あなたの声を聴かせて

紅羽 もみじ

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事件録2-4

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 平端は、山の様に積まれた捜査資料の前で、再び腕を組んでうーん…と唸っていた。

(容疑者の自供と現場の証拠に矛盾はない…。けど、自供内容通りなら、容疑者はほとんどの時間をおばあちゃんの家で過ごしてるのよね。仏間にも何度か入ってると実況見分でも言ってた。なのに、貴金属類が無くなったことに気づかない、なんてことある…?)

 そこまで思考を巡らせ、平端は、電流が走った様に閃いた。

(違う!そもそもの前提から考えるべきだ。貴金属類がないことに関して、容疑者はただ『知らない』としか『言わなかった』。結果はともかく、献身的に介護をしていたおばあちゃんの大事にしていたものが無くなっていたのに、容疑者からは何で無くなっているんだ、という焦りの様子は見られなかった。…ん?てことは??え??)

 平端は、考えるほど深まる謎に、冷静に考えを巡らせた。

(無くなっていることについて、知っていたかどうかは『不明』、無くなった原因については『知らなかった』、という前提として考えよう。となると、考えられることは2つ…。1つは、容疑者が抜き取って換金した、もう一つは、第三者が盗んだ…)

 平端は分析を終えると、資料室を飛び出し、覆面パトカーのエンジンをかけて、現場付近へ向かった。
 平端の分析結果は2つに絞られていたが、前者については可能性が低いと判断していた。もし、孫が自分の介護をしてくれているとはいえ、自身のものを盗まれて換金されていれば、多少の怨みの念は抱くだろうと推測していたからだ。

(おばあちゃんが、それを良しとしてたらわからないけど…。でも、あの部屋に入った時は、相当の恨みを持っている思念だった。取調室であんな悲しそうに、申し訳なさそうに佇んでたおばあちゃんが、あの思念を孫に向けるとは考えにくいんだよなぁ…)

 ただ、平端の考えはまだ、この時点ではまとまりきっていなかった。何より、今出ている事実は、「貴金属類が数箇所抜き取られている」「容疑者はそのことについて、知らないと証言」「被害者は貴金属類を保管していた部屋に何かしらの強い思念を持っている」という、3つの事実しかはっきりしていない。

(とにかく、とことん調べてみよう。)

 現場に着くと、平端は車を降りて一軒家を見上げる。既に現場の調査は終えているため、警察関係者は一人もいない。家に張られていた規制線も取り除かれ、あたりは閑散としている。そこに、あら、この前の。と平端の背後で声が聞こえた。ヨシ子の知人と名乗った近所のお婆さんだった。

「あ、おばあさん!こんにちは。」
「奇遇ねぇ、また会えるなんて。」
「ちょっと気になることがあって。おばあさんはお散歩に?」
「そうなのよ、これが元気の秘訣なの。」

 話し相手が見つかって嬉しそうに、平端に近づいてくる。一瞬、このおばあさんをどう退散してもらおうか、と考えたが、もしかしたら貴金属のことについて知っているかもしれないと思い直し、聞いてみることにした。

「おばあさん、ちょっと気になることがあるの。聞いてもいいかな?」
「ええ、私が知ってることなら、何でも。」
「ヨシ子さん、結構お金持ちだったのかな。家にね、たくさん高価そうなものがあったの。」
「ヨシ子さんだけじゃなくて、ここら辺一帯は裕福な人が多いわねぇ。ヨシ子さんの旦那さんも、会社社長だったって話だったわ。ヨシ子さんも、お金の計算に強い人でねぇ、旦那さんのお手伝いをしてたって話だったわよ。」

 お金の計算に強い、と言うことは、会社の経理を担当していたと言うことだろうか…、と考えこんだ瞬間、

(いやいや、今聞きたいことはこれじゃない。重要な話ではあるけども!)

 平端は思い直し、話を元に戻した。

「そっか、でもね、ヨシ子さんが貴金属類を大事にしまっているところを見たんだけど、何個か無くなってたの。旦那さんが亡くなってから、お金に困ってたりとかしてたのかな?」
「いんやぁ、そんな話は聞いたことはないけど…、……あ、でもね。」

 おばあさんは、誰が聞いているわけでもないが、いきなり声を潜めて平端に話し始めた。

「ヨシ子さんの、弟さんが、ちょっとね…」
「ちょっとね、っていうと?」

 平端も思わず、おばあさんに合わせてひそひそ声になる。

「ヨシ子さんと、息子さんの仲がそんなに良くなくてね。息子さんは毎回お金に困った時に、ヨシ子さんとこに来ては、お金を貸してくれって頼みに来るんだって、聞いたことがあるわ。」
「ヨシ子さんの、息子さん…誠さんから見たら、叔父さんにあたるのかな?」
「そうね。特にここ最近は、よくこの近辺で見かけたから、お金の無心にきてたんじゃないかしらねぇ。」

 捜査資料上には、被害者の息子は載ってはいたが、捜査線上からは外れていた。誠の自供があったことも大きかったが、何より県外に住んでおり、親子仲はともかくヨシ子とのここ最近の接点が見当たらなかったためだ。

「ここ最近って、どれくらい?事件の時も来てた?」
「うーん…、どうだったかしら…、あ、でも。」

 おばあさんは何かを思い出した様な、閃いた顔をした。

「ヨシ子さんが亡くなる前、ヨシ子さんの様子を見に、と思ってお邪魔しようとしたことがあったの。そしたら、中でお孫さんと息子さんが言い争ってる声が聞こえたわ。」
「言い争い?」
「この歳になると、耳が遠くなって話の内容まではわからなかったんだけど、お邪魔できるような様子じゃないことはわかったもんで、その日は家に入らなかったの。」

 ここ最近も、ヨシ子の息子は家を訪れていた、そして、息子と孫で言い争っていた…。捜査線上から外れていた息子が、平端の中で容疑者候補の一人に上がった。

「おばあさん、ありがとう!」
「いいえぇ、若い子の力になれたならよかったわ。」

 平端はすぐに車に戻ると、署に向かうため車を走らせた。息子が来ていたことは、誠の証言からは一つも聞いていない。何か掘り返せば、新しい証言が出てくるかもしれない。署に着いた平端は、塚本のもとへ急いだ。

「塚本先輩!容疑者と話をさせてください!」
「お前はまた!藪から棒になんなんだよ、理由を言え、理由を!」
「今、近所の人から聞いてきたんです。被害者の家に、被害者の息子がここ最近も来ていたって。しかも、息子は金銭的に困っているのか、度々金銭の無心に来ていたという話です!容疑者とも言い争っていたって…」
「待て待て!わかった、俺が悪かった。順を追って説明しろ。」

 平端は、順を追っても何も、と言いながらも、先ほどのヨシ子の知人だと言う近所の人間から聞いてきた話を、塚本にわかるように説明をし直した。

「お前の言い分はわかった。ただ、容疑者が出頭してきていて、実況見分も自供通りだった。容疑者からその話を聞いたとしても、何か出てくるとは限らんぞ。」
「だとしても、引っかかる部分が多すぎます。なので、容疑者と話をさせて欲しいんです。」

 塚本はしばらく思案したが、塚本もひっかかるところには共感したのか、平端の提案を了承した。
 再び取調室に連れられた誠は、困惑の表情で座っていた。平端は取調室に入り、誠に向かって一礼する。

「こんにちは、刑事課の平端です。実況見分では一度お会いしましたね。」
「…僕にはもう、話せることはないですよ。まだ、何かあるんですか?」

 困惑を隠さずに聞く誠。そしてその背後で心配そうに見つめるヨシ子の霊。平端は核心に迫るため、誠の取り調べを始めた。
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