神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

文字の大きさ
146 / 201
【断章】命の輝き

【断章2】 あなたを助けたい

しおりを挟む
 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(リラ視点/三人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ルシフが初めてリラに接触してきたのは、師匠であるアラブシ・カ・ミランテが死んだときだった。

『パドお兄ちゃんを殺してくれたら、お師匠様を生返らせてあげるよ』

 そううそぶく闇の少年の提案を、リラは一瞥して拒否した。
 パドを殺すつもりなど毛頭無かったし、なにより師匠はそんなことを望んでいないとわかっていたから。

 その後、旅の途中で何度かルシフは接触してきた。
 テルグスの街では、祖父を殺せば、お母さんを生返らせようかともいってきた。
 祖父と母を天秤にかけるような言葉に、リラは怒りを覚えて断った。

 リリィが『闇』と化した時も、彼女を救う方法があるかのごとく言ってきた。
 もちろん、代わりにパドを殺せなどといわれてうなずけるわけがない。

 ルシフの接触を、リラはパドに相談しようか何度も迷った。
 だが、パドにこれ以上負担をかけたくないという思いから、自分の胸の内に仕舞っていた。アルやレイクにも相談していない。
 何も難しいことじゃない。相手の誘いを断り続ければいいだけだ。

 だが。

 今回は違った。
 助ける相手はパド自身。
 パドを助けられるならば、自分の命を差し出したい。

 そう一瞬思ってしまったのも事実だ。

 だが、ルシフの目的をパドが看破し、ルシフの世界からリラとパドは強制的に戻された。

 ---------------

「リラさん」

 教皇がリラに呼びかける。
 
「大丈夫ですか?」

 大丈夫なわけがない。

(私は、パドを救う唯一の方法を絶った)

 後悔はしていない。
 ルシフの言葉に踊らされて契約なんてできない。

 だけど、もう、これでパドを助ける方法はない。

 だから、リラはポロポロと涙を流した。

 その時。
 アルとキラーリアがレイクの結界から飛び出した。

 キラーリアがパドを抱え、アルが『彼女』を殴り飛ばす。

(なにを……?)

 疑問に思う間もなく、キラーリアはパドを抱きかかえて教皇の結界目前までやってくる。

「教皇猊下、彼をお救いください」

 その言葉に、教皇はハッとした顔になり、結界をいったん解いて2人を受け入れる。
 リラたちの前に連れてこられたパドは、もはや虫の息だった。

 リラは教皇にすがる。

「助け……られるの?」
「それは……」

 教皇が目をそらす。

「……私の魔法ではもはや助けられる見込みはないでしょう……それに、結界と回復魔法を同時に使うのは無理です」

 やっぱりそうなのか。
 パドは助からないのか。

 リラはパドにすがりつく。
 失われた左手と右腕。
 それでも、まだパドは生きているのに。

(助けてよ。誰か助けてよ。お師匠様……)

 リラはパドの右肩の傷口を手で触る。
 両手が血まみれになる。

 パドの出血は止まらない。

(おねがい、パド……)

 やはり自分は間違ったのだろうか。
 ルシフの言葉に賭けるべきだった?
 いや、違う、それだけは絶対にダメだ。

 だが。

 このままじゃ、パドが。
 自分の一番大切な人が。

「パド、パド、パドぉ……」

 リラは泣きながらパドにすがりついた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(教皇スラルス・ミルキアス視点/三人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 パド少年にすがりついて泣く少女リラ。

(ああ、私はなんと無力なのだろう)

 教皇は思う。
 自分に彼を助ける能力はない。
 少女の嘆きに応える力はない。

(彼女たちの師匠――アラブシ・カ・ミランテならば、彼を助けられたのだろうか)

 そう考え、意味なきことと思う。
 彼女はもういない。いない人間に、人は救えない。
 彼女は弟子達を助けるために、命を魔力として燃やした。

(命を魔力として――)

 その時、彼は思いついた。
 思いついてしまった。
 パド少年を助けられるかもしれない唯一の方法を。

 自分の魔力だけでは彼を助けられない。
 だが、もしも自分の命を魔力に変えたら?
 あの時、アラブシ・カ・ミランテがそれを攻撃魔法にしたように。

 彼は攻撃魔法は使えない。
 だが、回復魔法ならばこの世界でもっとも優れた能力者だと自負している。それこそ、アラブシ・カ・ミランテにも負けないと。

 だが。
 だが、それは。

 教皇である自分が、アラブシ・カ・ミランテと同じように――

 そんなことが許されるのか。

 別に自分の命が惜しいわけではない。
 いや、自分の命は大切だが、それと引き換えに幼い子どもを助けられるというならば、助けたいとは思う。

 しかし。

 自分は教皇だ。
 神に仕えるからと自分の命は尊いなどとは思わない。
 だが、教会内部の政治闘争も、そして、王家や諸侯連立との関係構築も、まだまだ道半ばだ。
 ここで自分が死ぬのは、あまりにも無責任だと感じる。
 異端審問官のような存在を残したまま、ラミサルにすべてを押しつけるなどできない。

 だが。
 だが。

 パド少年からは命の灯火が消えようとしている。
 この少年がここで死んでいいわけがない。

(ラミサル、申し訳ありません)

 教皇は一度黙想し、そしてキラーリアに言った。

「これから結界を解きます。そして、パドくんを救いましょう。その間、『闇』の攻撃から私達を守りきれますか?」

 キラーリアの攻撃は『闇』に通じない。それを知っていながらも、教皇は女騎士に尋ねた。

「なんとかしてみせよう」

 彼女は即座にそう答えてくれた。ならば、信じよう。

「パドを、助けられるの?」

 不安げに問うリラ。
 教皇は優しく彼女に頷いた。

 キラーリアがリラに言う。

「リラ、私だけでは『闇』を牽制できない。君の浄化の力が必要だ。共に戦ってほしい」

 リラは力強く頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...