神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

文字の大きさ
169 / 201
【番外編】日の国・魔法の国

【番外編35】少年の見た王都崩壊の日

しおりを挟む
 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(三人称/バラヌ視点)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 王都の教会総本山は、それはもうすごい建物だった。
 エインゼルの森林を出てから、驚くような建物をたくさん見てきたが、これはその中でも飛び抜けている。
 立派、巨大、煌びやか、神々しい、幼いバラヌの持つ言語能力では表現できないほどの場所。
 それが教会総本山だ。

 だが、ラミサルと共にバラヌが教会総本山にたどり着いたとき、そんな感慨にふけるような余裕はなかった。
 もともと、バラヌの出家の儀式のためにやってきたのだが、総本山に着いて知らされたのは教皇の死である。
 しかも、それにバラヌの兄、パドが関わっているらしい。

 バラヌには状況はつかめていない。
 つかめていないが、周囲の神官達が、バラヌに向ける視線の中に、露骨な困惑や忌避があることは分かる。

 その理由が、自分の出自――すなわちエルフとのハーフであることに由来するのか、あるいは教皇の死に関わっている兄に由来するのか、それとももっと別の事情があるのかまでは分からない。

 いずれにせよ、ラミサルからは『状況が落ち着くまで、無闇に与えられた部屋から出ないように』と言明された。
 ラミサルは相当忙しい状況に置かれているようで、バラヌの出家の儀式も後回しになっている。

 総本山について3日後。
 ラミサルが女性を連れてやってきた。
 女性は車椅子に乗せられている。

「その人はどなたですか?」
「パドくんのお母様ですよ」

 兄の母。
 呪いにより、心を失ったと言われる女性がそこにいた。
 なるほど、女性は穏やか笑みを浮かべているのに、どこか人間味を感じない。

「解呪法を実行するために彼女をパドくんの元へ連れて行きます。バラヌ、あなたも一緒に来ますか?」

 久しぶりに兄に会える。
 そう考えて、『はい』と答えそうになったが、すぐにその言葉を飲み込む。

 目の前にいる女性にとって、自分はどういう存在か。
 幼いバラヌに性交や不倫などの知識があるわけではない。
 それでも、目の前の女性が心を取り戻したら、自分が好ましからぬ存在なのではないかというのはなんとなく分かる。
 兄と母親の再会を邪魔したくもない。

「いいえ。僕はここにいます。お兄ちゃんは僕に教会で頑張れって言っていましたから」

 迷った末、バラヌはそう答えたのだった。

 ---------------

 数刻後。
 その時、バラヌは総本山の食堂にいた。
 部屋からむやみに出ないように言われているとはいえ、食事はしなくてはならない。
 広々とした食堂で、バラヌは芋を潰したサラダを食べていた。

 周囲では他にも若い神官が食事をとっているが、バラヌのそばにはよってこない。

(やっぱり、ここでも僕は厄介者なんだな)

 自分の状況を冷静に考えるバラヌ。
 幼いながらも忌避される現実を受け入れられるのは、生まれ故郷でも似たような状況だったからだ。
 少なくとも、暴力を振るわれたり露骨に虐められたりしない分ここの方が故郷よりはマシだ。

 バラヌが食事を終えて立ち上がろうとした直後だった。

 大地が揺れた。
 バラヌはその場に転がる。
 とても立っていられない。

「な、なんだ!?」
「地震!?」

 周囲の神官達の声が響く。

 次の瞬間。

 部屋の壁が崩れ、強風が吹き荒れる。
 すさまじい勢いの風に、大人の神官達すら宙に舞う。

 バラヌが吹き飛ばされずにすんだのは、ほんの偶然だった。
 転がった先が柱の陰で、しかもその柱が奇跡的に倒れずにいてくれたのだ。
 それでも、必死に柱にしがみついて、ようやく助かったといったところだ。

 やがて、嵐のような現象が収まった後、バラヌは恐るべき光景を見ることになる。

 ---------------

 総本山の立派な建物はほとんど崩壊していた。
 まさに地獄絵図。
 周囲からはうめき苦しむ人々の声が聞こえる。

 天井も壁も大半が崩れ、茶色く渦巻く空が見える。
 その渦巻きの中心は、王城の方角だった。

(お兄ちゃん、ラミサル様)

 兄やラミサルは、王城にいるはず。
 2人のことが心配だった。

 立ち上がろうとして右足に痛みを感じる。
 改めて自分の足を確認すると、木片のかけらが脹ら脛に突き刺さり、血が流れ出していた。

「う、う、うぅぅ……」

 泣きそうになりながら、バラヌは再びその場に座り込む。
 そこで、見てしまう。
 となりに神官の一人が転がっていた。彼の後頭部は巨大な壁のかけらで潰されている。

(……死んでる?)

 幼い少年にはもう限界だった。
 張り詰めていた気持ちがあふれかえり、涙を流しながら大声で泣くバラヌ。

(お兄ちゃん、お母さん、ラミサル様、おさ様、誰か助けて……)

 泣きながら、それでも遠く王都の空を見上げると、そこには黒い人影――『闇』がたゆたっていた。
 自分の母の命を奪ったモノとそっくりな、だがそれよりも数十倍は巨大な『闇』が。

『闇』は両手を天に掲げ、そして、再び巨大な竜巻が王都を襲う。

 小さなバラヌは今度こそ吹き飛ばされる。
 最後にバラヌが見たのは、巨大な竜が『闇』に向かって行く姿だった。

 ――ピッケ?

 その竜が、自分と共に旅した龍族の姿だと理解し――
 ――そして意識を失ったのだった。

 ---------------

 バラヌが目を覚ましたのは、それから数日が経過してからだった。
 王都は完全に崩壊していた。
 教会総本山も、王城も、街並みも、もはや存在しない。

 バラヌが簡易的な治療所に運んでもらえたのは、運が良かったとしかいいようがない。

(お兄ちゃん、ラミサル様、リラお姉ちゃん、アル様、レイクさん、ルアレさん、ピッケ、キラーリアさん……)

 みんな、どうなってしまったのだろう。
 自分はこれからどうしたら良いのだろう。

 どうにもならず、ただうずくまって泣くことしかできないバラヌ。
 そんな彼に、数日後声をかけてきた者がいた。

「いつまで泣いている、バラヌ?」

 聞き覚えのある声に、バラヌはハッと顔を上げる。
 そこにいたのは赤毛の王女――アルだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

「強くてニューゲーム」で異世界無限レベリング ~美少女勇者(3,077歳)、王子様に溺愛されながらレベリングし続けて魔王討伐を目指します!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
 作家志望くずれの孫請けゲームプログラマ喪女26歳。デスマーチ明けの昼下がり、道路に飛び出した子供をかばってトラックに轢かれ、異世界転生することになった。  課せられた使命は魔王討伐!? 女神様から与えられたチートは、赤ちゃんから何度でもやり直せる「強くてニューゲーム!?」  強敵・災害・謀略・謀殺なんのその! 勝つまでレベリングすれば必ず勝つ!  やり直し系女勇者の長い永い戦いが、今始まる!!  本作の数千年後のお話、『アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~』を連載中です!!  何卒御覧下さいませ!!

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...