神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第三部 エルフと龍族の里へ  第二章 エルフの里で

5.カミとヤミと、そしてヒトと

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 神とデネブをを作った存在。

『それが何なのかはボクにもわからない。神達だって理解していないだろうさ。ヤツラは世界の創造主を気取っているけどね。自分たちの創造主すら理解していない愚か者だよ。
 ま、それはボクらも同じかもしれないけど』

 神を作った創造主。
 僕はガングロおねーさんを思い出す。
 確かにやけに人間らしいあのおねーさんが、世界全てを作り出した根源だとかは思えない。
 ガングロおねーさんの上司だって似たようなもんだろう。

『もっともね、それをいくら考えても、ボクは意味がないとも思えるんだ』

 どういうことだ?

『仮に、ボクらや神々の創造主が定義できたとしても、じゃあその創造主を作ったのは誰かという話になる。
 さらに言えば、創造主の創造主を作ったのは誰かと、この議論は永遠に続いてしまうんだよ』

 頭がこんがらがってきた。
 それに、今僕が考えるべき事は、そんないるんだかいないんだかも分からない創造主の話じゃない。

 だが、ルシフはやけに饒舌に続ける。

『いずれにせよ、創造主は神々に世界を作らせ、あらゆる世界に際限なく人を生み出させ繁栄させる。
 一方、僕らデネブはあらゆる世界で人を操り、滅ぼさせる』

 一体なんのために?

『さあね。それこそ、創造主の遊びなのかもしれないし、あるいは世界がそう決められているからかもしれない。
 パドお兄ちゃん……いや、勇太お兄ちゃんが元いた世界は、滅びに向かって順調に進んでいたみたいだけど、この世界はまだまだだね』

 元いた世界。
 日本?
 あの世界のどこが滅びに向かっていたというのだろうか?

『そりゃあそうでしょ。あの世界の人類は自分たちを何十回も焼き尽くしても足りないような兵器を作り出している。えっと、核兵器だっけ? まあ、名前はどうでもいいけど。
 様々な国がそんな武器を持ってにらみ合っているんだ。滅びは時間の問題だよ。
 あの世界のデネブがどんな言葉で2度も世界大戦を起こしたのかまでは知らないけどね。
 あるいはデネブが介入するまでもなかったのかな?』

 2度の世界大戦や核兵器。
 病室から出たことがない桜勇太は、テレビのニュースや教科書でしか知らなかったことだ。
 だが、確かにあの世界の人類は自ら滅びに向かっていたかもしれない。

『それに対してさ、この世界は中々滅びに向かわない。
 なにしろ、世界全体に大陸が1つしかないし、国って存在も1つだけ。
 争いが中々起きてくれないんだよ』

 この世界は、桜勇太の世界に比べて平和だってことなのだろうか。

『お兄ちゃんがいた国に限ってならともかく、世界全体を見ればそうだと思うよ』

 だから、お前はこの世界に争いを呼ぼうとしているのか。

『そう。200年前には1度上手くいきかけたんだけどね』

 200年前?

『知らない? 愚王ザルスによる流血の時代さ。あとであの学者馬鹿レイクにでも聞いてみなよ』

 よくわからないけど、それもお前が裏で糸を引いていたのか?

『まあ、多少はね。でもザルスに関しては元々ヤツの性格が悪すぎたんだろうね。ボクはほとんど何もしていないのに、大陸の人口の半分が死んじゃったもんね』

 肩をすくめるルシフ。

 まあいい。200年前の話なんて今はどうでもいいんだ。

 それで、今回はアル王女を使って戦乱を巻き起こそうっていうのか?

『7年前まではそう思っていた。今でも腹案の1つとして持っている』

 どういう意味だ?
 いや、わかりきっている。

『そう。今ボクの本命はパドお兄ちゃん、キミだよ』

 200倍の力と魔力を持って産まれてきた僕。
 その僕を『闇』として作り替えること。
 それが、ルシフの狙い。

 神託の言葉を思い出す。

 =====================
 エーペロス大陸の南西、ゲノコーラ地方、ペドラー山脈にあるラクルス村。
 その地に神の手違いにより転生しせりパド少年。
 その者、200倍の力と魔力を持ち、闇との契約に至れり。
 放置すれば世界が揺らぎ、やがて滅びるであろう。
 =====================

 あの神託の言葉の意味、今の僕にはよく分かる。
 200倍の力と魔力を持つ僕が、ルシフとの契約で『闇』と化せば、この世界を滅ぼすに十分だということなのだ。

 だから、神々は教会に神託を与えた。
『闇』と化す前に僕をどうにかしてしまう――おそらくは殺してしまえと伝えたくて。
 実際、異端審問官は僕を殺そうとやってきた。

 もっとも、教皇や枢機卿ラミサルはその通りに動かなかったわけだけど。
 ずいぶんと詰めが甘い。

『ま、神々なんてそんなもんさ。ヤツラは人間の気持ちなんて理解しない。世界が滅びるって脅せば、お兄ちゃんを殺してくれるって短絡的に考えたのさ』

 詰めが甘いのはルシフお前も同じだと思えるけどね。
 こんなことを僕に話してしまったら、それこそ僕は2度とお前にすきなんて見せない。

『そうかな? 人間っていうのは弱い生き物だ。
 例えば……そうだな。リリアン・ブルテを元に戻す方法を教えてあげると言われたらどうする?』

 それは。
 思わず聞きたくなる。

 いや、ダメだ。
 コイツがまともにそんなことを教えてくれるはずがない。
 僕の心を揺さぶっているだけだ。
 それは分かっている。

 分かっているけど。

 それでも聞きたくなってしまう。
 だって、それを知ることができなかったら。

 僕はリリィのなれの果ての『闇』を殺さなくちゃいけないから。

『ふふふ、迷っているね。
 そうだ。迷え迷え。
 その迷いが、やがてお兄ちゃんを『闇』へと変えるんだよ』

 ルシフはそう言って笑い転げる。

『リリアン・ブルテだけじゃない。心に負の感情を抱えている人間なんていくらでもいる。
 次はお兄ちゃんの義母弟おとうと――バラヌくんかな? それともお兄ちゃんのガールフレンドのリラちゃんかな? 2人とも十分心は不安定だね。
 あるいはラクルス村でお兄ちゃんのことを心配し続けているバズお父さんや、お友達たちだって、ボクがその気になれば『闇』に変えられる。
 アル王女やレイクだって、つけいる隙はある。
 そう聞いても、お兄ちゃんは絶望しないでいられるのかな?』

 考えたくないと思っても考えてしまう。
 僕の目の前で、バラヌが、リラが、お父さんが、ジラが、キドが、テルが、知り合い達がどんどん『闇』に変わっていく姿を。

 考えれば考えるほど、僕の頭の中はおかしくなりそうで。
 今すぐ、ルシフに飛びかかってしまいそうで。
 僕の心に、憎しみと絶望があふれかえりそうで。

 だけど。

 どこからか声が聞こえた気がする。

『いい加減にしな、馬鹿弟子がっ!! 考えるんだ。常に考え続けるんだ』

 それは幻の声。
 もういない、お師匠様の言葉。

 そうだ、考えろ。
 ルシフはこう言っているけど、実際にはそうなっていないじゃないか。

 ヤツの言葉に惑わされるな。

 僕はルシフに叫ぶ。

 やれるものならやってみろ!!

 僕の言葉にルシフの顔が不快に歪む。

『ふん、ならリクエストに応えてあげようかな』

 ああ、そうしてみろよ。

 僕はルシフとにらみ合う。
 だが、ルシフは動かない。

 やっぱりそうだ。
 ルシフはさっき皆を『闇』に変えてみせるなんていったけど、ハッタリだ。
 ちょっと考えれば分かることだった。

 心に負の感情をいだいているというだけで人を『闇』に変えられるなら、ルシフは何も苦労していない。

 リラも、ジラも、お父さんも、お母さんも、僕も、皆とっくに『闇』に変えられている。
 僕だってこれまでにたくさん負の感情を覚えてきたんだから。

『だけど、今回の『闇』がリリアン・ブルテだというのは本当だ。彼女は自ら僕に願ったんだ。力が欲しいとね』

 そう言いながらも、ルシフは苦々しい表情だ。

 そう。
 やはりポイントは『契約』なのだ。

 ただ負の感情を持つだけではダメで、ルシフと何らかの契約をしなければ『闇』になどならない。
 いや、僕はヤツと2度契約したが、『闇』にはならなかった。

 きっと他にも条件があるんだ。
 何か。
 何かの条件が。

 ――そうか。
 そういうことなのか!?

 かつて、漆黒の刃の魔法を契約したときのことを思い出す。

『お兄ちゃんの家族の命をちょうだい』

 ルシフは確かにそう言った。

 契約として家族の命を差し出すこと。それが、契約相手を『闇』にする条件。

 ルシフの顔に、今度こそ悔しそうな表情が浮かぶ。
 どうやら、図星だったらしい。

 家族の命を犠牲にしてでも力や魔法を望むというのは、究極の負の感情だろう。
 それこそが、人を『闇』にするための条件なのだ。
 もちろん、アル様の大剣で斬られた場合はまた別なのだろうけど。

 冷静に考えてみれば。
 この世界にいるお父さんやお母さんはまだしも、前世の世界の両親や稔をルシフが殺せるのかって話だ。

 あれは僕に、家族殺しという究極の負の感情を持つように迫った言葉だったのだ。
 だとしたら、リリィは家族を犠牲にしてでも力を得ようとしたのか。

『必ずしも家族じゃなくてもいいんだ。自分を慕ってくれる存在ならね』

 そう聞いて思い立つ。
 まさか。

 リリィ。キミはダルトさんを……

 いや、これはあくまでもルシフの言葉。
 そもそも、本当にあの『闇』がリリィなのかなんて証拠はない。

『そう思うならヤツを斬ればいい。結果はおのずと分かるさ。
 もういい。お兄ちゃんが心の底から絶望するまでサヨウナラだ』

 ルシフがそう宣言し、僕の意識はエルフの里へと戻るのだった。
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