神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

文字の大きさ
131 / 201
第四部 少年少女と王侯貴族達 第二章 王都到着

10.お着替えをしよう

しおりを挟む
 アル様やレイクさん、キラーリアさんと共に、僕とリラが王宮に行くことになった。
 ピッケやルアレさんは一緒に行かないらしい。どうしてなのか聞いたが、呼ばれたのは僕とアル様だけだからとのこと。それならリラも行かないでいいような気がするんだけどね。

 ハッキリ言って何が起きるか分からない。最悪、他の王子様の勢力と戦うなんてことになるかもしれない。
 リラの手前言わなかったが、内心はビクビクである。

 出発に先だち、僕は着替え中。
 それまで僕が身につけていたのは粗末な平民用の服。
 王宮を訪問するには無作法すぎると、レイクさんが代わりの服を用意してくれたのだ。

 いくら罠の可能性があると言っても、現状ではあくまでも可能性に過ぎない。最低限の礼儀は整えておく必要がある。

 といっても、僕は貴族ではない。
 貴族でない者が貴族と同じような服装で王宮を訪ねたら、それこそ身分詐称になってしまう。
 だが、田舎村の子どもが王様と面会することなど滅多にない。故に、田舎村の子どもが王宮を訪ねるときにふさわしい服装というのも前例がほとんどない。
 セバンティスさんも迷ったようだが、平民で王宮を訪ねるならば、大商人の子どもに準じた服装にしておこうとなったらしい。

 具体的には上質かつ清潔感ある布で作られた、緑色の長袖長ズボン。それにスカーフとベレー帽みたいな帽子。
 僕はセバンティスさんに手伝ってもらって、別室にて着替えることになった。ほら、僕って左手がないからボタンとかはめられそうもないしね。

 アル様もさすがに普段の露出度では王宮には行けない。
 別の部屋で着替え中のはずだ。もちろん、リラもだ。

 セバンティスさんに手伝ってもらいながら服を着る。
 本当は1人で着替えられればいいのだけど、やっぱり片手だと難しい。
 うん、肌触りがいい布だ。ラクルス村のゴワゴワした服とは比べものにならない。
 前世の病院で着ていた服よりもさらにツルツルかもしれない。

 たぶん、ラクルス村全体の現金収入1ヶ月分よりもお値段高いんじゃないかな、この服。
 王宮に呼ばれたとはいえ、無償で用意してもらってなんだか申し訳ない気分になってくる。

 ……あれ、でも。
 僕はふと思い立つ。
 今回、僕が王宮に呼ばれたのは想定外だったはず。
 なんでちょうどいい大きさの服が用意できたんだろう?

「手紙が来たばかりで、服を用意できるってすごいですね」
「事前にレイク様から用意しておくように命じられていましたので」

 説明から考えるに、今回のような形かどうかはともかく、レイクさんは僕が王宮に行くことになるかもしれないと考えていたようだ。
 ともあれ、着替えが終わる。

「ありがとうございます。ピッタリです」

 僕はセバンティスさんに頭を下げた。

「お礼ならばレイク様にお願いします」
「はい。あとでお礼を言います」

 僕が頷くと、セバンティスさんは改めて僕を見下ろす。
 そして、少し躊躇するようなそぶりを見せた後、尋ねてきた。

「パドくん、貴方は一体どこまで状況を理解しているのですか?」
「どこまでって……えっと、アル様と他の王子様が王位継承権を争っていて、アル様は王子様と喧嘩しにいく……みたいな……」

 うん、我ながらかなりざっくりした言い方だ。
 そもそも全てを理解しているのかっていわれたら微妙だし、情報を整理して言葉にするのはあまり得意じゃない。

 僕の言葉を聞き、セバンティスさんは小さく息をつく。

「確かに間違ってはいません。が、もっと根本的な問題を自覚していないように感じます」
「根本的な問題、ですか」
「いいですか、パドくん。場合によってはアル殿下やレイク様は王家――つまり国そのものを敵に回しかねない状況なんですよ」
「それは、まあ、そうかもしれませんけど」

 確かに、そういうことになる可能性もあるだろう。
 でも、アル様も王女なわけだし、そうなると決まったわけじゃないとも思う。

 だけどそんな僕は、セバンティスさんから見るとのんなお子様に見えるようだ。

「正直に申し上げれば、私はレイク様がアル殿下の陣営につくと決めたとき、かなり反対しました。ガラジアル公爵の遺言とはいえ、ブルテ家を滅ぼす決断に思えたからです」

 セバンティスさんの常識からすれば、アル様に味方するのは自殺行為にすら見えるらしい。

「もちろん、私はブルテ家に仕える者。最終的には当主であるレイク様の決定には従います。が、正直に申し上げればこの政争、アル殿下の勝ち目はかなり薄い」

 それは最初からなんとなくは感じていたけど。
 でも、何故今、そんな話を僕にする?
 セバンティスさんは何が言いたい?

「あなたには分からないかもしれませんが、この政争に負けるということは、負けた陣営に関与した者もただではすみません。いえ、ハッキリ言えば命が危ない。
 パドくんやリラさんがどういう意図でアル様にくみしたのかは知りませんが、そのことをちゃんと理解して、それでも本当にアル様の味方として王宮に向うべきか考えてほしいのです。逃げるなら今しかありません」

 ――なんだ?

 ――セバンティスさんはどういう意図でこんなことを言っている?
 ――僕の覚悟を確認するようアル様に命じられた?
 ――それとも、実はセバンティスさんは王子様側で、何かの罠?

 一瞬色々な疑いが頭に浮かぶ。

 だけど。
 セバンティスさんの顔には、むしろ僕を心配するような、あるいは哀れむような表情が浮かんでいる。
 もしかして、純粋に僕のことを心配してくれているのかな?

 いずれにしても。
 僕には今更アル様を裏切る道はありえない。

 神託のこともあるし、教会にいるお母さんのこともある。
 お母さんを助けるために王家の解呪法も必要だ。もちろん、その魔法でお母さんが元に戻るという保証はないけれども、それでも今のところ他に僕ができることはない。

 でも、今となってはそれだけじゃない。
 バラヌやリラのことだってある。エルフや獣人とのハーフであるあの2人の将来を考えれば、アル様が龍族のおさに語った将来を見てみたいと思う。
 少なくとも銃をつくって亜人種と戦争をしようとしている、諸侯連立派の王子に政権を取ってほしいとは思えない。

 なによりも。
 ここまで来て下りるなんて考えられない。
 僕はもう決意したのだから。

 だから、僕の答えは決まっていた。

「心配してくれてありがとうございます。でも、僕はアル様の味方をするって決めましたから。他に僕ら家族が生き残る道はないんです」
「……そうですか」

 僕の言葉に、セバンティスさんは少し考えるような表情を浮かべる。
 だが、それも一瞬のこと。

「パドくんは見た目よりもずっとしっかりした子なんですね。そこまで覚悟しているならば私はこれ以上言いますまい。今の話は忘れてください。
 レイク様のこと、よろしくお願いします」

 セバンティスさんはすっと一礼した。

「それより、セバンティスさんは気にならないんですか?」
「何がでしょうか?」
「僕……というか、僕やリラやピッケが何者なのかとか」

 レイクさんもアル様も、何故かセバンティスさんに詳しい説明をしようとしない。いや、僕の知らないところで話しているのかもしれないけど、少なくとも僕のチートや例の神託については説明していないはずだ。

「私は執事です。あるじであるレイク様が私に話すべきでないと判断した事柄を詮索したりはいたしません」

 そういうものなのかな。

「本来なら、先ほど貴方に申し上げたことも執事としては出過ぎた言葉です」
「じゃあ、なんであんなことを?」
「私は執事であると同時に、1人の大人です。死地に向かおうとする子どもは、やはり止めたいと、そう感じましたゆえ」

 死地。
 そうなのかな。
 僕やリラはやっぱり無茶なことをしようとしているのだろうか。

 急激に不安になる僕。
 そんな様子を見て、セバンティスさんはにっこりと笑った。

「もっとも、死地だと感じているのは私だけで、あるいはアル殿下やレイク様には別のものが見えているのかもしれません。私には分からないことです」

 う、うーん。

「ただ、もしも……そうですね。もしも我があるじが無理に――あるいはだまして無関係な子どもを巻き込もうとしているならば、それは配下の者として止めるべきかとも思います。
 が……」

 そこで、セバンティスさんは言葉を句切った。

「今の貴方の返答を聞いて、わかりました。あなたは貴方自身の意思でここにいる。そうですね?」
「はい」

 頷いた後、僕は付け加えるべきことに気がつく。

「この先、僕がどうなろうと、それは僕の責任です。レイクさんやアル様のせいじゃないと思っています」

 僕の答えに、セバンティスさんは満足げに頷いた。

「ならば、私にこれ以上申し上げることはありません。ここで貴方と、我があるじのご武運をお祈りしておきましょう」

 それで、僕とセバンティスさんの会話は終わったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...