だったと思うし。
でも、お母さんは村においてください。
今のお母さんは村の外で生きていける状態じゃないです。それに、お母さんには何の責任もありません」
「今のこの村には、働けない者を養う余裕はない」
「でも……」
さらに言いつのろうとした僕に、ブシカさんが言う。
「パド、村長はね、あんた達母子をいったん預かってほしいと私に言ったんだよ。そして、お母さんの治療を頼めないかと」
その言葉に、僕はハッとなる。
そうだ、お母さんの治療。
ブシカさんなら……
「おっと、期待を裏切るようで悪いがね。私は断った。というよりも、私にも彼女の治療は無理だ。どうしたらいいのか見当もつかない。
いや、厳密には1つ当てはあるが……まあ、実現不可能なことだから当てともいえないか」
「実現不可能?」
「この国の王家だけに伝わる解呪法ならば、あるいはと思う。だが、確実ではないし、なによりも相手は王家だ。どうにもならん」
ブシカさんの声に苦々しさが混じるのは、自分がお母さんを助けられないという自責の念なのか、それとも王家へ思うところがあるのか。
「だが、いずれにせよ、今の彼女の状況ではこの村に置いておいてもいずれ衰弱するだろう。私のところにくれば、少しは防げると思う」
――村長はお母さんを助けようと……
――でも、それならどうして追放なんて言い方を?
その僕の内心の疑問に答えるように、ブシカさんは言う。
「村の人間達は今、心も体も追い詰められている。理不尽な状況に潰されかけている。
その状況はやがて怒りとなって村を支配する。群集心理というのはそういものだ。
その時、矢面に立つのはお前と村長だ。だから、あらかじめ追放という形でお前を罰し、村から遠ざけるつもりなのさ。村人の怒りを自分一人で受け止めるためにね」
僕は村長の顔を見る。
村長はしかめっ面のまま、ブシカさんに言う。
「ブシカ殿、それは買いかぶりというものですよ」
「そうかね。お前さんは恨み役を買って出ているのだろう? パドにも、サーラにも、自分の孫にもその恨みが向かないように。
かといって、恨みの感情まで押さえつけたら、村民達の生きる力が完全になくなってしまうとわかっている。
だから、孫に罵られてまでもこういう形で決着を付けようとしている」
村長は「ふぅ」っとため息。
「ワシはそこまで人間ができてはいませんよ。だが、もしワシがそう考えているなら……ブシカ殿の推論は他言無用に願いたいと思うでしょうな」
村長の言葉に、今度はブシカさんがため息。
「やれやれ、本当に不器用な男だね。
それはそうと、私からも1つ聞きたいんだがね。
確かにこの村には働けない者を置いておく余裕はないかもしれない。だが、村の復興のためにはパドの力は大いに役立つと思うんだが、村長として彼を追い出して、本当にいいのかい?」
「それは考え方次第でしょうな。ですが、今の村にとってはパドの強力な力よりも、村の団結の方が大切だと、ワシは判断しました」
「わかった。ならばパドとサーラは私が預かろう」
ブシカさんはそう言った。
「ありがとうございます」
僕は村長とブシカさんに心からそう言った。
そんな僕に、ブシカさんは鼻を鳴らす。
「ふん、パド、言っておくが私も無駄飯ぐらいをおいておくつもりはないからね。お前にはお母さんの分も含めて2人分――いや、やっかいごとに巻き込まれた分も含めて10人分は働いてもらうよ。
リラは女の子だから少しは手加減したが、お前はそれこそ奴隷のごとくこき使うからね」
う、うわ。
ブシカさん目、マジだ。
――と、ここまで話が進んだところで。
「待ってください」
声を上げたのはお父さんだった。
「村長のお気持ちも、ブシカさんのご厚意もよく分かりました。ですが私はパドの父親です。パドとサーラが村から追放されるというならば、私も共に参ります」
――お父さん……
僕はうれしくて涙が出そうになった。
だが。
「ダメだ」
村長は言い切った。
「何故です?」
「今の村には男手はいくらあっても足りん。特に弓の名手のお前を失うわけにはいかん」
「ですが……」
言いつのるお父さんを、僕が説得する。
「お父さん、ありがとう。でも、お父さんは村に残って。僕が壊してしまった村を治す手伝いをして」
「……パド」
「お母さんのことは、僕が護るから」
お父さんは目をつぶる。
じっと考えて。
考えて考えて。
そして、やがて言った。
「分かった。お母さんのことは任せたぞ」
「うん。村のことは任せたからね」
お父さんと僕はそう言って、笑い合った。
0
あなたにおすすめの小説
魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた
黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。
名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。
運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。
熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。
そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。
これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。
「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。
課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」
強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!
やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!
本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!
何卒御覧下さいませ!!
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
スローライフ 転生したら竜騎士に?
梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる