神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第五部 時は流れゆく 第三章 楽園の崩壊

3.日の国の戦い その1 兄よ、弟よ

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 稔はブツブツと呟きながら混乱している。

「とても信じられない。だが、だが……もしそうだとしたら……確かに……いや、だがしかし……」

 当然の反応だと思う。
 むしろ、即座に否定しないだけ、マシな反応だと言える。 

 そして。
 稔はつぶやきを止め、黙想し、やがて僕に尋ねた。

「本当に……勇太兄さん……なのか?」
「うん、黙っていて、ごめん」

 稔は夕日に染まる空を見上げる。
 彼の右目からひとしずくの涙が流れた。

 そして、僕に言う。

「嬉しい」
「え?」
「兄さんが生きていてくれて――話ができて、一緒に暮らせて、本当に嬉しい」
「稔……信じてくれるのか?」
「信じるしかないだろう。父さんや兄さんの仏壇の前での反応や、リラちゃんが知らない日本語を兄さんが知っていたことや、お母さんへの行動……いや、そもそも、僕は最初から、パドくんを見たときから……なぜか兄さんを思い浮かべていた。自分でも不思議だったけれど」

 稔は僕を見る。

「兄さんは、これからどうするんだ?」
「僕はリラを助ける」

 色々思うことはあるけれども、まずやるべきことはそれだ。

「だけど、兄さん1人じゃ……相手は銃を持っているんだろう?」
「銃ならもう壊したよ」
「……? どうやって? 悪いけど兄さんの手じゃ……」

 右腕と左手首を失った僕の体を見ながら言う。

 ああ、そうだった。
 稔はぼくのチートを知らないんだよね。

 ここまで話したんだ。もう全部明かそう。

 僕は近くに転がっていたちょっと大きめの石を左腕で叩く。
 石はあっさりと粉々になった。
 稔は目をまん丸に見開いた。

「転生するとき、200倍の力を手に入れた。それで苦労もしたけど、助かりもしたよ。それから、こんなこともできる」

 次に、僕は左腕から漆黒の刃を伸ばす。

「これは……ある意味、医者としては転生よりも研究してみたいな。いや、兄さんを実験動物扱いするつもりは無いけど……」

 僕は漆黒の刃を消してから、苦笑いして言う。

「残念だけど、今は、稔の研究の手助けをしている場合じゃないかな」
「そうだね」

 それから、稔はじっと考える。

「だけど、それにしても兄さん1人でリラちゃんを助けるのは難しいんじゃないか?」
「でも、助けないと。この世界の警察は頼れないし」

 色々説明できないことが多すぎるからね。

「……そうか。よし、僕が手伝うよ」

 稔がそう言い出しそうなのは分かっていた。
 だけど。

「でも、このことに稔を巻き込むわけには……」
「だから、もう十分に巻き込まれているって言っているだろ。それに、僕だってリラちゃんのことは助けたいよ」

 僕はそれ以上断ることができず。

「……ありがとう」

 そう言って頭を下げた。

「いいよ。だってさ……兄弟じゃん」

 稔はそういってニッコリ笑ってくれた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 その後、僕は稔にかいつまんで事情を説明した。
 もちろん、細かいことは話せていない。
 向こうの世界の話はほとんど飛ばした。

「つまり、君達の狙いは兄さんの命ってことだね?」

 稔が金髪少年――バスティーニというらしい――に尋ねた。

「ふん。そういうことだ。そのガキは本来生きていてはならない存在で……」

 バスティーニはさらに続けようとするが、稔が遮る。

「ああ、そういう話はいい」
「なんだと!?」
「神様の事情なんて僕の知ったことじゃないからね」
「貴様っ!!」
「悪いけどさ、僕は医者だ。人の命を救うことが仕事だ。相手が大量殺人犯だったとしても、目の前で死にそうならば救う。それこそ、死神にさからってでもね」

 稔はそこまで言って、バスティーニを睨む。

「ましてや、自分の兄を生きていてはいけない存在だなんて言い放つ相手、神だろうと仏だろうと、僕は否定する」

 そう言い切り、稔はいまだ地面に転がったままのバスティーニの前に立つ。

「気持ち的にはぶん殴りたいが、医者としてどんな相手でも傷つけることは僕のポリシーに反する。だが……」

 稔はバスティーニの首根っこを掴んだ。

「……兄さんも、リラちゃんも、殺させはしない。絶対にだ」

 稔はそれだけいうと、バスティーニを地面に下ろした。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 その後、稔は1度家に戻ってロープを持ってきた。
 慣れた手つきでバスティーニを縛り上げる。

「医者って、人を縛る技術も持っているんだね」
「いや、これは昔サッカークラブの合宿で習った」

 ――どんなサッカークラブだよ!?

 まあ、それはいいか。
 いずれにせよ、バスティーニを拘束して、僕らは茶髪少年――ルペースという元神らしい――彼が待つといった島唯一の神社に向かうのであった。
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