神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第六部 少年はかくて勇者と呼ばれけり 第三章 神様、ちょっとチートがすぎませんか?

3.勇者と闇

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 キダンの剣は僕の服だけを斬って止まった。

「……どういうつもり?」
「簡単に終わったら、つまらないだろう?」

 尋ねる僕に、キダンは余裕の表情。
 実際、余裕なのだ。
 今のキダンの動き、僕は目で追うこともできなかった。
 あのキラーリアさんの動きですら、ここまでではない。

「くっ!!」

 僕は光と闇の剣をキダンめがけて振り下ろす。
 どういうつもりかは知らないけれど、動きを止めたならチャンスだ。

 だが。

「無駄だよ」

 そう言うと、キダンの姿は再び消えた。

「こっち、こっち。遅いよ、パドお兄ちゃん」

 背後から声が聞こえ、僕はハッと振り返る。

 ――どうなっている!? 幻覚か?

「もしかして、幻覚かなとか思っている?
 残念でした。単に全力疾走しただけだよ」

 そういうと、キダンは再び消え、今度は僕の首根っこに彼の剣が突きつけられた。
 僕の首の皮がほんの少しだけ斬られ、ひとしずくの血液が流れる。

 ――うそ、だろう?

 今のは少しだけ見えた。
 確かに幻覚じゃない。ワープしたわけでもない。
 単純に走って僕のそばに接近しただけだ。
 信じられないようなスピードで。

「くそっ」

 僕はやけっぱちのように光と闇の剣を振り回す。
 もちろん、キダンはこれもあっさり避ける。

 ――ダメだ、動きが捕らえられない。

「言い忘れたつもりはないんだけど、俺は強いんだよ」

 ダメだ。
 立ち止まっていては勝ち目がない。

 僕は200倍の力を全開にしてキダンに向かって駆ける。
 キダンに闇と光の剣を次々に繰り出す。

 だが。
 ヤツは全く動じた様子がない。
 僕の剣を、あえて紙一重で躱してみせる。
 本当はもっと余裕で避けられるくせに遊んでいるのだ。

「ほらほら、パドお兄ちゃん、遅いよー」

 気がつくと、キダンの姿は桜稔の幼少期の姿に変わっていた。

「ふっざけんなぁぁぁぁ!!」

 僕はさらに光と闇の剣を振るうが、むなしくくうを切るばかり。

「はぁ、はぁ、はぁ」

 僕は荒い息をつく。
 一方、キダンは余裕顔。

「あーあ、ガッカリだなぁ。パドお兄ちゃんならもっとボクと戦えると思ったのに」

 稔の顔でキダンは頬を膨らませて不満顔。

 ――くそっ。
 ――完全に遊ばれている。

 200倍の力と1000倍の力。
 問題なのはそれだけじゃない。
 そもそも、キダンは何年も戦い続けたのだ。
 それに対して僕は実戦経験も劣っている。
 しかも、先ほどから光と闇の剣が僕の魔力をガンガン吸い取っている。

 ――ダメだ、このままじゃ勝てない。

 その時だった。

「パドー!!!」

 叫び声と共に、現れたのはドラゴン形態のリラ。
 そのまま、口を開け、キダンに噛みつこうとする。

 だが。

「無駄だよ、リラお姉ちゃん」

 キダンはにっこり笑うと、リラの鼻先に無造作に手を当てた。
 それだけで、ドラゴン形態のリラが吹っ飛び、転がり、そして人の形態へと戻る。

「無理しない方がいいよ、リラお姉ちゃん。ここに来るまでにもかなり消耗しているんでしょう? パドお兄ちゃんも酷いよね、リラお姉ちゃんをこんなに苦しめて、龍族にも犠牲者をいっぱい出してさ」

 いけいけしゃあしゃあ言ってのけるキダンに、リラが叫ぶ。

「どの口がそれを言うのよ!?」
「ま、そうだけどね。
 そのあげくがこうやって、ボクに遊ばれて終わりとか、情けないよね、パドお兄ちゃん?」

 キダンはそう言って僕を挑発する。

 リラ、ありがとう。
 僕にとって、君は勇者だ。
 だから。僕は……

 こうなったら、もう――

「くそっ。もう魔力が……」

 僕は光と闇の剣を消す。

「あーあ、もう終わりかぁ。もっと楽しみたかったんだけどな」

 キダンはそういうと、無造作に僕に近づく。

 そうだ、そうやって近づいてこい。
 そうしたら、使ってやるから。

 大神デオスが僕に授けたもうひとつの魔法。

 キダンが僕にさらに一歩近づいたところで、僕は飛び跳ねる。
 そして、ヤツに抱きつく。

「なっ、どういうつもりだ!?」

 初めて慌てた声を出すキダン。

「パドっ!!」

 リラが悲鳴のような声を上げる。
 彼女は知っているのだ、これから僕が何をしようとしているかを。

 わかっている。
 この方法を使ったら僕は――

 ――でも、仕方が無いじゃないか。
 僕は負けるわけにはいかない。

 リラ、バラヌ、ジラ、お父さん、皆が住む世界を護らなくちゃ。

 だから。

「リラ、ごめんっ!」

 僕はそう叫び、最後の魔法を発動した。

 かつて、お師匠様が、教皇が僕を救い、アル様がバラヌ達を救ったのと同じように。

 命を、魔力にして燃やす。

「僕の200倍の命と、残りの魔力、全部お前にぶつけてやるっ!!」
「きさまっ、これを狙って……」
「もしも、僕とお前が同類だというなら、一緒に逝こう、キダンっ!!」

 僕は叫んで、命と魔力を暴走させた。

「パドォォォォ」

 最後に聞いたのは、リラの叫び声だった。
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