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事件録1-1
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体が痺れるような寒さを覚える季節。
空を見上げると、寒さで空気が澄んでいるからか、綺麗な星空が広がっている。
学校の屋上には、一人の女子生徒が佇む。見下ろすと、灯りのない運動場には吸い込まれるような闇が広がっている。女子生徒はその闇から何かを見出すように覗き込む。その顔には、恨み、憎しみ、怒り…、全てが重なり、混ざり合ったような、表情を浮かべていた。
「これは…、他殺の線も捨てきれんが、飛び降りの可能性が高いな。」
「まだ、遺書などの類のものは見つかっていませんが、現場の状況からして、そうなるかと。」
現場を一通り見た塚本は、遺体を観察しながら警官と状況確認を進めている。
塚本の配属されている警察署に今回の事件の第一報が入ったのは、早朝だった。学校の設備管理をしている用務員が、朝の仕事に取り掛かろうと倉庫に向かう途中、女子生徒が死んでいる、と言う110番通報をしたことから始まった。通報した用務員は、前日18時まで学校にいたとのことだったが、その時には何の異変もなかったと言う。
現場はいわゆる校舎裏にあたる部分で、人通りも少ない。職員室からも離れており、事件当時に職員室に残っていた教職員も、異音や異変には気づかなかったと言う。
「死亡推定時刻の報告は来てるか?」
「鑑識の報告では、19時から21時の間であると報告が来ています。」
「ここは確か、県内でも有数の進学校だったな。」
「そうですね、入学した生徒の半数以上は東大や早稲田、慶應などの大学に進学してます。」
「ふむ…、勉強に追い詰められて突発的な自死、という線も考えられそうだな。」
「勉強に追い詰められて自死、って決めつけるには早すぎません?」
塚本は、自死を疑う質問を投げる声に、眉を顰めてはぁ、とため息をついた。後ろを振り返ると、女性が立っている。塚本の部下にあたる、平端真江だった。
「まだ決めつけたわけじゃねぇよ。お前なんでここにいるんだ、非番だろ。」
「いやー、ここ私の自宅に近くって。パトカーの音するなーと思ってきてみたら、塚本先輩いるんで来ちゃいました。」
「来ちゃいました、ってなぁ…」
「被害者の身元はもう判明してるんです?」
「おいこら!現場は荒らすなよ!」
「わーかってますって、それより、身元は??」
はぁ…とため息をついて、塚本は仕方ない、と諦めたように被害者のことについて話し始めた。
「被害者は新川愛美、16歳。高校2年だ。死因は高所からの転落死。遺体の損壊状況から見て、ほぼ即死だろうな。他殺の線もあるかもしらんが、衣服の乱れもほとんどないだろ、だから自死の線が高いと見てる。」
「ふーん……、落ちたとしたら、この校舎の屋上かな…?」
平端が校舎を見上げた瞬間、平端の体はその周囲だけ時間が止まったように動かなくなった。
「…あの、塚本刑事。あの方は…?」
「ああ、お前は初めて見るか。平端真江。俺の部下だが、変人なんだよ。あいつの動向は俺が管理するから、気にすんな。」
平端は、二人の会話など耳に入ってくることなく、屋上を見上げ続けた。その先に広がっているのは、快晴な青空。しかし、平端には側で遺体となっているはずの新川の姿が見えていた。その表情には、恨みや後悔を滲ませたような、とても自死を選んだ人間とは思えないような表情を浮かべている。
ふと、時間が戻ったように動き出した平端は、一目散に校舎の入り口に向かって走り出した。
「お、おい!どこに行く!!」
「屋上ですよ!ちょっと見てきます!!」
「今、鑑識がいるからな!邪魔すんなよ!!」
はいはい!と、わかっているのかわからないような返事を投げて平端は姿を消した。初めて平端を見る警官は呆気にとられ、思わず塚本に目線をやるが、塚本は、ああ言うやつなんだよ、と呟いただけだった。
屋上に着いた平端は、鑑識と他の刑事が現場検証をしているところに飛び込み、刑事たちを驚かせた。平端は、鑑識に今わかっている状況を聞き、刑事には新川についてわかっていることを聞き出した。
高校の生徒だった新川愛美は、クラスでは目立つほどの存在ではなかったものの、大人しく隅にいるような生徒でもなく、ごく普通の生活を送っていたようだった。勉強も進学校に入っただけあって、それなりに成績も良かったようだ。教員からの評判も、聞く限りでは悪くなかったとのこと。
ある程度聞き出して満足した平端は、改めて屋上で佇む新川の側に近寄ってみた。平端は、幼い頃から霊感があり、物心ついた時には他の人には見えないものが見えている、と言うことに気がついていた。
また、平端はその霊が発する感情のようなものを感じることができた。平端自身はそれを「思念」と便宜上表していた。もっとも、それを理解する刑事はほとんどいないが。ただ、平端が感じられるのは霊の発する思念、感情のみで、会話ができたり意思疎通ができるわけではない。平端は、現場に出ては被害者の霊が見えると、その思念を読み取り、死に至った理由を突き詰めてきた。
(勉強が辛くて、飛び降り…?それで、こんな怨念に近いような恨みを出すかな?)
平端の隣に佇む新川は、変わらず自分の遺体が横たわる現場を凝視する。そして、平端には遺体付近から見ていた以上の強い恨み、生への執着心がひしひしと伝わってきた。
空を見上げると、寒さで空気が澄んでいるからか、綺麗な星空が広がっている。
学校の屋上には、一人の女子生徒が佇む。見下ろすと、灯りのない運動場には吸い込まれるような闇が広がっている。女子生徒はその闇から何かを見出すように覗き込む。その顔には、恨み、憎しみ、怒り…、全てが重なり、混ざり合ったような、表情を浮かべていた。
「これは…、他殺の線も捨てきれんが、飛び降りの可能性が高いな。」
「まだ、遺書などの類のものは見つかっていませんが、現場の状況からして、そうなるかと。」
現場を一通り見た塚本は、遺体を観察しながら警官と状況確認を進めている。
塚本の配属されている警察署に今回の事件の第一報が入ったのは、早朝だった。学校の設備管理をしている用務員が、朝の仕事に取り掛かろうと倉庫に向かう途中、女子生徒が死んでいる、と言う110番通報をしたことから始まった。通報した用務員は、前日18時まで学校にいたとのことだったが、その時には何の異変もなかったと言う。
現場はいわゆる校舎裏にあたる部分で、人通りも少ない。職員室からも離れており、事件当時に職員室に残っていた教職員も、異音や異変には気づかなかったと言う。
「死亡推定時刻の報告は来てるか?」
「鑑識の報告では、19時から21時の間であると報告が来ています。」
「ここは確か、県内でも有数の進学校だったな。」
「そうですね、入学した生徒の半数以上は東大や早稲田、慶應などの大学に進学してます。」
「ふむ…、勉強に追い詰められて突発的な自死、という線も考えられそうだな。」
「勉強に追い詰められて自死、って決めつけるには早すぎません?」
塚本は、自死を疑う質問を投げる声に、眉を顰めてはぁ、とため息をついた。後ろを振り返ると、女性が立っている。塚本の部下にあたる、平端真江だった。
「まだ決めつけたわけじゃねぇよ。お前なんでここにいるんだ、非番だろ。」
「いやー、ここ私の自宅に近くって。パトカーの音するなーと思ってきてみたら、塚本先輩いるんで来ちゃいました。」
「来ちゃいました、ってなぁ…」
「被害者の身元はもう判明してるんです?」
「おいこら!現場は荒らすなよ!」
「わーかってますって、それより、身元は??」
はぁ…とため息をついて、塚本は仕方ない、と諦めたように被害者のことについて話し始めた。
「被害者は新川愛美、16歳。高校2年だ。死因は高所からの転落死。遺体の損壊状況から見て、ほぼ即死だろうな。他殺の線もあるかもしらんが、衣服の乱れもほとんどないだろ、だから自死の線が高いと見てる。」
「ふーん……、落ちたとしたら、この校舎の屋上かな…?」
平端が校舎を見上げた瞬間、平端の体はその周囲だけ時間が止まったように動かなくなった。
「…あの、塚本刑事。あの方は…?」
「ああ、お前は初めて見るか。平端真江。俺の部下だが、変人なんだよ。あいつの動向は俺が管理するから、気にすんな。」
平端は、二人の会話など耳に入ってくることなく、屋上を見上げ続けた。その先に広がっているのは、快晴な青空。しかし、平端には側で遺体となっているはずの新川の姿が見えていた。その表情には、恨みや後悔を滲ませたような、とても自死を選んだ人間とは思えないような表情を浮かべている。
ふと、時間が戻ったように動き出した平端は、一目散に校舎の入り口に向かって走り出した。
「お、おい!どこに行く!!」
「屋上ですよ!ちょっと見てきます!!」
「今、鑑識がいるからな!邪魔すんなよ!!」
はいはい!と、わかっているのかわからないような返事を投げて平端は姿を消した。初めて平端を見る警官は呆気にとられ、思わず塚本に目線をやるが、塚本は、ああ言うやつなんだよ、と呟いただけだった。
屋上に着いた平端は、鑑識と他の刑事が現場検証をしているところに飛び込み、刑事たちを驚かせた。平端は、鑑識に今わかっている状況を聞き、刑事には新川についてわかっていることを聞き出した。
高校の生徒だった新川愛美は、クラスでは目立つほどの存在ではなかったものの、大人しく隅にいるような生徒でもなく、ごく普通の生活を送っていたようだった。勉強も進学校に入っただけあって、それなりに成績も良かったようだ。教員からの評判も、聞く限りでは悪くなかったとのこと。
ある程度聞き出して満足した平端は、改めて屋上で佇む新川の側に近寄ってみた。平端は、幼い頃から霊感があり、物心ついた時には他の人には見えないものが見えている、と言うことに気がついていた。
また、平端はその霊が発する感情のようなものを感じることができた。平端自身はそれを「思念」と便宜上表していた。もっとも、それを理解する刑事はほとんどいないが。ただ、平端が感じられるのは霊の発する思念、感情のみで、会話ができたり意思疎通ができるわけではない。平端は、現場に出ては被害者の霊が見えると、その思念を読み取り、死に至った理由を突き詰めてきた。
(勉強が辛くて、飛び降り…?それで、こんな怨念に近いような恨みを出すかな?)
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