神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

文字の大きさ
153 / 201
第五部 時は流れゆく 第一章 未来を考えよう

2.ケジメ

しおりを挟む
 レイクさんのお屋敷の広間。
 アル王女が椅子にふんぞり返り、その後ろにレイクさんとキラーリアさんが立つ。セバンティスさんは一歩ひかえて入り口付近にいる。
 僕、リラ、ルアレさん、ピッケの4人はアル王女の向かい側に立っていた。
 4人の気持ちを代表し、僕がアル王女に叫ぶ。

「どういうことですか、それは!?」

 いや、だってさぁ。
 これまでアル王女を女王にするために――つまり、王位に就けるために僕たちは戦ってきたはずだ。
 それこそ、エルフの里やベゼロニア領や王宮では人もたくさん死んだ。
 それでも、僕らはここまで突き進んできたのだ。

 それなのに、こともあろうに王位はホーレリオ王子に押しつけてきたという。
 その言い方は、アル王女自身の意思で、王位継承を拒否したとしか思えない。
 僕が叫んだのも無理からぬことだろう。

 アル王女は叫び狂う僕を見ながら、冷めた声で言う。

「落ち着け、パド」
「これが落ち着いていられますか、一体どういうことです!? なにがどうしてそうなるんですか!?」

 くってかかる僕の後ろから、ルアレさんが冷たい声を発する。

「正直、エルフ族としてもその結末には理解しがたいものがありますね。アル殿、あなたがエルフの里で我々のおさと龍の方々に語った言葉は何だったのですか?」

 さらに、ピッケも。

「うーん、オイラとしてもちょっと納得いかないかなぁ。父ちゃんも怒ると思うよー」

 そりゃあそうだ。エルフの里であれだけ熱弁しておいて、最後の最後にこれじゃあ、エルフも龍族も馬鹿にされたとしか思えないだろう。

 さらに、リラ。

「アル様、私も納得できません。アル様は結局何がしたかったんですか?」

 うわぁ、怒ってる。皆怒っているよ。
 無理もないけど。

 僕、リラ、ルアレさん、ピッケに睨まれ、アル王女はうざったそうに「わかったわかった」とあしらおうとする。
 いや、それはまずいって、アル王女。
 リラや僕はともかく、エルフや龍族を翻弄したっていうのは、本当にまずいって。

 この状況はある意味、王位継承戦の時以上に一触即発なんじゃないか?

「お前達が憤るのは理解できる。ちゃんと説明するから、まずは落ち着け。四人とも椅子に座って私の話を聞け。それと、セバンティス、ハーブティーでも持ってきてくれ。気持ちが落ちつくヤツな」

 いや、ハーブティーでどうにかなる状況じゃありませんよ?

 思いつつも、とりあえず僕らは適当に椅子に座って、アル王女の話を聞く。

「まず、先に言っておくがエルフの里で話したことを反故にするつもりはない。私はこれから5種族の代表会議を開くつもりだ。
 もちろん、私自身の呪いと、パドの母親の呪いも解く」

 いやいや、だってさぁ……
 僕がなんと言ったものかと思っていると、ルアレさんが先に発言した。

「わかりませんね。人族の長とは国王のことでしょう? 王位を拒否して代表会議開催が叶いますか?」
「むしろ、私が王位に就くと叶わないのだよ」

 意味が分からん。

「私が王位を継げば、まず諸侯連立が黙っていない。5種族会議どころか、人族同士での内戦だ。それこそ、300年前の愚王の時代のように、大陸中が血で染められるだろう。
 他の種族との会議など、とても無理だ」

 いやいやいや、いまさらそんなことを言われてもね。
 あきれるというか、困惑するというか、僕らは唖然となってしまう。

「だが、ホーレリオが国王になるならば、諸侯連立としても妥協できる範囲だろう。あいつも諸侯連立盟主の血筋だからな」

 それはそうかもしれないけどさぁ。
 僕と同じことを思ったのか、ルアレさんが言う。

「それでは、結局テキルース王子が王位を継いだ場合と同じことなのでは?」

 だが、アル王女は首を横に振る。

「ホーレリオはテキルースとは違うだろう。アイツは愚かしいまでの平和主義者だ。火薬の武器転用など嫌悪しかしないだろうし、5種族の会議も肯定するだろう。
 というよりも、肯定すると明言した」

 うーん。

「我々の目的は私が王位につくことではない。人族と亜人種の話し合いの場を作ることだ。その為にはむしろ、王位などホーレリオにくれてやったほうがいい。王になったら王宮から動けんしな」

 言っていることはわからなくはない。
 確かに、僕もホーレリオ王子個人にはそこまで思うところはない。
 少し会話した感じだと、『普通にいい人』といった王子だ。

 ――だが。

「そう上手くいきますか? ホーレリオ王子が貴方の思うままに動くとでも?」

 そういうルアレさんの懸念は当たり前だ。

「ホーレリオの配下にレイクをつける。どのみちあいつにも、私にも細かい政治などできんからな。その上で、私はこれからドワーフや獣人と渡りをつけるために動く。まずは、リラやパドと共に各地の獣人の里をまわる」

 いや、ちょっと待って。
 僕は思わず叫んだ。

「アル王女、分かっているんですか、リラは獣人達にとって禁忌の……」
「その禁忌を否定することも、今回の旅の目的だ」

 ぴしゃりと言うアル王女。

「もちろん、リラが禁忌に正面から向き合う覚悟があるならばだがな」

 その言葉に、リラは口ごもる。

「わたしは……」

 リラにとって、禁忌の子どもとして里で父親を殺されたことは、トラウマ級のできごとだったはずだ。

「お前にとって、それが辛いことであるのは分かっている。だから無理強いはしない。だが、私はお前に、人族と獣人の――いや、5種族の架け橋になってほしいと思っている。
 人族と獣人のハーフであるお前に、な」

 リラはあきらかに迷っている。
 アル王女の提案を肯定する気持ちと、しかしやはり怯える気持ちと、その間で苛まれている様子だ。
 僕はリラを庇うように言った。

「アル王女、そんなことを言って、獣人にリラが殺されたらどうするんですか!? あいつらは、リラのお父さんを殺して、僕らを崖に追い詰めて……」
「ならば、お前がリラを護ればいい。それとも、お前はリラを護る自信がないのか?」
「それはっ……」

 ぼくは口ごもる。

 アル王女の言い分は分かる。
 5種族の会議を開くにあたって、ハーフのリラは確かに架け橋になりうる。あるいはバラヌもそうかもしれない。

 だけど、あまりにもリラに負担が大きすぎる提案だ。

 僕とリラが押し黙っていると、ピッケが口を開いた。

「あのさぁ、それで、龍族オイラ達が納得するって本当に思っているの?」

 ピッケの口調はいつも通りだが、目は笑っていない。

「アル、あんたが王位をホーレリオとかいうヤツに譲った理由は分かったよ。それが正しいかどうかは知らないけど、それこそ人族の間の政治判断に口を挟みはしないさ。だけどねぇ……」

 ピッケはそこまで言って目を細める。

「だとしても、あんたは自分が王位に就くために力を貸してほしいとオイラ達に言ったんだ。だけど、その実、本心では違うことを考えていましたって話だろ? つまり、アンタはオイラ達を欺したんだよ。
 その選択の是非とは別問題として、龍とエルフを欺したケジメ、どう取るつもりなんだい?」

 ピッケが怒るのも無理はない。
 実際、今回の件で龍族とエルフは相当アル王女に協力している。

 僕は3日前のこと――戦いの翌日のことを思い出すのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...