神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

文字の大きさ
145 / 201
【断章】命の輝き

【断章1】 剣なくば

しおりを挟む
 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(アル視点/三人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 テミアール王妃が『闇』と化し、教皇を狙った時。

 アルは対応を一歩間違える。
 その時、アルはルシフから与えられた大剣を持っておらず、故に『闇』にどう対抗すべきか瞬間迷ってしまったのだ。
 戦場においては、その迷いが致命的だった。

 おそらく、『彼女』の行動を先読みしたのであろうパドが、漆黒の刃で教皇を護る。
 だが、『彼女』は10本の指を振り回し、謁見の間は惨劇の世界へと変わった。

「レイクさん、結界魔法で皆を」

 パドの叫び声に、レイクがアルやキラーリア、それに国王やテキルース王子、フロール王女の周囲に結界を張る。

「一体何が、何が起きておいるのですか!?」

 フロール王女がパニックになりつつアルに問う。
 答える義理もなければ、説明する気にもなれず、アルは言い放す。

「さてな。一つだけ分かるのは、姉上はどこぞの闇のガキに相手にされなかったと言うことくらいだ」

 アルの言葉に、フロール王女はふらふらっと座り込む。テキルース王子が支えたので倒れはしなかったが。

 正直なところ、もはやアルにとってテキルース王子やフロール王女はどうでもよかった。

(もし、『闇』になるとしたら、テキルースか、フロールのどちらかだと思ったのだがな)

 テミアール王妃が『闇』になるという展開は予想していなかった。だが、『闇』の出現そのものは、ありえる可能性の一つではあった。

「レイク、ルアレとピッケを呼べ。もちろん、私の剣ももってくるようにとな」
「はい」

 あらかじめ、ルアレには通信の魔石を渡してある。神託の件でフロールを追い詰めた後、とどめとしてドラゴン姿で登場させようと思っていたが、もはや状況が違う。自分の剣とピッケの浄化の力が必要だ。

 一方、パドが『彼女』に挑みかかる。

(あのバカ、正面からいきやがった)

 室内の惨劇に我を失ったのか、それとも指での攻撃を捌く自信があるのか、パドは『彼女』に正面から斬りかかり――

 ――彼女の口から『闇の火炎球』が放たれた。

「パドっ!!」

 教皇のはった結界内でリラが叫ぶ。

(まずいっ!!)

 一目見て、パドの受けた傷が致命傷だと理解する。
 何しろ、腕が吹っ飛んでいる。
 パドは苦悶の声を上げて床に転がった。

「レイク、結界を解けっ!!」
「しかし……」

 グダグダ言いかけるレイクを無視してつづける。

「キラーリア、パドを教皇のところに連れて行け。ヤツの回復魔法ならなんとかなるかもしれん」

 もし、パドを救えるとしたら最高位の回復魔法を使える教皇だけだ。そして、超人的なスピードと反射神経を持つキラーリアにしか、パドを運ぶことはできない。

「はい」

 キラーリアが即座に頷く。
 一方、レイクは困惑声。

「ですが、『闇』はどうするのですか?」
「私が抑える」
「無茶なっ」
「いいから、結界を解け。パドの傷は一刻を争う」

 アルはなぜ自分がここまでパドの命にこだわるのか、よく分からなかった。
 あの、甘ちゃんの馬鹿力のガキ。利用できるかもと連れ出しただけだったはずのお子様。
 だが、今、アルはパドを失いたくないと心から思った。
 こんなところで、アイツを殺したくないと。

「……どうなってもしりませんよっ」

 レイクが言って、結界を解いた。
 アルはキラーリアと共に駆ける。

『彼女』はパドに駆け寄るアル達をみて、身構え、指を伸ばす。

「嘗めるなぁ」

 2人はギリギリで攻撃を躱していく。
 キラーリアはパドを抱きかかえ、アルは『彼女』に隣接した。

「剣がないなら、ぶん殴るまでだっ!!」

 アルは叫び、『闇』の顔面に拳をたたき込む。

(よし、手応えがある)

 かつて、アラブシ・カ・ミランテは言った。
『闇』は実態を持たないが、200倍の魔力を持つパドの拳ならば効くかもしれないと。

 アルは200倍の魔力など持っていない。魔法だって使えない。
 それでも、王家の血を引く。伝説の大部分がでたらめだったとしても、勇者キダンという魔力の強かった男の末裔なのだ。キラーリアのように魔力0ではない。

 パドの200倍の魔力で殴っても『闇』は倒せなかったという以上、自分の拳で倒せるとは思えない。

 だが、それでも時間稼ぎくらいならしてみせよう。

 キラーリアがパドを教皇の元に運び、パドが復活するまで。
 そして、ピッケが自分の大剣を持ってくるまで。

「邪魔ヲシナイデ」

『彼女』が言う。

「アル、アナタハ憎クナイノ?」

 その問いは、アルにとって馬鹿馬鹿しい言葉だった。

「憎しみか、そんなもの、いくらでもあるさ」

 アルの人生は憎しみと汚れに満ちていた。
 幼き日、アルは毎日人間の一番醜い姿を見て生きていた。
 獣のように交わる男と女を恐れ、憎んだ。
 自分を邪険にして、殴り、蹴る母の雇い主を憎んだ。
 そんな世界に生きながら、何故か『自分に誇りを持て』と教える母を蔑んだ。
 盗賊団での暮らしは楽しかったが、それでも女の自分を蔑む団員達は憎かった。
 他の息子娘が殺されたからと、いまさら自分を認知すると言い出した父国王が憎かった。
 くだらない権力争いを演じるフロール王女やテキルース王子など、できることならば殴り殺したい。

 だが。
 それでも。

「少なくとも、一番憎い相手の手のひらで踊るつもりはないのでなっ!!」

 闇の少年――ルシフ。
 あのガキ以上に憎い存在などない。

 テミアール王妃の憎しみは理解できないわけではない。
 だが、だとしてもルシフの手に落ちた時点で、アルにとってテミアール王妃は敵だ。

 そしてなにより――

 アルはチラッと、キラーリアとパドを確認する。
 キラーリアはパドを教皇の元へと連れて行けたようだ。

「パドは殺させんよ」

 アルはそう言って、身構えたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...