15 / 31
事件録4-1
しおりを挟む
ここはどこ?
暗くて、何もないところ。
苦しくないし、痛くもないけど、ここにいると寂しくなる。
何をしてたんだっけ、帰り道は、どこだっけ…
「はぁ……これで3人目、か。」
「そうだな。前の現場とも、そこまで離れてない。同一犯だろうな。」
平端と塚本は、遺体の前で深いため息をつく。2人の目の前には、まだ5、6歳の頃の子どもが、無惨な姿で横たわっていた。
平端が3人目、と言ったのは、この近辺で幼い子どもを狙った傷害致死及び殺人が起こっていた。1人目は重傷を負い命に別状はなかったが、2人目は搬送先で死亡、今回見つかったのが既に現場で亡くなった3人目、というわけだ。犯行がエスカレートしており、警察は特別捜査本部を設置し、塚本と平端もその捜査の担当になっていた。
「……ったく、胸糞悪い。事件に良いも悪いもないけどな、こういう子どもを巻き込んだ事件ってのが一番許せねぇ。」
「……先輩にも、お子さんいますもんね。」
塚本には、今年4歳になる娘と8歳になる息子がいる。彼の警察手帳には、子ども2人が笑って写っている写真を入れてあり、お守りのように大切にしていた。
「私に子どもはいませんけど…、この前の事件でも、子どもに怖い思いをさせる事件は一番許せないってのは同感ですよ。一刻も早くホシをあげましょ。」
「……おう。お前の『力』にも縋る覚悟でいく。正式な証拠にはならんだろうが、そこから挙げられる証拠もあるだろ。本部には報告しなくて良いが、俺には報告しろ、何でも聞いてやる。」
「了解です。」
塚本自身、当たる事件に区別はつけていないつもりらしいが、子どもが関わると特に動きが変わる。平端はそれを近くで何年も見てきた。
(とは言ったものの…)
今回の被害者である、相葉葵は、身元を確認したところ5歳の子ども。遺体のそばには、普段と同じく葵の霊が立ちすくんでいるが、どうしてこうなったのか、なぜ死んでいるのかも理解していないような雰囲気が漂っている。写真を撮られる度に、鑑識の服を掴む仕草をして、何をしてるのか、と聞きたげな行動をしている。
(今までは、しっかり恨みとか怒りとか、生きてる人間で言えば、意志みたいなのがあったから読めたところがあるんだけど…、葵ちゃんは何もわかってないのよね。話はできないし…。)
平端は初めて、霊は見えても何もできなさそうで困惑していた。何しろ、葵自身、死んでいることに気づいていないのだ。周りにはたくさんの大人が立っているが、意思疎通ができない。その状況にただ、なぜ?を繰り返しているのだろう。
塚本が本部に戻るぞ、という声をかけてきたため、平端は一先ず現場を去ろうとその場を動いた。すると、一瞬ヒヤッとした感覚が、平端を突き抜けた。振り返ると、平端の服を掴む仕草をして、見上げている葵の姿があった。
(葵ちゃん…、私があなたのことを見えてるって、気づいてる?)
葵は、平端が思ったことに呼応するように、嬉しそうに頷いた。意思疎通ができそうな大人をやっと見つけ、安心したようだった。
(そうか…、今までの霊は、大人ばっかりで、生前の思念に囚われすぎて、会話どころじゃなかった。でも、葵ちゃんは違う…。囚われるほどの生前の思念が、存在しないんだ。)
葵は、平端の考えていることが分からなさそうな顔で、首を横に傾げたが、平端は葵を安心させるため、目線を合わせ、心の中で語りかけた。
(1人だと、寂しいでしょう?一緒についておいで。)
葵は、平端の提案に嬉しそうに頷き、平端の後ろを付いて歩くようになった。車に乗り込むと、塚本は遅いぞ、とピリピリした様子で言った。
「塚本先輩。今回は霊を連れていきながら捜査になりそうです。」
「…被害者か。」
「ええ。5歳の子どもですから、今の状況を理解していないようで、鑑識や他の捜査官にひたすらついて回ってて。前も言ったように普通に会話とか事情聴取はできませんが、1人にしとくのも可哀想なので。」
「…それがいい。面倒見てやってくれ。」
塚本は珍しく、平端の突拍子もない話にも同意し、加えて、何かわかりそうなら俺に報告しろ、と再度釘を刺し、車を走らせた。
捜査本部では、今までの被害者の状況、現場に残った証拠など、捜査官達が各々拾い上げた情報を報告した。
1人目は4歳男児。改造されたエアガンで撃たれており、しかも装填されていたものが鉄製のものであったため、重傷を負った。不幸中の幸いというべきは、当たったところが腕や足であったことだろう。被害者は4歳であり、遊んだ帰り道に背後から間を開けずに何発も撃たれたことから犯人を見ておらず、犯人像を割り出すことは不可能だった。
2人目は5歳女児。改造されたエアガンで襲撃されている。犯人は狙いを定めたのか、真正面から目や下腹部、心臓のあたりを何発も打ちつけた。また、1人目の時と異なるところは、装填されているものにも加工がされており、玉が複数尖っていたことから、出血多量のショック死と判断された。2人目も、習い事からの帰り道で襲われている。
そして、今回の被害者、葵も2人目と同じく5歳。1人目、2人目と違う点は、エアガンが使われておらず、小型の刃物で複数箇所刺されたことによる失血死、と報告された。また、気絶させてから犯行に及んだのか、葵の体内からは微量のクロロフォルムが検出された。その他の情報は前の被害者と変わらず、友だちと遊んだ帰り道に襲われたとのことだった。
報告を終え、捜査本部長は、これ以上の被害を出させてはいけない、と捜査官に檄を飛ばし、それぞれの班に指示を出して解散となった。塚本と平端は、今回被害者となった葵の現場周辺の捜査にあたることとなった。
「ったく、これ以上被害出すなって、んなこたわかってんだよ、くそっ。」
子どもが被害に遭っているということもあるが、今回の捜査本部長とは昔、馬が合わなかったらしく、余計にピリピリしていた。
「いつもは私が先輩に止められるんですけどねぇ…、先輩。葵ちゃんが怖がりますから、抑えて抑えて。」
「…っ、おう…悪い。」
葵は、理由はわからないがなぜかとても怒っているおじさんを前に、すっかり平端の後ろに隠れてしまっていた。
(葵ちゃん、大丈夫。優しい人だからね。)
そう心の中で呟くと、葵は聞き分けがいいのか、こくりと頷いた。
暗くて、何もないところ。
苦しくないし、痛くもないけど、ここにいると寂しくなる。
何をしてたんだっけ、帰り道は、どこだっけ…
「はぁ……これで3人目、か。」
「そうだな。前の現場とも、そこまで離れてない。同一犯だろうな。」
平端と塚本は、遺体の前で深いため息をつく。2人の目の前には、まだ5、6歳の頃の子どもが、無惨な姿で横たわっていた。
平端が3人目、と言ったのは、この近辺で幼い子どもを狙った傷害致死及び殺人が起こっていた。1人目は重傷を負い命に別状はなかったが、2人目は搬送先で死亡、今回見つかったのが既に現場で亡くなった3人目、というわけだ。犯行がエスカレートしており、警察は特別捜査本部を設置し、塚本と平端もその捜査の担当になっていた。
「……ったく、胸糞悪い。事件に良いも悪いもないけどな、こういう子どもを巻き込んだ事件ってのが一番許せねぇ。」
「……先輩にも、お子さんいますもんね。」
塚本には、今年4歳になる娘と8歳になる息子がいる。彼の警察手帳には、子ども2人が笑って写っている写真を入れてあり、お守りのように大切にしていた。
「私に子どもはいませんけど…、この前の事件でも、子どもに怖い思いをさせる事件は一番許せないってのは同感ですよ。一刻も早くホシをあげましょ。」
「……おう。お前の『力』にも縋る覚悟でいく。正式な証拠にはならんだろうが、そこから挙げられる証拠もあるだろ。本部には報告しなくて良いが、俺には報告しろ、何でも聞いてやる。」
「了解です。」
塚本自身、当たる事件に区別はつけていないつもりらしいが、子どもが関わると特に動きが変わる。平端はそれを近くで何年も見てきた。
(とは言ったものの…)
今回の被害者である、相葉葵は、身元を確認したところ5歳の子ども。遺体のそばには、普段と同じく葵の霊が立ちすくんでいるが、どうしてこうなったのか、なぜ死んでいるのかも理解していないような雰囲気が漂っている。写真を撮られる度に、鑑識の服を掴む仕草をして、何をしてるのか、と聞きたげな行動をしている。
(今までは、しっかり恨みとか怒りとか、生きてる人間で言えば、意志みたいなのがあったから読めたところがあるんだけど…、葵ちゃんは何もわかってないのよね。話はできないし…。)
平端は初めて、霊は見えても何もできなさそうで困惑していた。何しろ、葵自身、死んでいることに気づいていないのだ。周りにはたくさんの大人が立っているが、意思疎通ができない。その状況にただ、なぜ?を繰り返しているのだろう。
塚本が本部に戻るぞ、という声をかけてきたため、平端は一先ず現場を去ろうとその場を動いた。すると、一瞬ヒヤッとした感覚が、平端を突き抜けた。振り返ると、平端の服を掴む仕草をして、見上げている葵の姿があった。
(葵ちゃん…、私があなたのことを見えてるって、気づいてる?)
葵は、平端が思ったことに呼応するように、嬉しそうに頷いた。意思疎通ができそうな大人をやっと見つけ、安心したようだった。
(そうか…、今までの霊は、大人ばっかりで、生前の思念に囚われすぎて、会話どころじゃなかった。でも、葵ちゃんは違う…。囚われるほどの生前の思念が、存在しないんだ。)
葵は、平端の考えていることが分からなさそうな顔で、首を横に傾げたが、平端は葵を安心させるため、目線を合わせ、心の中で語りかけた。
(1人だと、寂しいでしょう?一緒についておいで。)
葵は、平端の提案に嬉しそうに頷き、平端の後ろを付いて歩くようになった。車に乗り込むと、塚本は遅いぞ、とピリピリした様子で言った。
「塚本先輩。今回は霊を連れていきながら捜査になりそうです。」
「…被害者か。」
「ええ。5歳の子どもですから、今の状況を理解していないようで、鑑識や他の捜査官にひたすらついて回ってて。前も言ったように普通に会話とか事情聴取はできませんが、1人にしとくのも可哀想なので。」
「…それがいい。面倒見てやってくれ。」
塚本は珍しく、平端の突拍子もない話にも同意し、加えて、何かわかりそうなら俺に報告しろ、と再度釘を刺し、車を走らせた。
捜査本部では、今までの被害者の状況、現場に残った証拠など、捜査官達が各々拾い上げた情報を報告した。
1人目は4歳男児。改造されたエアガンで撃たれており、しかも装填されていたものが鉄製のものであったため、重傷を負った。不幸中の幸いというべきは、当たったところが腕や足であったことだろう。被害者は4歳であり、遊んだ帰り道に背後から間を開けずに何発も撃たれたことから犯人を見ておらず、犯人像を割り出すことは不可能だった。
2人目は5歳女児。改造されたエアガンで襲撃されている。犯人は狙いを定めたのか、真正面から目や下腹部、心臓のあたりを何発も打ちつけた。また、1人目の時と異なるところは、装填されているものにも加工がされており、玉が複数尖っていたことから、出血多量のショック死と判断された。2人目も、習い事からの帰り道で襲われている。
そして、今回の被害者、葵も2人目と同じく5歳。1人目、2人目と違う点は、エアガンが使われておらず、小型の刃物で複数箇所刺されたことによる失血死、と報告された。また、気絶させてから犯行に及んだのか、葵の体内からは微量のクロロフォルムが検出された。その他の情報は前の被害者と変わらず、友だちと遊んだ帰り道に襲われたとのことだった。
報告を終え、捜査本部長は、これ以上の被害を出させてはいけない、と捜査官に檄を飛ばし、それぞれの班に指示を出して解散となった。塚本と平端は、今回被害者となった葵の現場周辺の捜査にあたることとなった。
「ったく、これ以上被害出すなって、んなこたわかってんだよ、くそっ。」
子どもが被害に遭っているということもあるが、今回の捜査本部長とは昔、馬が合わなかったらしく、余計にピリピリしていた。
「いつもは私が先輩に止められるんですけどねぇ…、先輩。葵ちゃんが怖がりますから、抑えて抑えて。」
「…っ、おう…悪い。」
葵は、理由はわからないがなぜかとても怒っているおじさんを前に、すっかり平端の後ろに隠れてしまっていた。
(葵ちゃん、大丈夫。優しい人だからね。)
そう心の中で呟くと、葵は聞き分けがいいのか、こくりと頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
『☘ 好きだったのよ、あなた……』
設楽理沙
ライト文芸
2025.5.18 改稿しました。
嫌いで別れたわけではなかったふたり……。
数年後、夫だった宏は元妻をクライアントとの仕事を終えたあとで
見つけ、声をかける。
そして数年の時を越えて、その後を互いに語り合うふたり。
お互い幸せにやってるってことは『WinWin』でよかったわよね。
そう元妻の真帆は言うと、店から出て行った。
「真帆、それが……WinWinじゃないんだ」
真帆には届かない呟きを残して宏も店をあとにするのだった。
王宮メイドは今日も夫を「観察」する
kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」
王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。
ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。
だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……?
※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
ワシの子を産んでくれんか
KOU/Vami
ライト文芸
妻に先立たれ、息子まで亡くした老人は、息子の妻である若い未亡人と二人きりで古い家に残された。
「まだ若い、アンタは出て行って生き直せ」――そう言い続けるのは、彼女の未来を守りたい善意であり、同時に、自分の寂しさが露見するのを恐れる防波堤でもあった。
しかし彼女は去らない。義父を一人にできないという情と、家に残る最後の温もりを手放せない心が、彼女の足を止めていた。
昼はいつも通り、義父と嫁として食卓を囲む。けれど夜になると、喪失の闇と孤独が、二人の境界を静かに溶かしていく。
ある夜を境に、彼女は“何事もない”顔で日々を回し始め、老人だけが遺影を直視できなくなる。
救いのような笑顔と、罪のような温もり。
二人はやがて、外の世界から少しずつ音を失い、互いだけを必要とする狭い家の中へ沈んでいく――。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる